・2.PM2.5の沈着と動態
空気中のPM2.5は呼吸器系を通じて体内に取り込まれる。
呼吸器系は,上気道(鼻,咽頭,喉頭),下気道(気管,気管支)および肺から構成され,気道粘膜や肺胞などに粒子状物質が接着し,再び気流に戻らない状態を沈着と言う。
粒子状物質は,慣性衝突,重量による沈降,遮り,拡散(ブラウン運動)により沈着するが,沈着する部位および沈着量は,粒子状物質の物理的性状(粒径,形状,表面性状,密度など)や化学的性状(吸湿性や水溶性など),気道内の気流の状態や呼吸のパターンによって異なる1)。粒径約2μm以下の粒子の30~60%は,肺空間の最深部である細気管支や肺胞に沈着する2)。沈着現象に関する男女間差は明確ではないが,小児と成人を比較すると,肺の単位表面積あたりの沈着量は同等であるが,肺の単位表面積あたりの呼吸数が大きいため,小児の方が健康リスクは高いと推測されている。
気道に沈着した粒子は,気道の防御機能(加湿効果,気道クリアランス,液性免疫,くしゃみ反射・咳反射)により排除されるが,肺胞に沈着した粒子は排除されにくく,比較的長く留まり,この間,マクロファージによる貪食を受けたり,気道分泌液等に溶解して血液やリンパ液に移行すると考えられる。
すなわち,肺に沈着あるいは血中に移行した成分が,種々の有害な生体反応を引き起すと考えられる。
3.PM2.5の健康影響:毒性学研究
粒子状物質による疾患発症メカニズムについては,いくつかの仮説が提唱されている。わが国の微小粒子状物質健康影響評価検討会では,各器官における粒子状物質の影響に関して想定しうる障害の仮説を列挙し,粒子状物質の健康影響に関する動物実験およびヒト志願者実験の文献資料について,実験の種類(吸入曝露,気管内投与),対象粒子の種類(一般大気中の粒子状物質,ディーゼル排気粒子(DEP)やディーゼル排気物(DE)などの発生源粒子)ごとに整理し,それぞれの仮説の確からしさを検討した5)。
また微小粒子状物質環境基準専門委員会では,その後に発表された科学的知見も含めて再評価を行った6)。要約すると次の通りである。
1)呼吸器系への影響