男女の会話70

「タワマンの住人」


男:こんばんは。男です。
女:こんばんは。穴雪です。
男:“アナユキ”?
女:これでいいの~♪自分を好きになって~♪これでいいの~♪自分を信じて~♪光浴びながら~♪そして屁をこきながら~♪歩きだそう~♪少しも寒くあらへんわ♪
男:寒い歌詞やなそれ。“穴雪”ってあの“アナ雪”のことか。
女:いや~ここんとこ朝がめっちゃ寒いやないですか。だから穴雪の気分になってしもたってわけですわ。
男:頼むから“アナ雪”を漢字にすんのやめてくれへんかな。
女:なんでですのん?せっかく少しも寒くあらへんようになりましたのに。
男:どうせ一歩も外に出んと家の中でコタツに入ってモゾモゾしてるだけやろ。
女:みかんも食べてますけどね🍊
男:追加すな。
女:あと屁も追加。
男:最悪なものを追加しやがったな…。
女:食べ放題&し放題ですわ。
男:やっぱり最悪や。
女:でも悩みもありますねん…。
男:悩み?ほんまかよ?
女:ほんまです。
男:どんな悩みやねん?
女:屁をこくのにコタツに入ったまんまでぶっこくか、コタツから出てぶっこくか、この冬最大の悩みどころですねん。分かります?
男:全く分からん。どんな悩みやねんそれ。
女:みなさん経験した事あるあるのはず。
男:んん~……ただ忠告しとくけど、絶対にコタツの外でやった方がええぞ。同じコタツに入ってる人のことも考えろよ。
女:一人暮らしやから大丈夫でしょ?
男:そうやけども。ほんでそんな屁が充満したコタツにばっかり入ってんと、ちゃんと外にも出なあかんぞ。
女:どうせ外に出たって寒いだけですやん。なんかええ事でもあります?
男:ええことやなくっても出て行かなあかんやろ?買い物もせなあかんし。なにより仕事せなあかんやないか。
女:仕事?仕事なんかサボればよろしいねん。
男:なにをゆーとるかキミは…。そんなにやる気のない女やったんか?
女:やる気はあります。そんなやる気がベースにあって、サボったってええやん雰囲気を醸し出してるんです。
男:なんかええように誤魔化してるけど誤魔化せてへんだけの意見に聞こえるんやけど。それにしても仕事だけはちゃんとせなあかんやろ。
女:仕事ならリモートワークって手もあります。
男:キミの仕事はリモートワークでもできる仕事なんか?
女:できない事はないです。ただやらんだけで。
男:やらんのかよ。外に出たくないってゆーてる人がなんでリモートワークもせんとわざわざ出勤しとんねん?
女:それは色々と複雑な事情があるんですよ。大人の事情が。いや、大人の男と女の事情が。
男:ないと思う。
女:ぶっちゃけて言わせていただきますと、あたしはわざわざ外に出んかっても、窓の外を見れば下々の生活っぷりが見られるわけです。
男:下々?…キミはどっか高い場所に住んでんのか?
女:まぁゆーてもチンケなタワマンですけどね。
男:チンケなタワマンなんてあるんかよ。
女:略して“チンマン”って呼んでます。呼ばれてるんやなくてあたしだけがそう呼んでます。
男:そーやろな。絶対広めるなよ、その呼び方。
女:あたしの愛のチンマンから見える景色…そりゃもう朝もまっ昼間も夜も絶景です。
男:なんか危うい言葉やな、さっきから…。
女:そんな絶景が見えるだけあって、お家賃もかなり高いですけどね。
男:そりゃそーやろ。タワマンやもんな。
女:チンマンね。
男:オレにも言わそうとすなや。
女:お家賃も高いからって『チンタカマン』とか呼ばんように気を付けてください。
男:オレはさっきから『タワマン』としか呼んでへんやろが。
女:愛のチンマンのセキュリティはめっちゃしっかりしてまっせ。
男:どんどん話を進めて行きよるな…。逆にゆーと、セキュリティがしっかりしてへんタワマンなんてないやろ。
女:チンタカマンね。
男:早速キミがゆーてもーてるがな。その呼び方やめた方がええぞ?
女:分かりました。じゃあボーダーラインはチンタワマンが妥当ですかね?
男:“チン”も要らんと思う。
女:じゃあタワマンですか…つまらん呼び名になりましたね。
男:それが世間では普通やから。だからキミも普通に呼べよ。
女:タワマン…タワマン…タワマン………マンさんのタワマンはどんなタワマンですか?
男:オレはタワマンちゃうから。勝手にタワマンにせんとってくれよ。
女:あ、そーなんですか?あたしはてっきり立派なタワーやと思ってましたわ。
男:そのなんか妙な表現もやめた方がええ。
女:あたしはやめた方がええような事ばっかりしてますのんか?
