監督♯18のブログ

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「甲子園には魔物が住んでいる」

甲子園で行われる、全国高校野球選手権大会において、
通例では想像しがたい、試合展開やプレーが発生したときに使われる、常套句だ。

魔物は、それまで完璧に抑えていた好投手を豹変させ、9回二死から崩れさせる。
魔物は、優勝候補の筆頭である強豪校を、無名校によって初戦で沈めさせる。
魔物は、何でも無いファールフライを落球させ、サヨナラの場面で、ありえないボークを誘発させる。

甲子園でしか起こりえない、それは、いつからか魔物の仕業になっていた。


そんなとき、しばしば、こう実況されるのだ。
「これが、甲子園の魔物の仕業なのか!」と。

もちろん、阪神甲子園球場に特別な仕掛けがあるわけではない。
特徴は、ライトからレフトに浜風が吹いているくらいで、
阪神タイガースが本拠地にするほどの、非常に整備された球場である、

では、魔物とは何だろうか?
ヤツの正体を、暴いてみたいと思う。


まず、高校野球の特異性について、考えてみたい。

高校野球における、最も大きい(選手が目標とする)大会は、
8月に行われる全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)である。

甲子園で行われる全国大会は春にもあるが、
「春と夏、どちらの甲子園に出たいか?」
と高校球児に聞いたとすると、
ほぼ間違いなく、「夏に出たい」と回答するだろう。

それは、夏が最も注目度が高く、
「敗退=3年生の引退(チームの解散)」を前提とした、
最強チーム同士のぶつかり合い、だからだ。

メジャーな、団体の高校スポーツにおいて、
「最も大きな大会=最強チームのぶつかり合い」
そして、それが最上級生の引退する最後の大会、
というのは、意外と珍しい。



高校サッカーの最も注目度の高い大会は、
正月に行われる、全国高校サッカー選手権大会である。

受験勉強を控えた3年生にとって、
1月から始まる受験期に、サッカーをやっている生徒は、
サッカー推薦で大学(就職)が決まっている選手か、
現役受験での進学を、あきらめた選手がほとんどだ。

すなわち、サッカー推薦を狙わず、進学を希望する選手は、
夏のインターハイ後に引退してしまうのだ。

強豪校による全国大会の純度は、さほど変わらないにしても
これでは予選のレベルは下がってしまうし、
真の意味での「最強チーム決定戦」には、成り得ないと思っている。
これは、バスケットボールや、バレーボールにも、同様のことがいえる。


野球は、受験まである程度時間を残した、
7、8月というタイミングで終了するので、これらのリスクは回避される。
(実際、受験を理由に、途中で引退する主力選手は、ほとんどいない)


繰り返しになるが、
3年生にとって、夏の甲子園予選での敗退は、
高校野球人生の終焉を意味する。

1年生の4月に入学してから約2年半弱、
毎日、白球を追いかけ続けた球児にとって、
1試合で引退に追い込まれる可能性があるトーナメント予選は
あまりにも儚く残酷だ。

2年前、二年生ながら大会記録の22奪三振を記録した、桐光学園の松井裕樹が、
敗退後「3年生ともった野球がしたかった」と泣き崩れたように、
来年がある下級生も、先輩の高校野球人生を背負って戦う。


今年の予選出場校は、4,030校、
三年生は、53,801人、全学年で、170,312人が、登録されている。

甲子園大会は2日間の順延を経て、明日の開幕するが、
既に、約4,000校、約5万人の球児の人生が、終わったことになる。

その彼らの屍の上に、甲子園が成り立っているのだ。


すると、どういうことが起こるか。

文字通り、「命」を賭してプレーをするのだ。

3年生は、自分の高校野球人生。
下級生は先輩の野球人生。
そして、今まで敗退してきた、他校の選手の魂も背負って。

試合終了の瞬間まで諦めない。
どんなに、点差が離れていようとも、
どんなに、相手が優勝候補の強豪校だろうと、
彼らは全力でプレーする。食らいつく。

それが、
相手に対するプレッシャーとなり、
手先を狂わせ、ありえないミスを誘発し、弱者に勢いを与え、
また、5万人の観衆が異様な雰囲気作りに拍車をかけ、
筋書きの無いドラマを、形成させていく。


幾多の魂の上に成り立った、全力プレーに、
奇跡は宿るのだ。



それが、甲子園に棲む、魔物の正体だと思う。


また、魔物は、悲劇だけでなく、奇跡も彩ってきた。


決勝戦の守備固めでライトについた1年生を、奇跡のバックホームで時の人にしたのは、
魔物の仕業だ。

後にドラフト1位でプロ入りするバッテリーから、
微妙な判定による、押し出し四球後、
満塁ホームランを打たせたのも、魔物だと思う。

魔物は気まぐれで、予定調和を許さないのだ。


そんな魔物によって、
我々は、鮮やかに心奪われ、
夏から、甲子園から、
いつまでも離れられない。


第96回全国高校野球選手権、開幕。
今大会も、数々のドラマが待ち受けているだろう。

ヤツは、5万もの魂を喰らい、
まだ足りないと、よだれを垂らして腹を空かせている。

今、魔物が解き放たれた。

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