2011年から2015年に大阪地区で採取したハウスダスト中殺虫剤濃度 | 化学物質過敏症 runのブログ

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2011年から2015年に大阪地区で採取したハウスダスト中殺虫剤濃度
野口実華子1),渡邊美咲1),福田祥子2),吉田精作2)*
1)武庫川女子大学大学院生活環境学研究科食物栄養学専攻〒663-8558兵庫県西宮市池開町6-46
2)武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科〒663-8558兵庫県西宮市池開町6-46
要旨
大阪近郊において,69軒の一般家庭のハウスダストを2011~2015年に採取し,含まれる殺虫剤6種類を分析し,これまでの調査と比較検討した。

電気掃除機で収集したハウスダストは,アセトンによる超音波抽出後,有機リン剤のクロルピリホス,ダイアジノン,フェニトロチオンはFPD-GCで,有機塩素剤のS-421とパラジクロロベンゼン,ピレスロイド剤のペルメトリンはシリカゲルカラムで精製後,ECD-GCで分析した。
クロルピリホスの検出頻度は24/60で,最高値(0.48・g/g)と平均値(0.026・g/g)からは,1995年(平均値0.72・g/g)と2001年(平均値1.22・g/g)の調査より濃度が1桁~2桁減少していることがわかった。

2003年以前にシロアリ防除処理を行った家屋においてクロルピリホス汚染が高頻度にみられた。ダイアジノンは69例全てから検出されなかった。

フェニトロチオン濃度の平均値は減少したが,検出頻度(41/69)はこれまでの調査と同じであった。

ペルメトリンの検出頻度(31/36)は高く,最高値(13・g/g),平均値(1.7・g/g),中央値(0.36・g/g)とも分析した薬剤の中では最も高濃度であった。

S-421の検出頻度(63/69)は高いが,平均値は0.057・g/gと1995年(平均値2.06・g/g),2001年(平均値0.54・g/g)調査より減少した。

パラジクロロベンゼンの検出頻度(31/38)は高く,これまでの我々の調査にない高値(9.6・g/g,7.0・g/g)が検出された。

1.はじめに
室内に存在する有害化学物質によって生じるシックハウス症候群などの健康被害を防止するため,シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会が2002年度までに9回にわたって開催され,13種類の化学物質について室内濃度指針値の設定が行われた。

その後10年を経過し,新たな化学物質の室内への使用や,WHO空気質ガイドラインとの整合の検討等から,2012年度にシックハウス問題検討会が再開された。
室内汚染化学物質の調査,特に,準揮発性物質(SVOC)や粒子状物質(POM)である殺虫剤,難燃剤などの室内汚染状況の把握には,室内空気の分析と共にハウスダストの分析が重要1-3)である。

室内において,じゅうたんはハウスダストの舞い上がりを抑えるとともに,有害化学物質を吸着したハウスダストを効率よく保持するため,居住者の有害化学物質に対する長期曝露の原因となる。

乳幼児が這い這いにより床面のハウスダストを手につけ,その手をしゃぶることが,農薬摂取の主要経路であると指摘4)されており,欧米ではハウスダスト中の化学物質のモニタリングが広く行われている5)。

日本の住民においては,ハウスダスト中のダニ・カビ等への意識は高いが,化学物質の曝露経路としての認識は薄いようで,ハウスダストの分析が室内有害化学物質曝露による健康被害の防止に有効6)であるにもかかわらず,分析機関へハウスダストを提出することには抵抗が見られる。
日本でのハウスダスト中殺虫剤の分析例では,1980年に当時の汚染物質として注目されていた有機塩素系殺虫剤のBHC(1,2,3,4,5,6-hexachlorocyclohexane,HCH), DDT(1,1,1-trichloro-2,2-di(4-chlorophenyl)ethane),ディルドリンと有機リン系殺虫剤のフェニトロチオンについて河野と立川7)が7検体のハウスダスト中濃度を測定した。1984年には宇野ら8)
が一般家庭で繁用されるようになったピレスロイド系殺虫剤の家屋内汚染の指標として11検体のハウスダストを分析し,ピレスロイド剤の室内環境や食品への汚染に注意するよう報告した。我々は,大阪近郊において,1995年に収集した15検体のハウスダストを試料に,家屋用にシロアリ防除や殺虫,防虫の目的で使用され,室内汚染が問題となる6種類の化学物質,有機リン系殺虫剤のクロルピリホス,ダイアジノンおよびフェニトロチオン,有機塩素系共力剤S-421,ピレスロイド系殺虫剤ペルメトリン,有機塩素系防虫剤パラジクロロベンゼンの室内汚染を調査し,クロルピリホスがシロアリ防除家屋において高濃度に残留していること,フェニトロチオンは河野と立川の報告7)より汚染レベルが低下していること,S-421は全家庭で検出され,高濃度汚染が見られること等を報告した9)。

6年後の2001年時点でのハウスダストによる室内汚染実態についても同様に調査10)した。

今回,さらに10年を経過し,室内濃度指針値などの規制が進む中で,室内における殺虫剤汚染レベルが減少しているかどうかを確認する目的で,2011年から2015年におけるハウスダスト中殺虫剤レベルを調査検討したので,ここに報告する。