男:やっと気が付いたんかよ。遅いぞ。
女:お待たせしました。
男:そんな挨拶要らんねんて。
女:タワマンでもチンマンでもないとすると…半地下生活でっか?
男:なんでいきなりそんなんやねん?もうちょっとマシな環境のとこに住んどるわ。
女:そら残念💦
男:おいこら、残念がるなや。
女:で、あたしの愛のチンマンのセキュリティの話ですけど…。
男:また呼び方が戻っとるがな…。
女:1階のエントランスで認証を受けんと入られへんシステムになってますねん。
男:ああ、よくあるよな、そんなシステム。
女:なのでエントランスまでは誰でも入れます。
男:そこまではな。
女:マッパの上にコートだけ羽織ったおっさん。明らかにカツラを被った化粧の濃いすね毛ボーボーの女。目出し帽の男。大音量で音楽を聴きながら大声で歌う外国人。ベロンベロンに酔っ払ったミニスカの太った若い女……
男:そんなやつらばっかりかよ。そのエントランスがすでにヤバい状態やないか。
女:そうです。なにがなんでもここで食い止めなあきません。
男:住民以外なら当然入られへんやろな。
女:住民に対するセキュリティもけっこうきびすぃ~んですよ。
男:そうなん?
女:まず暗唱番号を入力します。そのあとは指紋認証、顔認証、書類審査……
男:え?それ全部認証せなあかんの?
女:餅の論太郎です。
男:なんやねんそれ。“もちろん”って言えや。
女:金属探知機、X線検査、麻薬犬による検査、場合によっては尿検査もあります。そして嘘発見器、尋問などなど…。
男:信じがたいな…。そんな設備やらシステムが全部エントランスに備わってんのか?
女:餅の論之介です。
男:普通に言えって。
女:最悪の場合は警察がきて、任意同行を求められます。
男:どんだけ物々しいねん。キミのタワマンにはよっぽどの重要人物が住んでるか、よっぽどの悪の総本山のアジトが入ってるとかやろうな。
女:後者の可能性が高いですね。
男:よりによってそっちかよ。
女:まぁそんだけの厳重なセキュリティやのに、それをかいくぐって潜入してくる強者がおるんですわ。
男:そんなことできるんか?誰やねんそいつ。
女:宗教の勧誘です。
男:いや無理やろ。そんなんが目的で潜入できるか?
女:そう思いますでしょ?でも来るんです。いったいどんなセキュリティしとんねん?って感じですわ。
男:システムがおかしいんちゃうか?
女:確かにそんな噂も耳にした事がありますが。
男:あかんやん、そのマンション。
女:あかんチンマンですね。
男:ゆーなて。
女:あ、そうそう。うちのチンマンで、今度イベントがありますねん。
男:イベント?マンションの?なにそれ?
女:2024年クリスマスイベント。チンマンに浮かび上がるサンタクロース❣
男:クリスマスのイベントか。で?マンションにサンタが浮かび上がるって?
女:そうなんです。すごいでしょ?
男:それはあれか?プロジェクションマッピングってやつか?
女:え……プロジェクションでマッパになるやつ?
男:いやそんなんないから。なんでマッパになんねん。
女:だってマッピングって。直訳すると“マッパになってんで”って意味ですよね?
男:ちゃうし。かなり強引な直訳しとるな。しかもそのシチュエーションが全然想像もつかんし。
女:とにかくそんないかがわしいイベントじゃないみたいですよ?
男:そーなんかい。なんかイベントの内容の説明とかあったんか?
女:ありました。自治会の会合で。
男:自治会…タワマンにも自治会ってあんのか?
女:ありますよ。ちなみに自治会の会長はソンさんです。
男:ソンさんって、あの孫正義?
女:いえ、損得次郎(そん とくじろう)さんです。
男:誰やねんそれ?
女:あたしからしたら孫正義が誰それ?ですよ。戦隊ヒーローかなんかでっか?
男:キミの知識の範囲と深さは、世間とは相当ズレてるようやな…。
女:とにかく自治会の会合で、マンション側とイベント主催者側から説明がありました。
男:なるほど。ちゃんと説明があったわけか。ちなみにそのイベントの企画ってどこがやってるん?
女:ソフトバンク…でしたっけ?
男:マジかよ。やっぱりソンさんか?
女:ソンさんは自治会の会長。助平な親父の損得じいさんです。
男:会長はスケベじじいなんか?それでなんで自治会の会長やっとんねん?
