板倉光馬さん
以前サントリーの良くない話を書いたので、
角瓶のちょっと良い話を…。
元海軍軍人でして板倉光馬(いたくらみつま)という方がまだ若き頃の話。
休日、陸でさんざん飲んだ後、艦に戻る渡しの船の出発を待っていた。
冬の寒い中、外で待たされている水兵を日頃から可哀想に思っており
水兵の鬱憤の代わりにとは言え、酔っ払った勢いもあったが、
いつも門限をやぶる艦長を殴ってしまった。
あくる朝、艦長室に呼び出され「海軍を辞めろ」と、
いわれるのかと思いきやそうでは無く、
その艦長は自分が殴られた理由を理解し、
逆に自分達上官の綱紀粛正を上申した。
後でその事を知って板倉光馬は泣いた。
時は流れて、太平洋戦争当時の作戦行動。
懐かしいあの艦長が、孤立した島の隊長として取り残されている。
餓死の危機から救う為、その時は潜水艦の艦長だった板倉光馬は、
自ら名乗り出て物資輸送を買って出た。
その時、自分の財布をはたいてタバコとサントリーの角瓶を山ほど買って届けた。
あの艦長は薄い水割りにしてみんなでウイスキーを回し飲みした。
感激してあの艦長は泣いた。
戦後だいぶたってからの話。
あの艦長は死の床にいた。
話が出来無くなっていたあの艦長は床の間を指差す。
そこにはあの角瓶の空ボトルと一輪挿し。
「あの人は戦地から何も持って帰ってこなかったけれど、
あのビンだけは大事にもって帰ってきました。
『これはあの板倉がくれたものだから』…」と、
奥さんが語る。
このエピソードを聞いたみんなが泣いた。(小)