MRS11
「それ“西川きよし”やないか」

師走に入り、忘年会や買い物とかで夜の街も賑わっている。
たとえ深夜でも、繁華街には多くの人が繰り出している。
だけども…
MRSのある雑居ビルの辺りは、1件のコンビニを除いてなぜか静かで寂しい。
時々タクシーが、表通りに面した道を静かに駆け抜ける程度。
そんな雰囲気の今夜…どれどれ?
店長はいつものように仕事してるんかな?
行ってみようか。
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店長:いらっしゃいませ。
オレ:こんばんは。…つかぬことをお聞きしますが……
店長:なんでございましょうか?
オレ:あなたは店長かね?
店長:いかにも。ぼくがここ『MRS東京渋谷店』の店長『ザ・店長D』でございます。
オレ:なるほど。えらく並べやがったな。ほんで『ザ』は付けんでええから。まぁ色々並べるのはええんやけど、今キミは何やってんの?
店長:マンさんも予想ついてると思いますが、コスプレをしております。
オレ:まぁそーやろな。で、一体誰に扮してるんや?
店長:見て分かりませんか?
オレ:分からんな。
店長:じゃあ、仲間を呼べばきっと分かると思います。
オレ:仲間?
店長:おーいキミたち。ちょっと並んで。はいはい、そうそう、あなたはそっちであんたはこっち。……そうそう、それでいいよ。
オレ:おやおやおや?これは一体…?
店長:どーですか?マンさん。

オレ:分かった!!なるほど、ドリカムか👀 それにしてもそっくりやな、キミ以外は。
店長:そう言われるのは想定内でした。ぼくはどう見てもぼくですもんね。
オレ:そう、キミはまさにキミにしか見えん。
店長:だけど少しは寄せてますでしょ?…西川くんに…。
オレ:西川ってゆーんか。知らんかった…。まぁ上手く寄せてはおると思うけど、似てはないかな。だけど雰囲気は悪くないと思うで。
店長:やっぱり小さな事からコツコツとしないとですね👆
オレ:それ“西川きよし”やないか。
店長:ヘレンにも助けてもらいたいと思います。
オレ:さらに西川きよしやん。やめろや。
店長:ヘレンはハーファーですもんね。
オレ:ハーフな。キミと一緒やん。嘘じゃなければ。でも今それは関係ないからな。
店長:そしてその同じ“西川”ですが、果たしてそれは偶然でしょうか?
オレ:偶然以外なにがあんねん?たまたま苗字が同じってだけやがな。それにしても他の2人は…どっから探したん?
店長:ネットのコスプレサイトの掲示板で呼びかけました。
オレ:ほぉ…そんな上手くいくもんやねんな。
店長:よく利用しております。そして今回は「ドリカムの“二代目中村獅童”と“吉田沙保里”に似てる…と思い込んでる人を募集」って投稿しました。
オレ:……ようそれでちゃんとあの2人がゲットできたな。不思議でしょーがないわ。
店長:ぼくも不思議に思います。まぁとにかく2人にはとっとと帰ってもらいますね。謝礼を渡して。
オレ:とっととって…。謝礼もらえるとはいえ、可哀そうな扱いされとるな。
店長:何時間か拘束して、かなりの枚数のそれなりの写真も撮ってますから。
オレ:それなりって…。しかも何時間も?それも可哀そうやな。ところで、今回キミは西川くんに扮したけども、吉田美和には扮したくないんか?
店長:まぁドリカムと言えば彼女ですからね。やりたくないかと言えば嘘になりますけども…。いかんせんぼくはあんなに口がデカくないわけで…。
オレ:口って…えらい酷い言い方しよるな。
店長:きよし師匠の方が寄せやすそうに感じましたんで。
オレ:完全に西川きよし師匠呼ばわりしとるやん。
店長:オリジナルに寄せ、さらにそれを超えるってゆーのがぼくのコスプレの目的なんで、師匠に寄せても師匠を超えてみせるぞとゆー意気込みで頑張りました。フンーッ!!😤
オレ:ちょっと鼻息荒いぞ。キミにしては珍しく興奮しとるやん。
店長:コスプレの事になるとつい…。いつもは比較的冷静で色素沈着なんですけどね。
オレ:それをゆーなら“冷静沈着”やろ?色素沈着ってどこの色素やねん。もしもそれで悩んでるんならビタミンC摂れや。
店長:どこの色素って…それは個人情報ですのでちょっと…。そして特に悩んではおりません。
オレ:そう言うと思った。じゃあさ、吉田美和を超えてみろよ。そうしたらキミのコスプレの情熱のすごさがもっと分かるってもんや。
店長:……分かりました。じゃあ今度は身も心も口の大きさも目の離れ具合も吉田美和になってみます。いやそこまでは無理かな(;'∀')
オレ:いやそこまでならんでもええんやけどな。まぁどんなんになるか期待してるで。
店長:それでは、今度は西川くんと中村くんを探さないと。
オレ:またコスプレサイトの掲示板で呼びかけたらええんちゃうの?
