グリホサート/グリホサート製剤と自閉症など発達障害
近年,米国や日本などで自閉症,注意欠如多動性障害(ADHD)など発達障害児が急増し,社会問題となっている。
米国では,「ラウンドアップ」などグリホサート製剤の使用量と自閉症の増加が相関していることから,グリホサートが自閉症急増の一因となっている可能性を指摘する研究報告が複数出ている。
2017 年の米国の症例報告32では,不妊治療により妊娠,帝王切開で出生した三つ子のうち,男子2 名が自閉症,女子1 名が癲癇を発症し,子どもたちの尿中にグリホサートが高濃度で検出され,腸内細菌クロストリジウム属の増加を示す代謝物が確認されている。
食事をオーガニック農産物に変えたところ,グリホサートの濃度が減少し,神経症状が緩和されたことから,論文の著者らは,グリホサート曝露が腸内細菌叢の異常を起こし,それが自閉症を発症させた可能性を示唆した。
しかし不妊治療や帝王切開はもともと自閉症のリスク因子であり,食事をオーガニックに変えると,グリホサート以外の農薬も減ることから,他の要因が大きく関わっている可能性も考えられる。
2018 年の総説33では,9 報の論文(310 人の自閉症患者:185 人の対照群,2002~2017 年)を検証し,クロストリジウム属の腸内細菌の増加と自閉症発症との関連を指摘し,さらにグリホサート曝露による腸内細菌叢の異常との関連の可能性を警鐘している。
しかし現段階では,すべての自閉症が腸内細菌叢の異常と関連するような科学的証拠はない。また腸内細菌叢に異常を起こすのは,グリホサートだけでなく,抗生物質1,抗菌剤,有機リン34やネオニコチノイド35など他の農薬曝露でも報告されている。
さらにクロストリジウム属の細菌は種類が数百あり,ボツリヌス菌,破傷風菌など悪玉菌もあるが,免疫の暴走を抑える善玉菌も含まれており,クロストリジウム属が一概に悪いとはいえない。
一方で,動物実験では,グリホサート曝露により腸内細菌叢のバランス異常と行動異常が起こることが報告されており36,グリホサート/グリホサート製剤が脳発達に悪影響を及ぼしている可能性は否めない。
自閉症など発達障害発症の原因は,これまでの膨大な研究から,従来言われていた遺伝要因よりも環境要因が大きく関与していることがわかってきた。環境要因のなかでも農薬や環境ホルモンなど有害な化学物質曝露が,脳発達に悪影響を及ぼしていることが多くの研究から明らかとなっている。
2012 年,米国小児科学会は“農薬は子どもの小児がんを増やし,脳発達に悪影響を及ぼす”と公式勧告37を出した。有機リン系やネオニコチノイド系農薬が脳発達に悪影響を及ぼし,発達障害急増を引き起こしている可能性については,文献1, 26, 27を参照されたい。
グリホサート/グリホサート製剤の曝露はこれらに加えて,さらに脳発達に悪影響を及ぼしていると考えられる。現在,ヒトは膨大な種類の有害化学物質に曝露しており,その複合影響は計り知れない。
ことに有害化学物質に脆弱な胎児期など発達期の脳は,複雑な複合影響を受けていることが予想される。
グリホサート/グリホサート製剤曝露による発達期の脳への影響については,腸内細菌叢の異常だけでなく,メカニズムは不明だが,脳の代謝や行動に異常を起こした報告例は複数ある。
動物実験では胎仔期から授乳期にグリホサート製剤を無毒性量以下で投与すると,生まれた仔ラットの脳の酸化ストレスマーカーが上昇し,アセチルコリンやグルタミン酸の代謝異常と共に,学習機能の低下が報告38されている。
2019 年発表された,米国カリフォルニア州における自閉症児2961 名の疫学調査(1998~2010 年)39では,有機リン系農薬クロルピリホス,ダイアジノン,ピレスロイド系ペルメトリンに加え,除草剤グリホサート曝露など複数の農薬と,自閉症発症には有意な相関があると報告している。
さらにグリホサートによる脳発達への悪影響については,グルタミン酸受容体を介した攪乱作用,金属のキレート化による毒性,内分泌攪乱作用が関与している可能性も多数報告されている。