・出典:環境脳神経科学情報センター
http://www.environmental-neuroscience.info/CS/
・除草剤グリホサート/「ラウンドアップ」のヒトへの発がん性と多様な毒性〈上〉
―― 安全とはいえない農薬の基準値
木村―黒田純子
はじめに
除草剤グリホサートは米国の巨大企業モンサント社*1が1970 年頃に開発した非選択性の除草剤で,グリホサートを有効成分とした農薬製剤「ラウンドアップ」としてよく知られている。
世界では「ラウンドアップ」耐性の組換え遺伝子作物*2とセットで「ラウンドアップ」が使用されてきたが,日本では1980 年に農薬登録されて以来,除草剤として使用量が増加し続けている(図1)。グリホサートは,植物のみに有効で,ヒトや生態系には安全と宣伝され,日本を含む世界中で除草剤として最も多量に使われてきた。
しかし近年,国際学術誌ではグリホサートによる健康障害に関わる多数の論文が発表され,世界でも日本でも,発がん性や自閉症スペクトラム障害(以下,自閉症)急増との関連など,様々な話題がニュースになっている。
この数年で,学術論文で報告されているヒトへの健康障害としては,発がん性,自閉症など発達障害,生殖系への影響,パーキンソン病,急性毒性として皮膚炎,肺炎,血管炎などが挙げられている。
動物実験では,発がん性,DNA の損傷,腸内細菌叢の異常,脳で重要なグルタミン酸受容体への影響,発達神経毒性,金属のキレート化による毒性,内分泌攪乱作用と生殖毒性,曝露した個体に影響がなくとも次世代,次々世代で障害を起こすエピジェネティックな変異などが報告されている。
世界では発がん性などを危惧してグリホサートを禁止ないし規制する国*3も多くなっているが,日本では逆に2017 年に残留基準を大幅緩和*4しており,使用量が増えている。
本稿では,グリホサートとその農薬製剤について,最近の科学的知見を紹介する。
さらに,農薬の安全基準がいかに不適切か,日本の農薬多量使用の実態と危険性について問題を提起したい。
*1―米国モンサント社は,有害な残留性有機汚染物質・ポリ塩化ビフェニル(PCB)やベトナム戦争で重大な健康被害をもたらした枯葉剤のメーカーでもある。モンサント社は,2018 年6月にドイツのバイエル社に買収・吸収された。
*2―「ラウンドアップ」耐性組換え遺伝子作物は「ラウンドアップ・レディ」(ダイズ,トウモロコシ,ナタネ,ワタなど)と呼ばれ,「ラウンドアップ」と共に,モンサント社から世界の多くの国で販売されてきた。
当初,食糧問題の解決策として宣伝されたが,グリホサートと組換え遺伝子作物の安全性への懸念,耐性雑草が出現し毒性の高い除草剤が必要となり,種子を独占した大企業が儲かるだけで農家は搾取され,組換え遺伝子の拡散による生態影響などが大問題となり,世界の多くの地域でモンサント社に抗議する活動が,農民や市民を巻き込んで起こっている。
遺伝子組換えの問題点については文献1 を参照されたい。
現在,遺伝子組換えだけでなく,ゲノム編集(元の遺伝子の配列を人工的に操作する技術)が農作物や畜産,水産に持ち込まれている。
遺伝子は,生体内で多様な働きをしており,単独の目的だけに使われているものは一つもない。人間の目的だけに安易にゲノム編集を進めることは,危険性を伴う可能性がある。
またゲノム編集された食品には,その内容を表示すべきだ。
*3―グリホサートを禁止している国はサウジアラビア,クウェート,アラブ首長国連邦,バーレーン,オマーン。
禁止を決めた国は,フランス,ドイツ,イタリア,オーストリアなど。
部分的に禁止・規制している国や自治体は多数ある。
*4―グリホサートの日本の農薬残留基準は2017 年,科学的根拠も示さずに小麦粉で5 ppm から30 ppm(6 倍)に,蕎麦やライ麦では0.2 ppm から30 ppm(150 倍),最大で400 倍も緩和された。