ゆっくりと背を伸ばす造りかけのビルは四面ガラス張りで、残暑の鮮やかな空と雲を映している。
高い空を見上げ、いつの間にかビルは空になっていた。
夕方の少し温度の下がった頃に何時もの様に、でも何時もとは少し違うふうに自転車のペダルに足を掛ける。
真直ぐな大通りを走る自転車はどんどんと速度を上げ、ビルの屋上に太陽が到着する頃には風になっていた。
こころを何に例えよう。
生まれ育った体に宿る、こころを何に例えよう。
出会う人々が私のこころに種をまく。
言葉のひとつひとつが種となってこころに入っていく。
大きく育つ芽、奇麗な花を咲かせる芽、他と共存しあい生きていく芽、
枯れてしまう芽、出てこない芽、力強く生き続ける芽、
こころという場所に、たくさんの芽が出、育っている。
どうか美しい花や木々でいっぱいになりますように。
どうか良き言葉がこころに届いてゆきますように。
ビルとビルの間を抜けて吹く風はやがて空高く舞い上がり、風もまた空になった。
太陽が地平線の向こうに消えていくのを想像しながら。