一方,PM2.5と循環器系疾患との関係については,アメリカ心臓協会(AmericanHeartAssociation,AHA)が2004年にAHAScientificStatement"AirPollutionandCardiovascularDisease"を発表し,2010年に最新の知見を踏まえたアップデート版を発表した7)。
その中で,PM2.5の循環器疾患の発症メカニズムは主に3経路あると述べている(図2)。
すなわち,急性または慢性曝露によって細気管支・肺胞に沈着したPM2.5の作用により,①肺組織において炎症誘導物質や生理活性物質を放出し,全身に酸化ストレスや炎症をもたらす経路,②肺の知覚神経終末を刺激して自律神経のアンバランスをもたらす経路,③血液
に移行して,全身を循環する過程で活性酸素種(ReactiveOxygenSpecies,ROS)の生成,血管系の構造変化,血液成分の変化をもたらす経路である。
血液へは,PM2.5から溶け出した水溶性金属や有機化合物,さらに粒径0.1μm以下の超微粒子(Ultrafineparticles,UFPs)が移行すると考えられている。
但し,UFPsの動態に関しては,沈着,クリアランスおよび血液中への移行経路は解明されていない。
尚,ナノ粒子を吸入すると鼻腔を通じて脳に移行するという報告8)があるが,直接的な移行経路の証明はなされていない。
一方,血中に移行した化学成分の中で,キノン類(ケトンを2つ有する芳香族化合物)など酸化還元活性物質は細胞内で活性酸素の生成を助長し,この活性酸素によって酸化ストレスが惹起されると考えられている。
図3に模式図を示す。
PM表面上に化学吸着したキノン類は生体内における酸化還元サイクルの過程で過酸化水素(H2O2)を生じ,遷移金属イオン(Fe2+,Cu+)の存在下,フェントン反応により細胞毒性を有するヒドロキシルラジカル(・OH)を生じる。
このPM2.5の活性酸素産生能を酸化還元活性で評価するinvitroのアッセイ系が開発され,特にジチオトレイトール(DTT)法は疫学調査において広く利用さている10)。
図2 粒子状物質による循環器疾患発症のメカニズム(Brooketal.(2010)7)を参考に作成)
図3 キノン類による活性酸素の発生メカニズム(Squadritoetal.(2001)9)を参考に作成)
しかしながら,PM2.5中の化学成分は多種多様であり,どの化学成分がPM2.5の毒性に関与しているかは未だ明確ではない。
微小粒子状物質健康影響評価検討会および微小粒子状物質環境基準専門委員会では,粒子状物質の化学成分,粒径,共存大気汚染物質による健康影響について,次のように評価した5,6)。