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微小粒子状物質(PM2.5)の健康影響について
関根嘉香
東海大学理学部化学科〒259-1292神奈川県平塚市北金目4-1-1
要旨
近年,微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染が国民的関心事になっている。

またPM2.5は粒子径で規定した混合物であり,これに相当する粒子状物質が室内環境にも存在することから,室内空気汚染の新たな指標物質として関心が高まっている。

そこで本報では,PM2.5に関する毒性学および疫学研究の文献情報をレビューし,PM2.5のヒト健康影響に関する現時点での知見を整理した。

さらに米国,WHOおよび日本におけるPM2.5の許容曝露基準の設定の経緯をまとめた。
1.諸言
微小粒子状物質(ParticulateMatter2.5,PM2.5)は,空気中に浮遊する粒子状物質のうち,粒径2.5μmの粒子を50%除去する装置を通過した粒子を指し,呼吸により吸入されると細気管支や肺胞に沈着する。
PM2.5のヒトに対する健康影響は,1990年代に報告された米国での疫学研究によって注目されるようになり,都市大気中PM2.5濃度とヒトの死亡,呼吸器疾患,循環器(心血管)疾患等との関連を示す多くの疫学研究および毒性学研究が蓄積され,米国では1997年にPM2.5を指標とする新たな環境基準を設定し,以後最新の知見を付け加え,改訂を続けている。
わが国では,1972年に粒径10μm以上の粒子を除去した浮遊粒子状物質(SuspendedParticulateMatter,SPM)について大気環境基準を設定し,大気中濃度の監視が続けられてきた。

しかし,PM2.5の健康影響に関する国際的な関心の高まりを背景に,PM2.5に関する国内外の科学的知見を総合し,2009年に新たな環境基準を設定した。

環境基準設定当初,わが国におけるPM2.5問題は,比較的冷静に受け止められてきたが,2013年1月,中国東部における視程障害を伴う深刻な大気汚染の発生,および西日本を中心とするPM2.5の越境汚染が連日のように報道され,国民の重大な関心事となった。

一方,PM2.5は粒子径で規定した混合物であり,これに相当する粒子状物質が室内環境にも存在することから,室内空気汚染の新たな指標物質として関心が高まっている。
本報では,PM2.5に関する毒性学および疫学研究の文献情報をレビューし,PM2.5のヒト健康影響について,今何がどこまで分かっているのかを整理した。

さらに米国,WHOおよび日本におけるPM2.5の許容曝露基準(大気環境基準やガイドライン)の設定の経緯をまとめた。尚,本報では,諸外国で用いられる心血管疾患(Cardiovasculardisease)とわが国で用いられる循環器疾患を同義語として扱った。
図1 粒子状物質の粒径と呼吸器系への沈着部位(U.S.EPA(2004)3),坂本(2013)4)を参考に作成)