女:色んなイベントのうちの1つがさっきゆーたマッパのプロジェクションです。
男:マッピングな。マッパって意味ちゃうから。
女:それでですね、実際にどんな感じになるのんかのイメージをCGで見せてくれたんですわ。
男:ほぉほぉ。
女:夜の都会にそびえたつチンマン。
男:ん…なんか微妙な表現やな。
女:そのチンマンがいきなり光り輝いたかと思うと、マンションの壁面いっぱいにサンタクロースが!!
男:ほぉ。
女:あたしはそのCGを観ておや?って思いました。
男:どうしたん?
女:そのサンタクロース…いかにもサンタさんやから顔がハッキリ見えんのですけど、なんとなく観た事あるような気がしまして…。
男:そうなん?
女:で、ちょっとすんまへんなってプロジェクターに近付いてよーく見てみたんです。
男:あ、説明用のCGってプロジェクターでみんなに見せてたんか。
女:そーです。で、近くでそのサンタさんの顔を見て見たら…
男:見て見たら?
女:ソンさん…損得じいさんの助平な表情にクリソツやったんです。
男:それ間違いなく自治会長やろ。
女:あいつ…タイアップしてたんですね。
男:もしかしてなんか見返りもらってるかもよ?
女:もしかして…いやまさか…でもしかし……
男:なんやねん?
女:ハニートラップですかね?
男:それしかないと思う。
女:あの損得じじい…。
男:で、話の続きは?
女:そのサンタさんがソリに乗って、タワマンの壁面を縦横無尽に動き回るんです。
男:うんうん。
女:そしたら今度は、サンタさんがソリから飛び降りて、チンマンの1階から壁をよじ登って行きます。
男:壁をよじ登るんかいな。
女:プレゼントの入った大きな白い袋をかついで壁を上って行きます。結構スイスイとね。実際は無理でしょうけど。
男:当たり前やがな。
女:あたしはその光景を見ながら(この先一体どんなオチが待ってるんやろか?おもろなかったら文句ゆーたろか)とか思ってたんですよ。
男:そーなんかい。
女:で、途中わざとらしくバランス崩して落っこちそうになったり、突如現れたスパイダーマンと握手したり、ホウキに乗って飛んできたハリーポッターと玉の取り合いしたりと、クソな演出を見せてました。
男:玉の取り合い…あのスポーツやな。確かにクソやな。
女:徐々に上層階まで来ました。そしていきなりとある部屋の窓の中を覗き込みました。
男:覗いてんのか?あかんがなそれ。ほんまスケベなじじいになっとるやん。
女:その窓がどんどんズームアップされます。窓の中の部屋が見えました。
男:ほぉほぉ。
女:部屋の中ではクリスマスパーティーが開催されています。
男:なるほど。クリスマスやもんな。で、ちょっと待って。そのクリスマスパーティーもCGやんな?
女:そーです。部屋の中の光景は実際の光景やなくてCGです。
男:実際の光景やったらえらいことやもんな。
女:それにチンマンの壁面に大きくズームアップされてますからね。
男:そうやな。映画みたいになってるってことやんな。
女:そーゆー事です。そしてパーティーしてる人たちが、覗き込んでるサンタさんに気付き、笑顔でカモ~ン♪ってしてるわけです。
男:なるほど、部屋に入って来いってことやな?
女:はい。そしてサンタがキョロキョロしてると、その窓の横の先にその部屋のベランダがありました。サンタさんはそれに気付き、そこまで移動します。
男:ベランダから部屋に入ろうってか。
女:そうですね。そのシーンからまたズームアウトして、小さなサンタさんがとある部屋のバルコニーに近付いて行ってるシーンになります。
男:その部屋とバルコニーは実際のマンションの光景やな?
女:そーです。サンタさんだけがCGです。
男:CGのサンタがバルコニーに近付いて来たと。でも実際の部屋には入れんよな。
女:そう、バルコニーまでは来ました。そして部屋の中を覗き込んでます。そこで異変が起こりました。
男:え?異変?なになに?
女:覗き込んでる部屋からバルコニーに人が出てきました。
男:それはCGの?
女:いや、実際に住人が出てきたんです。
男:ってことは演出でもないんやな?
女:演出やないです。なにも知らずに住人が出てきたんです。
男:ほぉほぉ。
女:タワマンの上層階やから人も小さいんですが、そこをまたズームアップした映像がマンションの壁面にでっかく映し出されました。
男:アップで見れるわけや!
