・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
ニュースレター第124号 2020年8月
・「香りの被害についてのアンケート」実施―全国で7000人以上の被害者
理事 水野玲子
香害被害の実態を全国アンケートで調査
「香害」とは、合成洗剤、柔軟剤、除菌・消臭剤、制汗剤など、香りつき製品のニオイ*1による健康被害のことです。
最近10年余り、メーカーは香りや消臭・除菌をうたう製品の開発と販売を加速させています。
職場のニオイで、体調を崩し退職した人。
ニオイが充満する学校の教室に入れずに、不登校になった子ども。
同級生の家庭で洗濯し、柔軟剤のニオイがしみついた学校給食の白衣を自宅で洗濯したところ、洗濯機にニオイがつき、とれないなどの苦情もよく聞こえてきます。
また、患者の整髪料や柔軟剤のニオイで化学物質過敏症になった鍼灸院経営者もおり、香りつき製品によって、あたりまえの生活ができなくなった人が増えています。
それらの声を受けて私たち国民会議も会員である「香害をなくす連絡会*2」は、2019年12月下旬~2020年3月31日、「香りの被害についてのアンケート(ウェブ版と紙版)」を実施しました。
わずか3カ月間で、アンケートの回収数は9332人に上りました。アンケートの回答者は、香害をなくす連絡会の会員やその知人、SNS 拡散によってつながった人たちで、無作為抽出の調査ではありませんが、7000人以上の人が、香りつき製品のニオイで、頭痛や吐き気などの健康被害を受けていることがわかりました。
「香りの被害についてのアンケート」の主な結果
◉回答者全体の79%が「香り被害がある」と回答。
女性6898人の85%、男性1317人の56%。香り被害者には、とくに女性が多く見られました。
また、若い世代の被害者が多く、30代87%、40代83%、60代以上66%でした。
◉症状の上位は頭痛と吐き気
頭痛67%、吐き気64%、思考力低下33%、咳32%、疲労感28%、めまい(25%)でした(図1)。
◉最大の原因は柔軟剤、次は香りつき合成洗剤
柔軟剤86%、香りつき合成洗剤74%、香 水67%、除 菌・消 臭 剤57%、制汗剤43%、アロマ28%でした(図2)。
◉被害を受けた場所のトップは乗り物の中
乗り物の中73%、店63%、公共施設53%、隣家から洗濯物のニオイ47%、職場44%でした(図3)。
◉被害者の約2割が退職・休職・不登校に
香りの被害で退職・休職・不登校の経験があるという回答が19%でした。
化学物質過敏症(CS)患者の人たちのほぼ同様の結果CS 患者の支援組織「CS 支援センター」でも、同じアンケートに協力をお願いし、302人から回答を得ました。
その結果は、香害被害を受けた人94%、主な原因は柔軟剤84%、合成洗剤(82%)でした。
9000人以上の声を集約したアンケート結果とCS 患者との間に大きな差は見られませんでした。香りつき製品が氾濫する現在、CSと診断されていない人たちも、ニオイの成分である化学物質によって健康被害を受けており、化学物質に過敏になっている様子がうかがわれました。
香害被害があると回答した人が求めている香害対策
• 住まいにおける香りつき製品の使用自粛59%
• 職場、学校、乗り物、公共施設などでの香り自粛78%
• メーカーの香りつき製品の販売中止、開発中止78%
• 柔軟剤など家庭用品へのマイクロカプセル使用中止87%
おわりに
香害で体調不良を訴える人の症状は、きわめて深刻です。そこには、香りつき製品に含まれる多くの化学物質が関与している可能性があります。
一方、それら製品に含まれる香料や消臭成分を包むマイクロカプセルが、洗濯物にくっつき、室内や屋外に干すと空気中に放出され、吸い込むことに問題を感じている被害者が多くいます。
電車に乗れば、その衣類を身につけた人の香料カプセルなどが破裂し、ニオイが飛び散るのです。
空気中を漂うマイクロカプセルの問題は、新たな空気汚染の問題にもつながります。
また、高齢者に比べ、30代から40代の若い世代、とくに女性に被害が広がりつつある現状が浮かび上がりました。
本アンケートの結果は、一刻も早く、国レベルでの香害対策の議論をはじめる必要があることを示しています。
現在の香害の実態や香害被害者を取り巻く状況などをまとめた自著『香害は公害―甘い香りに潜むリスク(ジャパンマシニスト社:1200円+税)』を2020年9月10日より全国書店にて発売します。
香害問題への理解、周知に役立てば幸いです。
香害をなくす連絡会の活動
2017年 8月 患者支援団体、環境団体とともに、香害をなくす連絡会」結成
8月 消費者庁に「『香害』をもたらす製品の規制を求める要望書」提出
2018年 2月 文科省に「学校等における香料を含む製品の使用自粛に関する要望書」提出
5月 経産省に「香害」をもたらす製品の規制を求める要望書」提出
5月 院内集会「香害110番から見えてきたもの」開催
12月 花王、ライオン、P&G に対し、「衣料用洗剤、柔軟剤、除菌・消臭剤など家庭用品の香料成分開示を求める要望書」提出
2019年 3月 文科省に「学校における香料を含む製品の使用自粛を求める要望書」提出
5月 経産省、環境省、厚労省に「G20に向け、家庭用品へのマイクロカプセルの使用禁止を求める緊急提言」提出
5月 院内集会「柔軟剤・香りマイクロカプセル」開催
7月 東京都、東京都教育庁、東京都生活文化局に「学校等における香料製品の使用自粛を求める要望書」提出
12月 香りの被害についてのアンケートを全国で実施
2020年 7月 アンケート結果プレスリリース
9月~ 環境省、厚生労働省、文部科学省、消費者庁などにアンケート結果をもとに要望書提出予定