・ネオニコチノイドの母胎間移行に関する実験
獨協医科大学小児科の市川剛氏
との共同研究で、妊婦と新生児の尿中のネオニコチノイドの測定を実施しました。
新生児の尿からも極めて少ない量ですが、ネオニコチノイド系農薬が検出されました。
これは胎盤関門を通過している可能性があることを意味します。
日本ではジノテフランが非常に多く使われているので、妊婦の尿からも多く検出されますが、それに比べて新生児の尿ではそれほど検出されていません。
しかし、アセタミプリドは妊婦の尿からはあまり検出されていないのに、新生児からは検出されています。
つまり、ネオニコチノイドの種類によって、体内での動態が異なります。
低体重児が問題となっていることから、低体重児と在胎週数相当の体重児にグループ分けして尿中のネオニコチノイドを測ったところ、アセタミプリドの代謝産物であるDMAP の検出率が低体重児のグループで有意に高い結果が出ました。
あくまでも疫学調査であり、メカニズムは全く分かっておらず、短絡的な結論を出してはいけないのですが、ネオニコチノイド系農薬の何等かの影響があった可能性は否定できません。
この研究結果を起点として、今後、新たな農薬が開発されることも念頭に、新しい毒性評価法の策定につなげていければと思います。
霊長類モデルであるサルの胎児からもネオニコチノイドが検出されています。
イミダクロプリドの代謝産物であるデスニトロイミダクロプリドが検出されたことは注目に値します。
なぜかというと、α4β2受容体50%結合濃度(nM)の値は低いほど結合のしやすいことを示すのですが、イミダクロプリドは昆虫に対し4.6、脊椎動物に対して2600と非常に昆虫の受容体に結合しやすく、脊椎動物の受容体には結合しにくいので、昆虫に対して効果があり、脊椎動物について安全と考えられてきました。
ところが、代謝産物であるデスニトロイミダクロプリドではこれが逆転し、昆虫に対し1530、脊椎動物に対し8.2と脊椎動物の受容体の方が結合しやすくなっているので、この代謝物がサルの胎児から検出されたことは無視できません。
妊娠マウスにクロチアニジンを65mg/kg/日で 妊 娠18.5日に 投 与し、クロチアニジンおよびその代謝産物を分析するという実験も行いました。
母親と胎児の濃度はほぼ同じで、ネオニコチノイドが胎盤関門を通過し、母胎を境界なく移行していることが分かります。
過剰に使用されている農薬今こそ有機農業の推進を2005年から2010年にかけて農薬の販売は310億米ドルから380億米ドルに増加しました。
1950年に比べると農薬使用量は50倍となり、特に中国やブラジルで顕著です。
世界全体で農薬を必要以上に使いすぎているといわざるを得ません。
ネオニコチノイドを禁止しても、その後どうするのかということも重要です。
欧州ではピレスロイド剤が増えたという報告もされています。総合的有害生物管理(IPM)では、どうしても必要な場合には殺虫剤も使われることもありますが、従来型農業では農薬使用に関する優先順位が逆となり、まず農薬が使われてしまっています。
有機農業では従来型農業に比べ、生産性は下がるかもしれませんが、農薬の費用などがかからなくなり、収益性はほとんど変わらないといわれています。
(報告:橘高 真佐美)