女:そうです。アップになった住人が見られるわけです。しかし住人は自分がアップになって壁面に映し出されてるのは知りません。
男:ああ、そうやな。
女:壁面に映し出されているのはCGでバルコニーからその部屋に入ろうとしてるサンタさんと、部屋の中のパーティーの様子です。もちろんそれらはCGなんですが、バルコニーに出てきたのは本物の住人です。
男:なんかえらいことになってきたな…。
女:住人は顔パックしてるので誰かは分かりません。
男:顔パックして外に出んなや…。
女:そしてバルコニーに立って外の景色を見ながら、おもむろに首から下げたタオルを手に取り、上半身を乾布摩擦し始めました。
男:マジかい…ちょっと恥ずかしい光景やな。
女:しばらく乾布摩擦していたかと思うと急に手を止め、寒さに背中を丸めながら部屋の中に走り込んで行きました。しかしCGでは部屋の中ではきらびやかなパーティー開催中ですけどね。
男:なんか、ちぐはぐなプレゼン映像になってもーてるやん。
女:そうなんです。で、あたしは大声でこう言いました。
男:え?キミが大声で?
女:「あたしが写ってもーてますやん!!」ってね。
男:あの住人はキミやったんかーい!!
女:はい。まだ服を着てただけ良かったものの、夏やったら裸で乾布摩擦やってまっせ?
男:夏やなくて良かったな…💦
女:映像観てあれ?って心の中で思ったんですけど、気付くのに時間がかかりました。
男:顔パックしたまんまバルコニーに出てきて乾布摩擦するって、自分やったら即分かるやろ?
女:いや、まるっきり他人事のように映像を観てたんで分からなかったんですよ。
男:信じられんな…。
女:そしてあたしのその声で映像が急に一時停止されて、ソン会長さんがあたしに話しかけてきました。
男:キミに?なんて?
女:「女さん。撮るつもりじゃなかったんですけど、いきなり写り込んでしまったんで申しわけありません」
男:だからって勝手に映像を流したらあかんやろ?
女:で、会長はこう言いました。「撮影し直すのも大変なんで、このまま使わせてもらいました。良かったでしょうか?」
男:いやそこでそんな言われてもな…。
女:あたしは「良かったでしょうかって、もうここでお披露目してますがな。今さらどーしよーもないですやん。で、イベントの出演者として出演料もらえますのん?」って言いました。
男:キミも相当がめついな。あんな形で見られて良かったんかいな?
女:まぁチンマンの住民限定ですから問題ないです。ただ、あの階のあの部屋の住人はこんなやつやってバレてしまいましたけどね。
男:確かに。住人に対するイベント説明用の映像で良かったな。
女:ただですね…
男:なんや?
女:クリスマスイベント当日にプロジェクションのマッパで映し出してる最中に、またあたしがバルコニーに出て来る可能性があるからと主催者側から心配されまして…。
男:マッパやなくてマッピングな。あの時と同じようになるかもってことな。
女:そーですそーです。で、あたしは当日、バルコニーに出禁となりました。
男:住人やのに出禁って。キミはそれでええんか?
女:謝礼ももらいましたから、まぁ良しとしましたよ。
男:謝礼かよ。まぁキミがええんならそれでええか。
女:で、あらためてソンさん会長に聞いてみました。
男:なにを?
女:「会長はソフトバンクとなにか関係があるんでっか?」って。
男:聞いたんや?それで?
女:「ソフトバンク?いや、わしは“ソストバンク”の社長ですよ」ってゆーてました。
男:“ソストバンク”!?めっちゃ紛らわしいやんけ!
女:あたしは耳の穴に指を突っ込んで掃除してもう一度聞きましたが、やはり“ソストバンク”でした。
男:まぁそうやろな。
女:で、もしかしてと思ってさっきマンションのエントランスに貼ってあるクリスマスイベントのポスターをよーく観てみたら、企画・主催が『ソストバンク』って表示されてました( ̄▽ ̄;)
男:結局…ソストバンクの社長兼自治会長の損得じじいとその会社が関わってたってことか。
女:そーゆー事でした。それでですね、マンさん。
男:なんや?
女:今度、ソンさん自治会長…いや、ソストバンク社長に、ソストバンクで採用募集してるか聞いてみますわ。もちろん社長秘書ね。
男:助平じじいでもええんやったら、採用かもな。
女:……やっぱりやめとこ。
男:そうやな、それがええと思う。じゃあクリスマスイベントがもしニュースで流れたら観てみるわ。
女:もしかしてあたしがバルコニーに立ってるかもですよ。
男:出禁ちゃうんか?
女:顔隠してたら分からんでしょ(。・ω・)ノ゙
男:怖いやつやな、キミは。じゃ今日は撤収しますか。
女:はいはい。じゃあ次は来年ですかね?
男:なんとか今年にせーや。
女:マンさんがそーゆーなら。
男:じゃまたな( ´ ▽ ` )ノ
女:はいはい、ほなね~♪

終わり