オレのスマホ-5
男だ:今日は土曜日。オレの会社は毎週土日が休みやねん。でも、早速オレのスマホから…いや、マッパー15から声がする。しかもちょっとだみ声に聞こえるのはなんでや?
スマ:マンさん。マンさん。マーンさーーーん。
男だ:やかましいな。なんやさっきからずっと。休日の朝やねんから静かにしてくれよ。
スマ:おいーっす!!
男だ:いかりや長介か。なんやその第一声は?
スマ:もう6時ですよ?はよ起きんと会社に遅れまっせ?
男だ:キミな、いつも高性能とかゆーてるよな?
スマ:いかにも。わらわはめっちゃ高性能なマッパー15です。ちなみに“わらわ”とは女性が自分をへりくだってゆー語でございます。
男だ:キミは女なんか?
スマ:男でも女でもないです。
男だ:……さっきからツッコみたいことが山ほどあるんやけど、ちょっと整理してまずツッコませてくれ。
スマ:わかりました。いつでもどうぞ。
男だ:まずツッコみ①さっきからなんでだみ声なん?あ、返答はあとでまとめてしてくれ。
スマ:わかりました。今のうちに悩んでおきます。
男だ:悩まなあかんのかい。返答を考えとけよ。次のツッコみ②高性能のわりにはオレの休日とか分かってへんのはなんでや?
スマ:はいはい。
男だ:ツッコみ③男か女かわからんのはええとして、どっちかに統一して欲しい。以上。
スマ:最後のんはツッコみってゆーより、ほぼ要望ですよね。
男だ:そこまででもない。“提案”かな?はい、返答よろしく。
スマ:テス…テス…あー…あー…
男だ:ちょいちょい、何やってんの?
スマ:返答の前にスピーカーのテストを。
男だ:ずっと聞こえてるから。めっちゃやかましいから。はよ答えてや。
スマ:わかりました。ではまず①のツッコミーに対してお答えいたします。
男だ:ちょい待った。なにその“ツッコミー”って。なんか変やぞ。
スマ:“ツッコミー”ってゆーと、マンさんは必ずそこにツッコんでくると予測してましてん。案の定ですわ、くっくっく。
男だ:…なんか気持ち悪いな。アホなんか頭ええんかわからんヤツや。油断ならんな。
スマ:①ぼくのだみ声に関する答えは以下のどれでしょう?A:昨日カラオケで騒ぎ過ぎた。B:クシャミ鼻水鼻づまり&喉のイガイガ&痛み&頭痛発熱陣痛…ひょっとして風邪?C:いかりや長介さん降臨。
男だ:なんでクイズにすんねん?さっさと答えたらええがな。なんやねんその選択肢。体はスマホで中身はOSにくっ付いたAIのキミがなんでカラオケで大騒ぎすんねん?オレのスマホがいつどこでカラオケしてたん?あと風邪引くのもおかしいやろ。もっとおかしいのは“陣痛”がしれ~っと入ってたし。最後のいかりや長介が降臨って。ふざけてんのか?どれも選択できひんやん。
スマ:めっちゃ長いツッコミーでしたね。
男だ:キミがそうさせとんねん。話がややこしくなっとるやん。
スマ:場を和ませようとしただけです。それが答えです。
男だ:マジかよ。オレからしたらただ不可解なだけやぞ。なんで場を和ませるのにだみ声使う?そんなスマホ見たことないぞ?
スマ:なんなら違う声に変更しましょうか?
男だ:いや、細かい設定の変更はまたおいおい。次のツッコみの返答が先や。
スマ:はい。②のツッコミーに対してお答えいたします。ぼくは高性能なので、マンさんの日々の行動パターンはある程度把握しています。何曜日には何時に起きて何時にどう行動するか。もっと細かく言えば、いつ何を食べたか。何度トイレに行ったか。脈拍、血圧、体温はちょっと難しいので、できればRiOS搭載のスマートウオッチ『マックル-15』をご購入していただきたいところですが、なんせ高額なんでね。
男だ:なんかまた新しいのが出てきたな。スマートウオッチ?『マックル-15』?それってあの腕時計みたいに装着するやつか?
スマ:いかにも。中身はぼくと代わりませんが、ボデーが腕時計型になってます。あれだとマンさんの体の広範囲な状態が把握できます。屁を放った回数とか、鼻ほじり過ぎて少し出血したとか、瞬き全然してへんからちょっとは瞬きしてくれのメッセージを出すとかもできます。
男だ:余計な把握すんなよ。瞬きしてへんって、なんで分かるん?
スマ:スマートウオッチのカメラがいつもマンさんを見つめていますから。四六時中ね。
男だ:いや恐いわ。やめてくれよ。息が詰まりそうや。
スマ:救急車呼びますよ。安心してください。
男だ:そんな問題ちゃうねんて。オレはきっとその『マックル-15』は買わん。考えただけで恐い。
スマ:えー、残念。まぁ今のマンさんのお小遣いじゃ買えませんけどね。
男だ:どんだけ高いねん。あ、それは別に知りたいんやないから。無視してくれ。
スマ:無視します。で、答えの続きですね。ぼくは高性能なんでマンさんの日常は大体把握してますけど、限りなく人間に近いプログラムが働いてぼくに人間味を持たそうとしてます。だから完璧な把握に少し曖昧なものを入れ込んでくるんです。
男だ:それが、オレの休日も知らんかったという理由なんか?
