・http://www.soumu.go.jp/main_content/000359389.pdf
長年にわたる悪臭公害対策・苦情対応
兵庫県加古川市環境部環境政策課 主査
西川 寛
加古川市は、兵庫県の南部に位置し、南北約 、東西約 、総面積 の人口約 27 万人を抱える自治体です。
一級河川「加古川」という川にちなんだ市だけあって、レガッタ大会や河川敷の花火大会、それにマラソン大会など、水辺に親しみを持てるといった特色があります。
加古川の風景
加古川の地は、飛鳥時代の頃に「賀古の駅家(かこのうまや)」が設けられていた記録があり、山陽道の宿場町として、また加古川の恵みを受けた豊かな土地として古くから栄えていました。
かの平清盛公も福原京の次にこの加古川の地を都にしようと考えていたとも言われ、そのことからも加古川の魅力をうかがい知ることができます。
気候は瀬戸内の温暖で過ごしやすく、土地柄も温厚であると言われています。
そんな加古川にちなんだ人物は数ありますが近年ではなんといっても黒田官兵衛の妻光姫(てるひめ)でしょう。
彼女は才色兼備のヒロインとして昨年のNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」に登場したことは記憶に新しく、加古川市のPR に一役買ってくれました。
今では、播磨工業地域の一翼としてものづくりの拠点であり、住みやすくもあり、また、北部には豊かな自然を有しています。
便利さ、快適さ、そして自然という魅力があふれた都市であると自負しております。
公害苦情に対応するのは環境政策課環境保全係で、職員は嘱託職員を含め8名であり、業務
は、工場・事業場指導、一般環境の監視等です。苦情には環境保全係全職員であたっています。
平成26年度の苦情件数は196件で、その内主なものの割合として、大気汚染37%、騒音28%、
観音寺(軍師 黒田官兵衛の妻(光姫)の生まれた櫛橋家の居城 志方城跡)悪臭24%、水質汚濁9%という状況でした。
私は現在の職場に配置となって 12 年になりますが、私が対応した苦情の中で、思い出に残っている事例についてお話します。
まず悪臭問題のほとんどが苦情の形態で現れます。
当市においては市内全域が悪臭の規制地
域に指定されており、一般地域と順応地域に分かれています。
悪臭物質は法により、アンモニアなど 22 物質が定められており規制されています。
堆肥化施設・化学工場、塗装工場、畜産等の工場・事業場によるもののほか、生活排水が流入する水路・池の汚濁が原因となる場合もあります。
こうした苦情に対し、現地調査や発生源への立入調査を実施し、作業方法の改善、施設の維持管理を徹底させる等の指導を行っているところです。
その中で加古川の北部地区(順応地域)にある、A 社堆肥化施設(以下「A 工場」)からの悪臭が発生したことにより、近隣住民からの悪臭苦情が多発し大変問題となりました。
この地区は北側にダムがあり、周囲を山に囲まれており、盆地の地形となっているため季節によって臭気が拡散しにくく、においが塊状態で滞留しやすいという事がありました。
A 工場の生産工程は、①原料受け入れ⇒②一次発酵⇒③二次発酵⇒④熟成⇒⑤製品出荷のようになっております。
この工程のうち②一次発酵及び③二次発酵において苦情の原因となる臭気が発生しています。昼間は工場建屋の窓を開けている状態で操業されます。
夜間は、工場は密閉状態とし脱臭設備(薬液洗浄、活性炭)による臭気対策をとっているとのことでした。
操業開始は平成14年で、その当時から悪臭苦情はあったのですが3年目から急増しました。
平成 19 年の春頃には、発酵促進効果を高めるために発酵槽に乳酸菌を散布した方式に変更さ
れました。
その結果7月頃までは悪臭苦情は収まっていましたが、8月お盆過ぎに突然、発酵状態が悪化しました。
一旦、発酵状態が悪くなると嫌気臭になり、なかなか好気発酵状態に戻ら、特に悪臭の発生による苦情電話が鳴り止まない状況でした。
町全体(13 地区)に悪臭が広がり、市にも朝から苦情電話がいろいろな地区から入りました。
事業所へ立入を行ない指導、夜間は悪臭パトロールを実施し悪臭の確認をする状況が毎日のように続きました。
係全員で対応するのですが他の仕事ができないくらい大変だったことを思い出します。
ある年には、近隣住民よりA 工場所有の農園に事業所処理後物が大量に埋立られたことによる、黒い汚水が発生しているとの苦情電話が入りました。
実態把握を行うために立入を実施しました。市としては事業所雨水排水口より汚水が流出していた為、採水をおこない改善するよう指導した事もありました。
またある年には、現地に立入した際に、熟成させている堆肥が発火しているのを発見した事がありました。
そういえば、苦情者より焦げたようなにおいがしているとの話があった事も思い出しましたが、『まさか、発火しているとは!』びっくりした事を、今でも鮮明に覚えています。
その後、何度となく県と市で事業者に操業の見直しを指導し、その効果を確認するという日が続きました。
その甲斐あって、苦情件数も平成 14 年度(20 件)、平成 15 年度(39 件)であり、平成16 年度(156 件)、平成17 年度(214 件)、平成18 年度(99 件)、平成19 年度(161 件)、平成20 年度(56 件)、平成21 年度(16 件)のうち平成16 年度からの4年間は多かったが、平成21年度以降は大幅に減少しています。
事業所の臭気対策として、受入れ物の制限、発酵状態を良好に保てるよう維持管理が徹底されたこと。
定期的に臭気測定を実施し確認することで、臭気の管理がなされたことにより、以前に比べて臭気が低減され苦情が減少したものと思われます。
以前、事業所に立入後、苦情者宅に行き、何回か苦情者を怒らせてしまった経験もありました。『事業所の受入れ施設や発酵槽、熟成槽から発生する、悪臭がおもな原因である。』『脱臭設
備による臭気低減をおこなっている。』と説明しても、また、『発酵状態は良好である。』と言っても、苦情者からしてみれば「臭いものは臭い」、「このにおいを何とかして欲しい」、「毎日このにおいを嗅いでいれば身体の調子が悪くなる」、「市役所から直ぐに、このくさいにおいを嗅ぎに来い」等。
ただでさえ苦情者は怒っているところではあるのですが、立入り状況等の説明をしなければなりません。
そんな状況でも、いや、そんな状況だからこそ、「丁寧な対応」「わかりやすい説明」を心がけることが大切であると反省しています。
今後も悪臭測定をおこない、あるいは指導文書を出し、今後の臭気対策等についての報告書の提出を指導しますが、感覚公害対策の難しさを痛感しています。
市民からの苦情対応については、「中立の立場」で「冷静に話を聞く」。事業所に対して「効果のある指導」をおこなう。このあたりまえの対応こそが、快適な環境を保つ「まちづくり」のためにかかせないものであり、今後も全力投球で取り組みます。