グリホサートの化学構造と性質
グリホサート(glyphosate)は正式名N-(ホスホノメチル)グリシンで,ヒト体内でも合成される非必須アミノ酸の一種グリシン(コラム参照)とメチルホスホン酸が結合した構造をしている(図2A)。イオン化しやすいため,グリホサート以外に,グリホサート・カリウム塩,グリホサート・イソプロピルアミン塩,グリホサート・ナトリウム塩,グリホサート・アンモニウム塩などがあるが,基本的に同じと考えられる(図2B)。
グリホサートは,植物のアミノ酸産生を担うシキミ酸経路の酵素5-エノールピルビルシキミ酸3-リン酸シンターゼ(EPSPS)を阻害して除草効果を発揮し,シキミ酸経路をもたない動物や人間には影響がないと宣伝された。
しかし,もともとシキミ酸経路をもつ腸内細菌叢への影響や発がん性などが問題となってきている。
グリホサートを有効成分とした農薬製剤「ラウンドアップ」は特許が切れたために,製品名の異なるジェネリック製品が多種類販売されている。
日本で農薬登録されているものは有効成分がグリホサート単剤のもので61 剤,他の農薬と共に複合剤として45 剤もあり,合わせて106 剤にも及ぶ。
農薬として登録された除草剤「ラウンドアップ」などは「農作物等」*5 の防除で使用されるが,グリホサート含有製剤はそれ以外にも非農耕地用除草剤として,道路,駐車場,グラウンド,線路などで多用されている。
農薬として登録されていないグリホサート含有製剤は,ホームセンターやネットショップで簡単に入手できるのも問題だ。
グリホサートなど農薬の危険性を危惧した小罇・子どもの環境を考える親の会(代表:神聡子)は,小売業4 社に対し,グリホサートやネオニコチノイド含有製品の販売中止を2 万余の署名と共に要請したところ,この8 月,100 円ショップ・ダイソーは,グリホサート含有除草剤の販売を在庫がなくなり次第中止するという英断をした。
*5―農林水産省の通達に,“「農作物等」とは,栽培の目的や肥培管理の程度の如何を問わず,人が栽培している植物を総称するもの。
その植物の全部又は一部を収穫して利用する目的で栽培している稲,麦,かんしょ,ばれいしょ,豆類,果樹やそ菜類,観賞用の目的で栽培している庭園樹,盆栽,花卉,公園の植栽,街路樹,ゴルフ場の芝のほか,山林樹木も含まれる。”と記載されている。
実際には非農耕地用除草剤が違法に使われているケースが多いため,2019 年3 月に農林水産省は「農薬として使用することができない除草剤の販売等について」,事業者に警告を出した。