・コラム
グリシン
グリホサートの原料となるグリシンは,アミノ酸のなかでも光学異性体をもたない単純な構造だが,タンパク質の成分であるだけでなく,解毒や脂質代謝に関わるなど体内で多様な生理機能をもっており,脳神経系では重要な抑制性神経伝達物質としても働いている2。
生体内で重要な機能をもつグリシンだが,適当な濃度が必要で,過剰になりすぎないようグリシン開裂系とよばれる分解系が備わっている。
グリシン開裂系の酵素の先天異常は,グリシン脳症(高グリシン血症)3という重篤な神経疾患を起こす。
またグリシンには静菌作用があり,甘味もあることから食品添加物としても多用され,その他サプリメントや金属をキレート化するため工業用にも用いられている。
グリシンには光学異性体もないので,合成グリシンに毒性はほとんどないと思われるが,サプリメントや添加物で過剰摂取すると,体内の分解系が追いつかずに影響が出る可能性がある。
グリシンは,細菌類から高等生物まで生命にとって普遍的な生理活性物質で,地球の長い歴史とともに多様な機能を担ってきた。
グリシン類似構造をもつグリホサートが多様な毒性を示す所以もしれない。
なお,グリシン代替としてグリホサートがタンパク質に取り込まれる説があるが,実験では否定されている4。