店長:もちろんそうしますよ。そうしないと『ドリームジャンボ・マネー・カム・ヒァ~』にならないですもんね。
オレ:それを略して『ドリカム』にするには相当無理があるぞ。
店長:ぼくの中では『ドリカム』は『ドリームジャンボ・マネー・カム・ヒァ~』ですから。正確には最後に『ドンと来い』も付いてますが普段は省略してます。
オレ:欲が深いな、キミ。
店長:欲も深けりゃ毛も深い店長Dです。
オレ:毛深いんかーい。最悪やんそれ…。
店長:ところでマンさん、聞かせてください。
オレ:なにを?
店長:前回、DVDを初めてレンタっていただきましたよね?
オレ:おお、そうそう。今日はあのDVDを返却するために持って来たんや。はいこれ。確かに返却したからな?延滞してへんからな?
店長:延滞するかとほのかに期待してたんですが…エンターテイメントはいつになるのか…ちょっぴり残念です。
オレ:シャレ入れんなや、ほんで残念がるな。なにを期待しとんねん?めでたいことやろが。
店長:で、『刑事ドロンボ』はどうでした?ストーリーとか感想を聞かせてくださいよ。
オレ:えーっと…『刑事ドロンボ』な…。簡潔に言わせてもらうとあれは…刑事が事件を解決していくんやけど、結果的にその刑事がドロボーやったってオチ。だから“ドロンボ”やねんて。なんじゃそりゃ!?やろ?
店長:殺人事件ではなく窃盗ですか?…なかなか興味深いですね。
オレ:マジでゆーとんのかい?…でも、最初に犯人が登場して犯罪を犯し、それを刑事が少しずつ暴いて犯人に迫って追いつめて逮捕する…その手法は、オリジナルの『刑事コロンボ』と一緒やったわ。
店長:なるほど。
オレ:あの『古畑任三郎』もその手法やったよな。
店長:そうなんですね?マンさん的にはその手法の作品ってどうなんですか?
オレ:オレは好きやで。見てて面白いやん。犯人が焦っていく様子が。
店長:そうなんですね。じゃあマンさんは、相手にジワジワと迫って追いつめていくタイプですか?
オレ:えーっと…なんの話?
店長:マンさんが犯人に対して。
オレ:いやオレ警察ちゃうから。
店長:刑事でもない?警部補でも?
オレ:そんなわけあるかいな。
店長:もしかして…鉄道Gメンとか?
オレ:せめて麻薬Gメンの方がドラマチックやったな…。ほんで確か最初にオレ、サラリーマンって言わんかったっけ?
店長:そうですね。リーマンからマンさんと呼んでくれって流れでしたもんね。
オレ:分かってたんかーい。だけどオレがそう呼んでくれってゆーたんちゃうやん。キミが勝手にそう呼び出したんやん。
店長:とにかく『刑事ドロンボ』は好評価って事でよろしいでしょうか?
オレ:人の話をちゃんと聞けよ。ああ、なかなか面白かったで。借りて後悔はしてへん。
店長:それはそれはビューティフルサンデーです。
オレ:なんで横文字やねん。ほんで今日って日曜日か?
店長:さっきまで金曜日で、ついさっき土曜日に変わりました。
オレ:じゃあ日曜日ちゃうやないかーい。あやうく騙されるとこやったわ…。
店長:まさか~。ぼくがマンさんを騙すだなんて、あは、あは、あはははは。
オレ:その乾いた笑い方やめてくれへんかな。ちょっと不気味さを感じるから。
店長:すみません。ぼくは元々、笑うって事があんまり得意ではないんで。
オレ:うむ。確かにあんまり笑ってる顔って見んよな。たまーにぐらいか。
店長:はい。それもほんの少しですけどね。
オレ:微笑って程度かな。……もしかして店長、いや、キミの心には深い闇があるんか?
