・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
・https://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2020/08/JEPAnews121_web.pdf
・レオナルド・トラサンデ氏(ニューヨーク大学医学部教授)
病気が増える 肥満が増える 貧困が増える ―内分泌かく乱化学物質による私たちの健康と未来への脅威に、私たちに何ができるか
報告者・文責 水野玲子(理事)
人工化学物質に依存する
現代社会
私たちは、化学物質を合成し新しい製品を作り出せば生活が豊かになると長い間思い込んできました。
そして現代社会は、プラスチックの開発によってまっしぐらにその道を突き進んできたのです。
プラスチックは床に落としても割れず、便利で清潔です。
しかも、健康に悪影響を及ぼす心配はないというイメージを植えつけられてきました。
未熟児として生まれた赤ちゃんは保育器で育てられますが、このとき赤ちゃんが入れられるのは、熱可塑性のプラスチック(アクリル樹脂)でできた容器です。
その素材は、多種多様な合成樹脂(ポリマー)を開発した米国のデュポン社が作ったものです。
一方で、よく知られているように、1960年代に『沈黙の春』を書いたレイチェル・カーソンは、野生生物に見られた異変をもとに、1940年代半ばに農薬などの人工化学物質の危険性に警告を発しています。
彼女が残した素晴らしい業績は、私の活動の大きな基礎になっています。
当時、有機塩素系農薬・殺虫剤 DDT*1は、子どもがあびても大丈夫だといわれていました。しかし現在では、DDT は乳がんを引き起こす原因のひとつになることがわかり、人にとって安全でないことが判明しています。
子どもからの警告
合成エストロゲン DES *2 欧米では1938年以降、DES が流産防止剤として500万人以上もの妊婦に投与されました。
これは合成エストロゲン(女性ホルモン)で、1950年代に DES は流産防止に効果がないことが判明して使用は減少しましたが、それでも使い続けられていました。
1960年代に入り、妊娠中に DES を投与された女性から生まれた女の子が成長した後、非常に珍しいがんである膣明細胞腺がんになった例が何件も報告され、はじめて合成エストロゲンによる次世代への危険性が表面化したのです。
この事態を受けて米国食品医薬品局 FDA は、1971年に妊婦への DES の処方を中止する勧告を出しました。
DES は人の健康に悪影響をもたらす環境ホルモン(内分泌かく乱化学物質)の重大な証拠として、その後何十年にも及び語り継がれています。
1990年代には、人工化学物質による環境ホルモン作用が人の健康や生態系に異変を起こしていることが明らかになりました。
環境ホルモンは地球規模で取り組むべき重要課題とされ、ストックホルム条約*3によって、環境中に残留性の高い DDTや PCB*4などの化学物質が次々と禁止されています。私たちは、ばく露源の化学物質の規制に自分の安全が取り戻されたように思いました。