2:ダイオキシン曝露マウスに見られる発達神経毒性 | 化学物質過敏症 runのブログ

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筆者が東京大学に在職していた当時に、遠藤俊裕(現、フェノバンス・リサーチ・アンド・テクノロジー合同会社代表)と掛山正心(現、早稲田大学教授)らは、Hans-Peter Lipp(当 時、Zurich 大学教授)との共同研究で、Lipp らが開発したインテリケージという全自動行動試験装置にユニークな行動試験の操作手順を作り、自発活動量の測定と学習行動試験を行うことができるようにした。

このケージの4隅にはオペラント・チャンバーが設置され、一定条件下で鼻を自動制御扉内に入れることで報酬の水を飲むことができる仕組みとなっている。

この行動試験システムの特徴は3つある。

第一に、実験は全てコンピュータ制御で行われ、実験者がマウスに触れる必要が無いため、マウスにとって実験者からのハンドリングによるストレス負荷が少ないことである。

行動試験では、マウスをどのようにハンドリングし行動解析装置に出し入れするかによって実験データが大きく変わりうることが明らかになっている*7。

第二に、マウス体内に ID チップを埋め込み、最大16匹のマウスを同じケージ内で飼育しながら、個々の動物の試験成績を自動測定することができる。

すなわち、化学物質曝露群と非曝露群を同居させて飼育し、全く同じ環境条件で、より厳密に比較検討できる。

第三に、この行動試験法は、個体間のばらつきが非常に小さいことに加え、異なる研究室でそれぞれ独立に試験を行っても同様の学習曲線が得られることである*8。
この試験法は、2つのコーナー・チャンバー間を往復させる行動系列の獲得を伴う空間学習と、その後の反復逆転課題からなる。

この空間学習をマウスは1週間ほどで習得するが、その直後に逆転課題を課すと一時的に正答率は激減する。

そして逆転課題の空間学習をほぼ数日以内に習得し正答率は上昇する。この空間学習と反復逆転学習を10回程度繰り返すと、マウスはこの逆転課題という学習規則があることを完全に習得することが確認済みである*8。
このように基礎実験条件を確立したうえで、ダイオキシン曝露実験に適用した。胎盤及び母乳を介してダイオキシンに曝露した仔マウスが成熟した後に調べると、ダイオキシン曝露マウスでは、学習規則の習得が遅れること、さらに、ダイオキシン非曝露群と曝露群が同居している条件下では、曝露群は非曝露群に対して水飲み(報酬獲得)行動に遠慮がでることが判明した*9。
同居ではなく個々の群だけで飼育すると、曝露群は非曝露群と同様に水を飲むことから、生理的に曝露群が水を飲まなくなっていたわけではない。顕微鏡を用いて微細構造を解析することにより、こうした行動異常の背景に神経細胞の樹状突起に形態的な異常が生じていることもわかってきた*10。
こうした微細構造の変化は、ルーティンで行う TG426など既存の試験の組織学的検索では検出できない変化である。
すでに、齧歯類を用いた動物実験では、妊娠中に TCDD を投与された動物から生まれた仔が様々な行動試験で異常を示すとの報告がある*11・12・13・14・15・16。

この試験法は、これらの試験成績とは矛盾しないだけではなく、試験方法として再現性・精度が高く、安定性があり、様々な異なる実験室で用いるうえで優れている。

この試験装置は、現在は曝露した動物が成獣になってから適用する方法であるが、離乳直後のマウスにも適用できる見通しがたっている。
また、化学物質としては、ダイオキシンのほか、ヒ素*17、アセタミプリド*18等への曝露による影響の観察にも有用である。

高次脳機能への影響を調べるためには個体における現象把握が必須であり、今後、信頼性が高い行動試験装置を活用することによって発達神経毒性試験をより汎用性があり有用なものとすることが求められている。