・ネオニコチノイドはヒトの健康に危ないのか
ネオニコチノイドが日本茶から検出されたからといって、すぐに日本茶が危ないとまではいえません。
ネオニコチノイド(チアクロプリド)による子宮がんが発症するという根拠となっているのは、農薬メーカーが行ったラットでの2年間の慢性毒性・発がん性の併合試験です。
500ppm 以上の投与濃度で有意に子宮腺癌の発生頻度が増加するという結果でした。
60kg のヒトであれば、毎日1.8gものチアクロプリドを食べ続けることになるので、かなりの量です。
日常的な曝露レベルでは現実的ではありません。
他方で、これまでネオニコチノイドで死んだ人はいないから、100%安全だといえるわけでもありません。
生死によって、エンドポイントを決める時代ではありません。大量摂取の場合、呼吸困難などの急性中毒症状も見られています。
また今は無毒性量と考えられているネオニコチノイドでもマウスに神経様症状が見られたり、学習能力に影響を与えたり、肥満とインスリン抵抗性に影響を与えたりしたという実験結果もあります。
日本人のネオニコチノイド曝露
私たちの研究チームでは、日本のスーパーで普通に売られているお茶を買ってきて調べてみました。
全てのサンプルからネオニコチノイドが検出されました。
特にジノテフラン、チアクロプリドは高濃度に出ました。野菜ジュースからも出ています。
ただ、最大残留基準値を超えているわけではありません。
2016年に長野県で行った幼児の尿に残留するネオニコチノイド系農薬の実験もあります。
6月に松枯れ対策としてネオニコチノイド系農薬が散布されることから、濃度が高まるのではないかと予測し、実験をしましたが、実際にはネオニコチノイドの種類によって結果が異なりました。ニテンピラムの濃度は6月に急上昇しましたが、アセタミプリドやジノテフランは季節を問わずに検出されました。
つまり、アセタミプリドやジノテフランは日常的に摂取されているということを意味しています。
尿の濃度から算出すると、子どもたちは一日当たり最大でも52μg の曝露量という結果になりました。
現在の ADIと比較すると、全てのネオニコチノイドについて ADI 以下の曝露レベルでした。
大気から取り込んだものは少なく、おそらく飲食物が主な曝露源と考えられます。
もっとも、安全基準以内ではあるものの、かなりの子どもたちが曝露されていることが明らかになりました。
次に福島県でボランティアを募り、通常食から農薬を使わない有機食(野菜、米、味噌)に食事を5日間及び1か月間切り替えてもらい、尿を採取するという実験を行いました。有機食に変更すると劇的に尿中のネオニコチノイドの濃度が減少しました。
このことからも大気よりも食品を介してネオニコチノイド系農薬に曝露していることが分かります。2歳児以降の濃度が上昇することからも、乳児が離乳し、お茶や野菜を食べ始めたことが原因だと考えられます。
逆にいうと、食品に気を付けると曝露量が減らせるということになります。
ただし、ネオニコチノイドの種類によって体内の挙動が異なるということも分かりました。
たとえば、ジノテフランは有機食品摂取期間が長くなるとほとんど検出されなくなりましたが、アセタミプリドの代謝産物であるdm-アセタミプリドの検出頻度はなかなか減りませんでした。