MRS-2
「レンタりますか?」



先日の深夜、オレはちょっと前から気になっていたMRSという不可解な店に初めて行ってみた。
まぁとにかく変わった店やった。
そしてなによりも一番変わってたのは、他ならぬあの店長やった。
終始あの店長の妙な、人をおちょくったような話に飲まれっぱなしで、店の雰囲気を見られる状態ではなかった。
今夜は店長のペースに惑わされることなく、しっかり店を探検してみたいと思う。


----------

店長:いらっしゃいませ。
オレ:こんばんは。また来てみました。
店長:お待ちしておりました、永遠にお客様D“の”マン様。
オレ:Dはもういいです。ほんで“様”やなくせめて“さん”にしてくれませんかね?
店長:ヨン様みたいで嫌ですか?『冬のそなたは誰じゃ?』みたいな。
オレ:古い韓流ドラマみたいやな。タイトル全然ちゃうけど。
店長:タイトル間違ってました?『夏のわらわは』もあっても良さそうですけど。
オレ:わざと間違えてゆーたんちゃうんかい。ほんで勝手に続編みたいなん作るなよ。ところで店長、こないだとは随分雰囲気が違いますね。
店長:せめて“店長D”と呼んでもらえると嬉しいんですが。
オレ:Dはもうええってゆーてるやろ。しかし…あまりにも恰好が違うんで誰か分かりませんでしたよ。
店長:ああ、あの時は気まぐれでコスプレしておりましたんで。
オレ:気まぐれでベルボーイのコスプレて…。店長のコスプレはなんでもあり?
店長:その時の気分次第ですから。
オレ:なるほど。じゃあ今夜はそんな気分ってことなんですね?
店長:こんな気分です。
オレ:ふ~ん…その恰好はまた……一体どういった気分?














店長:ビクトリア朝時代の紳士といったところでしょうか。
オレ:あー…まぁ確かにそんな雰囲気ですかね…ってか、オレはビクトリア朝についてあんまりよう分かってへんけども。
店長:まぁ大体こういった感じでしょう。
オレ:肝心なところは曖昧な店長やな…。
店長:あ、先にゆーておきますが、右のヒゲを切り過ぎちゃったんで、あんまり間近では見ないでください💦
オレ:見ないです。そんな失敗談に興味ないんで。ところで、その背景はどうしたんですか?
店長:この背景も用意しました。写真スタジオみたいに本格的な気分で撮影もできますよ。
オレ:なるほど…もうここまでくるいっそのことこの店を、コスプレができて写真撮影もできるスタジオかなんかにした方がええんちゃいますか?
店長:スタジオアリスみたいな?
オレ:それってコスプレちゃいますけどね。
店長:勝手にそんな事はできません。オーナーの指示に従わないと。
オレ:じゃあ店長がそうやって気分でコスプレするのは、オーナーの許可を得てるってこと?
店長:許可はちゃんと得ています。ぼくの趣味を認めて頂けてるので、いくらクセが強いとはいえオーナーには感謝してます。
オレ:感謝してるんやったらクセが強いとか余計な言葉付け足すなよ。
店長:こっそり言いますけど、オーナーもコスプレに興味あるっぽいですけどね…。
オレ:ええ(◎_◎;)店長も店長ならオーナーもオーナーですやん💦
店長:良かったらマンさんもやってみます?
オレ:コスプレ?いやいや勘弁してくださいよ。それよりもこないだこの店の中をちゃんと見られんかったんで、今日はよーく見せてもらおうと思って来たんです。
店長:なるほど。それはありがとうございます。ところで、素敵なお方も同伴されて、今夜は特別な夜ですか?
オレ:その言葉で特別な気持ちになってもーたわ!!やめてくれよ怖いって!!💦
店長:ああ、同伴と見せかけて本当はお一人様ですね?あらためていらっしゃいませ。
オレ:あらためて言い直さんでええて。余計に怖さ倍増やわ💦
店長:ぼくは仕事でこのカウンターの中からお話させていただきますので、なにかありましたらお声かけください。ただしナンパは受け付けしかねます。
オレ:なんでオレが店長をナンパすんねん?意味分からんし。ほんでその恰好で仕事しにくくないんかな…。まぁええけども。
店長:ご心配なく。ではごゆっくりどうぞ。
オレ:いきなり放置かい…。まぁええ。ちょっと探検させてもらおうか。…えっと、この奥を進めばいいんですね?
店長:そうです。店内は狭そうに見えて実は広そうに見えて本当は意外と広いです。
オレ:ややこしいけどなんとなく分かった。