店長:心は毛深くはないと思ってますが。
オレ:毛深さの話ちゃうねん。闇よ、闇。
店長:ヤミ~?ぼくの心は深い味わいがあって美味しいって事ですか?
オレ:キミな…時々横文字使ったりネイティブな英語を使ったりするよな。もしかして日本語が苦手なんか?
店長:日本語も外国語も苦手です。あと客商売も。
オレ:あかんがな( ̄▽ ̄;)なんでそんなんでこの仕事やってんねん?
店長:不思議ですよね。これもある意味、オーナーのお陰とも言えますが。ちょっとクセが強いですけど。
オレ:またクセの強いオーナーかい。ってかキミも大概クセ強めやと思うけどな。
店長:ぼくもですか?それも不思議です。クセが強かったとしても、体臭は強くない方がいいですよね?
オレ:なんで体臭の話になるねん?いやそれはどーでもええ。またこんなことで時間が長引いてるやん。
店長:つかみはオーケーってとこですかね?
オレ:なんでつかみやねん。漫才やってるんやないんやか、つかみなんて関係ないやろ。
店長:つまみます?
オレ:なにをやねん!?
店長:『刑事ドロンボ2』です。
オレ:あれってシリーズなんか?だったらいっぺんにレンタったら良かったわ。
店長:お気に入りのようで嬉しいです。ちなみにあのシリーズは3でストップしております。
オレ:なんやねん!?たったの3で終わりかよ?じゃあ2と3両方レンタるわ。
店長:ありがとうございます。早速用意しておきます。また感想をお聞かせくださいね。原稿用紙20枚程度の。
オレ:そんなに感想言えんと思う。まぁ簡単なあらすじぐらいなら言えると思うで。さっきぐらいの。
店長:なるほど。では前回オマケとして進呈したDVD『ホームズとワトソンの秘密の部屋』ならあらすじと感想、そして考察と今後の展望も含めて本1冊ぐらい書けるんじゃないですか?
オレ:あのミステリーポルノか?いや、あれまだ観てへんし。
店長:ええ!?観てないんですか!?
オレ:なんでそんな驚くねん?なんかあんまり観たいと思わんかったから。
店長:面白いのに。
オレ:キミは観たんかーい。しかも面白いと感じたんかーい。
店長:はぁ。だってぼくはシャーロック・ホームズものが大好きなので。
オレ:いやいや、だけどあのDVDはワトソンとの同性愛やろ?ホームズものが好きなんとは次元がちゃうやろ。
店長:でもホームズですから。
オレ:同性愛は?
店長:異議なしです。それに美女も登場しますし。
オレ:前にもそんなことゆーとったな。きっとオレはその美女のシーンしか観んかも知れん。
店長:さすがマンさん。ドノーマルですか。
オレ:なんちゅー言い方すんねん、キミ。ってことはキミはノーマルじゃないんか?
店長:ノーマルですが、異世界感があって楽しめました。
オレ:ほんまかよ…。なるほど、分かった。キミが面白いと感じたんやったら、どんだけ面白いもんか観てみよう。
店長:マンさんがドハマりしたら少し怖いかも。
オレ:キミに言われたないわ!!ってか夜中に男2人でなんの話をしとんねん…。
店長:いつでも防犯ブザーを鳴らせるようにしてますから。
オレ:キミ、防犯ブザー持ってんのか?
店長:あくまで防犯の意味ですけどね。
オレ:他の意味がよう分からんけどな。そういった護身グッズみたいなん、他にも持ってんのか?
店長:まぁ意識は高めですけど、内容は言いません。手の内を見せるわけにはいきませんから。
オレ:手の内て…まるでオレから身を守ろうとしてるみたいやないか。ゆーとくけどオレは男を襲うなんてありえへんぞ。
店長:ぼくがマンさんから身を守ろうとしてるんなら、夜中にこんな店の中で2人でいませんし、こんな仕事もしてませんよ。
オレ:それはそうか。確かにな。でも逆に思ったんやけど…
店長:なんでしょうか?