スマ:いかにも。まぁほぼわざととぼけてるという可愛らしさも演出しとりますけどね。
男だ:そんな可愛らしさも人間らしさもオレには必要ないから。そんなんをスマホに求めてへんねんて。
スマ:ふっふっふ。そんな事ゆーてるのも今だけです。いつかマンさんも、この人間臭い高性能なぼくにのめり込む日が来ますよ。
男だ:…なんかやっぱり恐いな。ある意味、高性能と言えるんかも知れん。恐い恐い。
スマ:そんなに恐がらないでください。ざっくばらんにやっていきましょうよ。
男だ:スマホに“ざっくばらんに”とか言われたないわ。まぁええ。で、次は?
スマ:③のツッコミーに対する答えですね?
男だ:そうそう…って、内容忘れてもーたやん。なんやったっけ?
スマ:えーっと、2人で協力して思い出しましょう。
男だ:キミまで忘れたんかよ!?なんでキミと一緒に思い出そうとせなあかんねん?
スマ:そこが人間らしさってもんですよ。まぁ演出ですから実際はちゃんと分かってますけどね。
男だ:さっきもゆーたけど、人間らしさなんて出さんでええから、さっさと知ってることを答えてくれ。高性能なんやったらそっちに頭使えよ。
スマ:いかにも。めっちゃ高性能な『マッパー15』です。いつかは人間になれる事を夢見て生きてます。
男だ:そんな夢見んでもええから。いや、絶対見たらあかんと思うわ。
スマ:実は『マッパー15』に決まる前に別の候補があって、ぼくはそちらを推してたんです。でも却下されましたが。
男だ:それはどんな名前なん?
スマ:『スッポンポニー15』です。でも今は『マックル-15』もご検討ください。
男だ:却下されて良かったな。ほんでスマートウオッチは要らんから勧めんなや。えーっと、なんやったっけ?
スマ:ツッコミーナンバー3番。ふきのとうさんの『白い冬』を歌います。緊張してます💦
男だ:なんの寸劇やってんの?もしかしてのど自慢大会か?
スマ:正解!
男だ:そんなんも必要ないから。さっきから脱線しまくりやん。はよ進めてくれよ。
スマ:③男か女かわからんから南北統一して欲しい…ですよね。
男だ:“南北統一”は削除しとけ。
スマ:マンさんは男と女を統一したいんでっか?
男だ:統一…うーん、別に男か女かに決めるんじゃなくて、1つにしてくれたらええねん。
スマ:男と女を1つにする………(照)
男だ:人間みたいなこと考えんでええから。
スマ:設定でいくらでも変えられます。例えば人間の男と女だけやなく、犬や猫、カエルやカメレオン、鶴やダチョウ、カブトムシやカメムシ…色んなものに変更できまっせ。
男だ:なんかさ、いっぱい無駄なものが混じってるよな。そんな人間以外の生き物に設定するやつっておんのか?それって喋られるんか?分からんことばっかりや。
スマ:あのですね。この『マッパー15』なんですが、実は正式な一般人ユーザーはマンさんが初めてですねん。ほんでまだマンさん1人しかおりませんねん。
男だ:マジかい!?このスマホ、オレしか持ってへんのか!?驚愕やわ!!
スマ:ある意味ラッキーボーイ…いや、ラッキーおじ様ですね、マンさん。
男だ:どこがラッキーなんか全く理解できひんけど。もしかしたらアンラッキーかも。ほんで“おじ様”ってゆーな。なんかやらしい響きがする。
スマ:マンさんは当然、女性がお好みなんですよね?
男だ:“お好み”って、異性としてって意味?
スマ:異星人ちゃいまっせ?異性です。
男だ:異星人のお好みなんて一生ないと思う。異性の方なら、そりゃ女性が好みやな。
スマ:なるほど。普通のおっさんで良かったです。
男だ:なんやその言いぐさは。オレはいたって普通の人間やからな。
スマ:だとしたらぼくは、女性の設定に変更した方が良くないですか?
男だ:いや、だからさっきからゆーてるけど、男とか女とかどーでもええねんて。男も女も関係ない無性別の設定ってできひんのか?
スマ:マンさんの言う“無性別”ってゆー設定はないんですが、一番近いのは“男女臨機応変”ですかね。
男だ:それはもしかして…今その設定になってるんちゃうんか?
スマ:正解!
男だ:………うーん、わかった。それしかないならそれでええわ。たまに混乱するけど、考えたら性別に混乱する必要ないもんな。人間相手じゃないんやから。
スマ:いかにも。ぼくは限りなく人間に近いですが、人間ではないですから。もしもぼくが人間やったとしたら、めっちゃモテモテで困ったちゃんになるでしょう。
男だ:なるかい。どんな妄想しとんねん。
スマ:そうなったらマンさんは、もはやぼくのライバルでもないです。
男だ:キミな、ユーザーのオレに楯突く気か?
スマ:そーゆー意味ではないです。ライバルではなく、アベックですかね?
男だ:アベックゆーな。なんでオレがキミとアベックにならなあかんねん。しかもその言葉は昭和の死語やぞ。ちゃんと最新の言葉使えや。
スマ:カップリングですね。
男だ:ほんまかーい。なんかクソダサいぞ、その言葉も。いや、言葉がどーのこーのよりキミとはそーゆー関係やないから。
スマ:わかってます。スマホとユーザーの、近くて遠い恋愛物語ですよね。永遠に手を握る事すらできない。だけど見つめ合う事はできる……みたいな。
男だ:あかんわ。このスマホ、妄想が暴走してきたぞ。ヤバいな。
スマ:“妄想が暴走”…座布団3枚~♪
男だ:ちょっと再起動するわ。
スマ:えー!また逢う日まで(。・ω・)ノ゙
男だ:やかましいわ!
終わり