-----------



オレはちょっとドキドキしながら、初めて店の奥に進んで行った。
そしたらなんとまぁ、こんなに立派なDVDのコーナーがあったではないか。



これならなにか面白そうなDVDが見つかるに違いない。
オレはたくさんの棚を眺めながら思わず唸ってしまった。


-----------

オレ:う~ん、さすがレンタルショップ👀✨王道のDVDのレンタルもやってるんですか?
店長:もちろんです。棚が見えますか?新作、旧作、色々取り揃えてます。
オレ:なるほど。確かに新作の表示がありました。じゃあちょっと新作の方を見てみようか。
店長:穴が空くほどじっくり見てください。もし穴が空いたら弁償してもらいます。
オレ:穴が空くほどってどんだけ眼力あんねん。そこまでガン見するかいな。しかも弁償せなあかんのかい。
店長:弁償は冗談です。たまには冗談もいいもんでしょう?
オレ:会話の内容のほとんどが冗談みたいな内容やけどな。
店長:それはナイスです。
オレ:どこがナイスやねん。……このDVDタイトル、なんか気になるな。
店長:なんとゆータイトルですか?
オレ:『クルーズと藤尾』やって。なんやろ?地味とゆーかシュールとゆーか…。
店長:マンさん。それは日米合作の映画です。なかなかいい作品に目を付けましたね。
オレ:ええ作品なん?パッケージにはタイトルしか書かれてへんねんけど。
店長:もしよろしければぼくが簡単に説明しましょうか?
オレ:ああ、頼みます。
店長:“クルーズ”ってゆーのは猫なんです。正確に言えば“猫役”です。
オレ:猫役?人間が猫の役をやってるってこと?
店長:そうです。そして“藤尾”ってゆーのは“ネズミ役”です。
オレ:どっちも人間かいな。それぞれが“猫役”と“ネズミ役”を演じてるんやな?。
店長:そうです。猫とネズミとゆーぐらいですから、物語の最初から最後まで“クルーズ”が“藤尾”を追っかけ回すパターンのストーリーです。
オレ:なんか変わった映画やな。しかも藤尾って日本人みたいな名前やし。
店長:ちなみに猫の“クルーズ”はトム・クルーズ。ネズミの“藤尾”はジェリー藤尾がそれぞれ役を務めております。
オレ:どんな組み合わやねんそれ。
店長:そのミスマッチが面白いでしょ?
オレ:おもろいか?……ってあれ?ちょっと待って…。
店長:どうかしましたか?
オレ:猫の“クルーズ”がトムでネズミの“藤尾”がジェリー……ってことは……
店長:って事は?
オレ:トムとジェリーやないかーい!!
店長:さすがマンさん。わりと早く分かりましたね。ぼくなんてそれに気付くまで5年ほどかかりましたわ。
オレ:そんなにかかったんかい、相当鈍いな…。って、このDVD新作ちゃうかったっけ?
店長:元々はすでに旧作だったんですが、藤尾さんがお亡くなりになったんで、追悼の意味で新作扱いにしたんです。
オレ:お亡くなりにって、それもう数年前やけどな。
店長:そろそろ準新作にした方がいいですかね?
オレ:旧作やろ、完全に…。
店長:マンさん、そのDVDレンタります?
オレ:レンタりますってどーゆー意味?初めて聞く言葉やぞ。まぁなんとなく意味分からんでもないけど…。
店長:流行らしたいなと思いまして。
オレ:絶対流行らんやろ。レンタるかどうかはちょっと考えさせて。でもなんとなく気にはなる映画かな…。
店長:ぜひレンタってほしいです…。そしてレンタった感想が聞きたいです。では他の作品も物色してください。
オレ:相変わらず変な会話やな…。じゃあ他のも見てみよっか。
店長:つかぬ事をお伺いしてもよろしいですか?
オレ:つかぬこと?なに?
店長:こーゆー所でこーゆー風に物色してたら、ジワジワ~っとう☆こしたくなりません?
オレ:ほんまつかぬことやな。ってか客にそんなこと聞くか?
店長:すみません。同志かなと思いまして。
オレ:同志とかゆーな。もしそうでも言わんわ。
店長:隠れ同志ですね?
オレ:カッコよくないぞ、そのワードも。
店長:密かに革命の準備してっぽいですね、マンさん。
オレ:なんでレンタるって言葉使うだけで革命とかになるねん?意味が分からんわ。
店長:マンさん、実はぼくはそれなんですよ。
オレ:それって?
店長:う☆こしたくなる人なんです。
オレ:そらまぁさっき“同志”とかゆーてたからな、そうなんやろうな。でもなんでオレがそんな話を聞かされなあかんねん。
店長:マンさんはそんな人じゃないとでも?
オレ:そんな人ちゃうから。
店長:あー…同志じゃなかったか…_| ̄|○
オレ:いちいち面倒くさいな。
店長:あ、マンさん。
オレ:今度はなに?
店長:マンさんの後ろの棚の上の方を見てください。
オレ:後ろの上?……見たけど。それでなんなん?
店長:マンさんが同伴した人が棚の上に座ってます。
オレ:やめろって!!要らんもの見るな!!ほんでいちいちオレに教えるな!!
店長:分かりました。申し訳ございません。今度から目で追うだけにしておきます。
オレ:追うなて。
店長:その同伴者が座ってる棚の下には、名作揃いの旧作が並んでおります。
オレ:嫌な棚やな。さっさとここから離れたい気分やわ…。
店長:じゃあ今日はやめときますか?
オレ:DVDはまた今度にする。他のを見よう。
店長:分かりました。ごゆっくりどうぞ。

