熊の目線
俺、熊です。
ツキノワグマをここ4~5年やってます。
今流行の「アラゴー」ってヤツかな。
最近、熊の世界も不景気でエサに困ってんのよ。
な、なんでこんなところに家建ってるの?
そこってさぁ、この前まで俺のエサ場じゃないっすか。
それにお前らスギやヒノキ植えすぎ。多すぎ。
頼むから広い葉っぱの木は切らないでよ。
ドングリ無くなって…腹へって…。
だからさぁ、生きる為だし、転々とする訳よ。
それでもやっと良い話で、最近のエサ場ってちょっと良い訳よ。
弁当とか残り物がいっぱいあって、ちょっと味が濃いけれど毎日腹いっぱい。
でも今日さぁ、いつものように機嫌よくエサをアサってたら、
突然人間が俺を見て奇声を上げる訳よ。
日中はさすがにまずいかなと思ったけれど、
大声出されたら俺だって怖いよ。
だからさぁ、つい…、ガブって…。
(中略)
俺、逃げたんだ。それでも人間がいたんだ。
しかも人間が大勢で囲むし、ピカピカって光で威嚇してくるし(フラッシュって言うらしい)
何かの物陰に隠れようって、隙間にもぐりこんだんだ。
そしたら、また人間がいっぱいいて、
ワーワーキャーキャーうるさいわ、何かの棒で叩いてくるわ、
またピカピカって光で威嚇してくるわ。
俺が何をしたっていうの?
腹減ったからエサ食ってたら近くに人がいたので、
口の中に物入ったままで行儀わるいけれど「がおー」って挨拶したのよ。
子供の頃、母(熊)に躾けられた訳よ。
「ちゃんと挨拶をしなさい」って。
そしたらあんたらが奇声を上げて威嚇してきたから、
身を守る為だもん、仕方ないじゃんか。
それって何、正当防衛っていうんじゃないの?
「っ痛ぇ」
何で撃ってくるの?あんたら何なわけ?
「痛ってぇ。また撃ってきやがった」
遠ざかる意識の中で、
俺は母がこんなのとも言ってたなって思い出す訳よ。
「口の中に物入ったままでしゃべっちゃいけないよ」って(熊)