図2:本書より引用
図2をみてください。これは個人のデータをプロットした(グラフの中に書き込んだ)ものです。点線は平均値を示します。
横軸はインターネット習慣(7群)、縦軸は3年後の全脳の灰白質体積(cc)の増加を表します。統計処理にあたっては、家族の数、家庭の年収、両親の教育歴、居住地、睡眠時間、頭蓋容積の影響が結果に反映されないようにしています。
毎日ネットを使用する子どもの脳
インターネット習慣がない、あるいは少ない子どもたちは、3年間で全脳の灰白質体積が増加しているのに対して、ほぼ毎日インターネットを使用する子どもたちの全脳の灰白質の発達に注目すると、増加の平均値はゼロに近く、全脳の灰白質の発達が3年間でほぼ止まっていることがわかります。
図1:本書より引用
もう一度図1をみてください。
大脳灰白質の発達が特に悪くなっている領域に色がついています。
前頭葉、側頭葉、小脳など多くの領域に悪影響が出ていることが読み取れます。
もちろんこのデータはインターネット習慣との関係をみたもので、スマホ習慣との関連を直接調べたものではありません。
ただ内閣府のデータをみても中学生の65.8%、小学生では40.7%がスマホを使ってインターネットを利用していることがわかっていますので、スマホ使用との関係があることが推測できます。
ところで認知機能、すなわち脳の機能は、大脳灰白質の体積だけで決まるわけではありません。
情報処理機器としての「脳」を考えると、神経細胞のネットワーク自体が大事だという考え方もあります。
そこで神経細胞のネットワークの部分、すなわち神経線維層である大脳白質の3年間の発達に関しても、MRI画像で同様に調べてみました。
図3:本書より引用
図3をみてください。
この図は脳を3方向から断面にしたものです。
Aが脳を横に切った図。向かって左が左脳であり、上は前方に対応しています。
Bは脳を縦に切った図。向かって右が前方に対応しています。
Cは脳を水平方向に切った図。上半分が左脳で下半分が右脳であり、そして右側が前方ということになります。
ネットの使用頻度が高いと悪影響
色のついている部分は、3年間の脳の成長を追跡した結果、インターネット習慣が多いほど大脳白質の発達が統計的に有意に遅くなっていると判断された領域です。
MRI画像上、局所の白質密度が3年間の成長で増えていない、すなわち成長に伴う白質の発達が認められない領域を意味しています。
インターネット使用の頻度が高いと、大脳灰白質や小脳内を結ぶほとんどの神経線維の発達に悪影響が出ていることがわかります。
図4:本書より引用
図4の見方は図2と同じです。
横軸はインターネット習慣、縦軸は3年後の全脳の白質体積(cc)の増加を表す指標(統計処理後の指数)です。
大脳全体でみても、インターネット習慣が多いと白質の発達が悪くなることがわかります。
ほぼ毎日使う群では、3年間でほとんど発達が認められません。
この調査では子どもたちの知能指数を、16歳以上の被検者では世界標準の知能検査であるWechsler Adult Intelligence Scale-Third Edition (WAIS-III)で、それ未満の被検者では同じく世界標準の知能検査であるWechsler Intelligence Scale for Children-Third Edition (WISC-III)を使って計測しています。
その結果、インターネット習慣の頻度が高いと、3年の間に言語性知能が低下することもわかりました。
スマホ使用が学力を低下させる原因が、何となくみえてきました。おそらくスマホによる頻回のインターネット使用によって、脳発達自体に障害が出ていたと思われるのです。
前述のデータをそのまま当てはめて考えると、スマホを毎日高頻度に使う子どもたちの脳は、3年間という期間でみると大脳全体の発達がほぼ止まってしまっていたため、勉強しようがしまいが、睡眠を充分にとろうがとるまいが、学力が上がらなかったと推測できます。
スマホが破壊していたのは学力ではない
『最新研究が明らかにした衝撃の事実―ースマホが脳を「破壊」する』(集英社新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
極端な話かもしれませんが、例えば中学3年生で考えれば、スマホを1時間未満しか、もしくはまったく使っていない生徒は中学3年生なりの「脳」を持っているのに対し、スマホを高頻度で使う生徒の「脳」は小学6年生のままである可能性があるのです。
中学3年生と小学6年生が、中学3年生レベルの同じ授業を受け、テストをしたら、その結果に差がつくのは当たり前です。
私の予測としては、最悪のストーリーがみえてきてしまいました。
スマホが破壊していたものは、「学力」ではなく、「脳」そのものであった可能性が高いのです。
この事実を知っても、皆さんは、子どもたちにスマホを自由に使わせますか?
【参考文献】
文献1:Impact of frequency of internet use on development of brain structures and verbal intelligence: Longitudinal analyses. Takeuchi et al., Human Brain Mapping 2018 (DOI: 10.1002/hbm.24286)