オレ:女性客も来るんやろ?
店長:それはもちろんです。
オレ:こんな風に夜中に女性客が一人で来店する時ってあんのか?
店長:夜中に限らずですけど。もちろん夜中もあります。
オレ:それこそなんか危ないよな。
店長:ぼくの身がですか?
オレ:なんでやねん!普通そこは女性の身が心配になるやろが。
店長:マンさん考え過ぎですよ。いちいちそんな事を気にしてたら、フランシスコ・ザビエルみたいになりますよ?
オレ:遠まわしに頭頂ハゲって言いたいんか?やめろやめろ。
店長:でも少なからず……👀
オレ:オレの頭頂を後ろから覗き込みながらゆーな!!失礼なやつやな。
店長:マンさんが色んな事に対して気にしてるからです。もうちょっと気楽になりましょう。
オレ:ありがとう。そうやな、気楽にならなあかんな。そーゆーキミは気楽なんか?
店長:神経すり減らしてます。
オレ:オレに気楽になんて言えんやないかーい。店長、大丈夫か?
店長:大丈夫です。でもたまに変な言動があるかも知れませんので、その時はすみません。
オレ:ああ、それはもう経験してるから大丈夫。
店長:なら安心です。
オレ:安心してる場合かよ。まぁ少なくともオレみたいな客に神経すり減らさんでもええから。今だけでも楽しんでやってくれ。
店長:マンさん…優しいですね。まるでぼくのおじいちゃんみたいです。
オレ:オレってどんだけ年上やねん!?いや絶対に年上なんは分かってるけどさ。
店長:違いますよ。優しかったぼくのおじちゃんのようだという意味だったんですけど。
オレ:ああ、そっちの意味な。キミのおじいちゃんは優しかったんか。
店長:貧しく優しかったです。マンさんとダダ被りですね。
オレ:貧しさも被ってんのかよ。確かにオレは裕福ではないけど。
店長:それは冗談です。東ベルリンジョークです。
オレ:そんなジョークあんのか?…あ、キミのおじいちゃんは旧東ドイツのベルリン出身ってゆーてたな。
店長:覚えてくださいましたか。
オレ:だけどあれは嘘やったんちゃうかったっけ?
店長:そこは本当です。
オレ:ややこしいな…。あんまり嘘を交えんなや。
店長:気を付けます。
オレ:さて、なんかダラダラと話し込んだけど、今日はこれで終わりにしようかな。
店長:もう疲れましたか?
オレ:うん、少し疲れてきたわ。キミは朝までここで仕事やろ?よう疲れへんよな。
店長:若さで乗り切ってます。
オレ:なんか腹立つな。
店長:それだけではありません。仕事しながら趣味の研究もさせていただいていますから。
オレ:趣味の研究?ああ、コスプレの?
店長:はい。もちろん趣味はコスプレだけではないですけどね。
オレ:他の趣味って?
店長:話せば長くなるので、そこはまたおいおい。
オレ:キミはいつもそうやって曖昧に濁すよな。
店長:謎は多い方が飽きられにくいですから。
オレ:謎とはちょっとちゃうと思うけど。ほんで、知ったからって飽きるかな?
店長:飽きます。必ず。
オレ:オレはそうは思わんけど、まぁキミはそう思ってるんやな…。
店長:では、レンタっていただくDVDの用意しますので、レジの方でお待ちください。
オレ:ってゆーか、ここレジやけどな(´゚д゚`)
店長:なんて事ですか!!ずっとここで立ち話してたんですね!?
オレ:そうみたいやな…。そりゃ疲れるわ( ̄▽ ̄;)
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オレ:今夜の店長はその恰好やから、普通に階段の上まで見送ってくれるんかな?
店長:はい。西川のりおですから。
オレ:また変わっとるがな。ドリカムの西川くんやろ?
店長:そう、西川くんです。似てないですけど。
オレ:おや?
店長:どうしました?マンさん。
オレ:階段上がって上まで来たところで、あっちの角に立ってた人影が慌てて隠れたように見えたんやけど…。
店長:……気のせいのですよ。マンさんが疲れてるだけです。
オレ:そうかな…。まぁええか。じゃありがとう。このDVD観るからな。
店長:感想よろしくお願いします。それではまたのお越しをお待ちしております。
終わり