オレ:ん~、なんか小物がいっぱいテーブルの上に並べてあるな。この綺麗な箱は一体なんやろ?手に取ってみてもええかな?



店長:もしかして金色の小箱ですか?
オレ:そうそう。ちょっと触ってみていいですか?
店長:やらしい触り方しなければオーケーです。
オレ:やらしい触り方って……一体どんな触り方やねん!?小箱に痴漢してどーすんねん?
店長:痴漢行為をしようと思ってたんですか?
オレ:思ってへんわ!!痴漢とか、意味がさっぱり分からん。
店長:ぼくにもさっぱり分かりません。
オレ:だったらゆーなよ。
店長:好きなだけ…思う存分触ってください。
オレ:なんか淫靡な言い方やな。
店長:わざとです。
オレ:そやろな。じゃ、触ってみるで。
店長:はい。息を止めてじっと待ってます。
オレ:店長を触るわけじゃないから。
店長:あ、そうですね。なんか勘違いしてました。
オレ:とんでもない勘違いやぞ…。えっと、重さはそんなに重くないな。箱の蓋を開けてみたら…蓋の裏には鏡があった。ほんで箱の中には小さなハサミが一つあるだけ。
店長:その箱の名前は『チョッキン箱』と言います。
オレ:『チョッキン箱』?えっと…この箱は貯金箱なん?
店長:名前の響きは似てますが、まったく違います。
オレ:うーん…じゃあ一体なに?
店長:分かりやすく言いますと…マンさんの目頭の蒙古ヒダをそのハサミでチョッキンする箱。
オレ:なんやねんそれ!めっちゃ怖いやん💦ほんでなんでオレの目頭やねん。
店長:正確にゆーと、その鏡を覗き込んだ人が対象ですけどね。
オレ:そらそーやろ。で、目頭の…なんやったっけ?なんかのヒダをこのハサミで切るんか?
店長:正解。
オレ:……なんでそんな箱がここにあんの?誰か借りんの?ほんで今まで誰か借りたことあんの?
店長:あのですねマンさん。レンタルショップのレンタル商品を、今まで誰が借りたとか公開します?
オレ:まぁ普通はせーへんかな?
店長:そーゆー事です。
オレ:だけどこれって普通の道具ちゃうやん。
店長:だってジョークですから。
オレ:…ジョーク…。キミがさっき説明したこの箱の意味がジョークって?
店長:そうです。この箱は見栄えがとても綺麗な箱。その中へハサミを入れといて、さっきのジョークをゆーて、そういう用途の道具…って事に仕立て上げてみただけです。
オレ:………ジョークか。ジョークね。なるほどね。
店長:レンタりますか?例のDVDと一緒に。
オレ:レンタるかーい。あかん、今夜はもう疲れた。
店長:閉店ガラガラ~されますか。
オレ:店長もそうするか?
店長:ぼくは朝まで営業してます。
オレ:そうか、まぁ頑張ってくれ。おそらくまたいつか来ると思う。なんでそんな気持ちになるんかよう分からんけど。
店長:きっと来ますよ、マンさんなら。
オレ:なんか腹立つな。まぁええ。じゃ帰るわ(。・ω・)ノ゙
店長:あ、同伴のお連れ様が慌てて飛んできましたよ。
オレ:飛ぶんかい!!いちいち怖いな!!怖いからキミも上まで一緒に来てや👆
店長:分かりました、お供いたします。
オレ:ありがとう。
店長:それではまたのお越しをお待ちしております。
オレ:上に上がって見送る時に言えや。

終わり