・再び、新田の話に戻ろう。
新田は労災申請したが、認められていない。
会社側が徹底して、その事実を否定したからだ。
新田の膀胱癌を見つけた医師は、「労働環境によ」と話している。
実際、40代という若さでの膀胱癌の発症は喫煙歴などが無ければ、極めて異例だ。新田は喫煙者ではない。酒もたしなむ程度だ。
大学教授として長く化学物質の健康被害を研究してきた医師の久永直見も新田が尋ねた一人だ。
久永は言う。
「膀胱癌が新田さんの様な若い人がなるのは極めて珍しい。新田さんのケースは労働環境が原因と見るのが妥当でしょう」
新田は言う。
「癌になっても労災が認められないんです。癌になったのもショックですが、仕事の結果で癌になっても、それが認められないことが更にショックです」
会社は労働基準監督署に対して、そもそも新田が主張するような新製品の検査といった作業に新田は従事していなかったと主張。
労働基準監督署はその会社の説明を鵜呑みにした判断を下している。
膀胱癌に発症して手術と診察、検査を繰り返す新田は既に治療費だけで100万円近く使っている。
労災が認められない以上、この全ては新田個人の負担となる。
新田は労災を認めなかった国の決定の取り消しを求める考えだ。
新田は言う。
「個人に立証責任を負わせる今の労災のやり方では状況が厳しいのはわかっているが、納得できない。私以外の被害者を出さないためにもやれることをやりたい」
この状況は新田だけではない。今後、化学物質の脅威について更に伝えていく。
政府で始まった検討会についての資料は以下でその詳細を読むことができる。
職場における化学物質の管理のあり方に関する検討会
立岩陽一郎
「インファクト」編集長
「インファクト」編集長。アメリカン大学(米ワシントンDC)フェロー。1991年一橋大学卒業。放送大学大学院修士課程修了。NHKでテヘラン特派員、社会部記者、国際放送局デスクに従事し、政府が随意契約を恣意的に使っている実態を暴き随意契約原則禁止のきっかけを作ったほか、大阪の印刷会社で化学物質を原因とした胆管癌被害が発生していることをスクープ。「パナマ文書」取材に中心的に関わった後にNHKを退職。著書に「ファクトチェック最前線」「トランプ報道のフェイクとファクト」「NPOメディアが切り開くジャーナリズム」「トランプ王国の素顔」など。フジテレビ「とくダネ」、毎日放送「ちちんぷいぷい」出演中。