・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
ニュースレター第123号 2020年6月
・身近な香りつき製品から揮発する有害物質
理事 水野玲子
「香害」の問題については、これまで度々JEPA ニュースで取り上げてきましたが、被害者が増える中で、わが国ではほとんど原因究明が進んでいません。
一方米国では、生活にあふれる香りつき製品から揮発する有害物質の分析だけでなく、行政の対策も進みつつあります。
身近な製品から100種類以上の揮発性有機化合物(VOCs)検出 米国の香害問題の第一人者、スタインマン博士らのグループは、香りつき製品から揮発するVOCs をガスクロマトグラフで分析し、どのような有害物質が含まれているのか調査しました*1。
この実験では、洗濯用合成洗剤、柔軟仕上げ剤、パーソナルケア製品、消臭スプレー、デオドラント、除菌剤など25製品を調べ、計133種類のVOCs を検出しました。
香りつき製品1つにつき、平均17種類ものVOCs が検出されています。
最も多くの製品から検出されたのはリモネンで、2番目がα - ピネン、3番目はβ - ピネンでした。
これら成分はテルペン系とよばれ、スタインマン博士は、空気に触れると化学変化を起こし有毒物質のホルムアルデヒドに変化する危険性を警告しています。
ホルムアルデヒドはよく知られた発がん物質で、吸い込むと危険なので室内環境基準が定められています。
また、アセトアルデヒドが25製品の約3分の1から検出されました。この物質はいわゆる二日酔いの原因物質で、発がん性や急性毒性があります。
このように、香りつき製品からは多種類の有害物質が環境中に放出されていることが明らかになりました。
目下、香りつき柔軟剤などを使用した洗たく物が干された周辺で体調を崩す人が続出していますが、これらの有害物質が原因である可能性が考えられます。
たとえ1つの製品に個々の物質が超微量しか含まれていなくても、数多くの有害物質の複合影響は計り知れません。
香害被害者が続出している現実こそ、注目されるべきです。
GHSで見る香り成分の有害物質
検出された133種類のうち24物質は、米国連邦政府が有毒性(Toxic)や危険性(Hazardous)を認める物質です*2。
その中の12物質を表1に示しました。
香りつき製品から出る有害物質を分かりやすく示すために、それぞれの物質の毒性を、「職場のあんぜんサイト」の安全データシートより抜粋してGHS*3シンボルマークで表示しました。GHS シンボルマークとは世界共通の制度で、化学品に含まれる化学物質の爆発性や燃焼性、人体への毒性や生態系への影響など、有害性を9クラスに分類し、シンボルマークで表したものです。
人の健康への影響に関するシンボルマークは表1の4種類中の3種類です。
甘い香り、良い香りといっても、じつは有害物質の塊であり、それらを吸い込んで香害が起こるのです。
米環境保護庁(EPA)が検出した柔軟剤の有害物質
洗たく物がふわふわに仕上がる柔軟剤成分には3つ問題があることを以前のJEPA ニュースでお知らせしました。
1つ目は、陽イオン界面活性剤(第4級アンモニウム塩の一種エステル型ジアルキルアンモニウム)です。
通常の洗剤に使われている界面活性剤(陰イオンなど)に比べて、殺菌力や刺激、毒性が強く、洗たく物に柔軟性を与えます。
2つ目は、香り成分とそれらを包むプラスチック製のマイクロカプセル。
3つ目は、防腐剤、安定剤、泡調整剤などの添加物です。
それら個々の成分だけでなく、多くの成分が合わさり有害物質が生成され、空気中に揮発することが問題です。
わが国では2014年、静岡県環境衛生科学研究所が柔軟剤の香り成分を調べ、HP で「ちょっと気になる『柔軟剤の香り成分』」を発表しています。しかし、同研究で分析された化学物質は、柔軟剤に含まれる香り10成分のみでした。
この10成分の中には、前述した有害性のあるα-ピネン(松の香り)、β - ピネン(木の香り)、d -リモネン(柑橘の香り)、リナロール(すずらんの香り)など香り成分が並んでいましたが、それら良い香り、甘い香りとされる香り成分に、化学物質としての毒性があるとする認識は、全く見られませんでした。
一方、EPA は1995年には既に、柔軟剤から揮発する化学物質の空気環境や人体への有害性に注目し、それら化学物質の人への健康影響を調べ公表しています(表2)。
香害は新しい空気公害
柔軟剤や合成洗剤などの香りつき製品から、さまざまな有害物質が放出されており、それらの中には、発がん性だけでなく、中枢神経系に悪影響を与える物質も数多くあることが明らかになりました。
私たちは、甘い香りや良いにおいというイメージにすっかり騙され、香り成分が化学物質であることを忘れ、そこに潜む危険性に無知だったのではないでしょうか。
有害化学物質による空気の複合汚染の結果が「香害」です。それは新しい空気公害といえるでしょう。
*1 A Steinemann et al. Environ. Impact.Assess. Rev. 2010. 今回の分析は揮発性有機化合物(VOCs)のみ分析。合成ムスクなど半揮発性化合物(SVOC)は含まず。
*2 米国の有害物質規制法(Toxic SubstancesControl Act)
*3 Globally Harmonized System ofC l a s s i f i c a t i o n a n d L a b e l in g o fChemicals(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の略。