6-第1回 においの特徴と悪臭公害の現状-シリーズ「悪臭に関わる苦情への対応」 | 化学物質過敏症 runのブログ

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4.日本における悪臭規制の概要
現在日本においては、悪臭公害を低減するために作られた悪臭防止法5)がある。

この法律は昭和 46 年に制定され、当初は、悪臭をにおいのある特定悪臭物質5種類で規定し、スタートした。

すなわち、悪臭に含まれるアンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、トリメチルアミンの5種類の悪臭成分の濃度(ppm)を基準とし、規制対象の場所は事業所の敷地境界(第1号規制)及び排出口(第2号規制)で規制がなされた。

その後、平成6年には、排出水の規制(第3号規制)が加えられた。

悪臭をにおいのある5物質で規定し、5物質の濃度(ppm)で規制したのである。
その後、昭和 51 年に、二硫化メチル、アセトアルデヒド、スチレンの3物質が追加され、平成元年には、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸の4種類が追加された。

さらに平成5年にはプロピオンアルデヒド、トルエンなどの炭化水素類の 10 種類の特定悪臭物質が追加された。現在表-2に示した 22 種類の特定悪臭物質と敷地境界における
濃度を示した。 
表-2 22 種類の特定悪臭物質の敷地境界線における規制基準 単位 ppm
特定悪臭物質 敷地境界濃度の範囲 特定悪臭物質 敷地境界濃度の範囲
アンモニア 1 ~ 5 イソバレルアルデヒド 0.003 ~ 0.01
メチルメルカプタン 0.002 ~ 0.01 イソブタノール 0.9 ~ 20
硫化水素 0.02 ~ 0.2 酢酸エチル 3 ~ 20
硫化メチル 0.01 ~ 0.2 メチルイソブチルケトン 1 ~ 6
二硫化メチル 0.009 ~ 0.1 トルエン 10 ~ 60
トリメチルアミン 0.005 ~ 0.07 スチレン 0.4 ~ 2
アセトアルデヒド 0.05 ~ 0.5 キシレン 1 ~ 5
プロピオンアルデヒド 0.05 ~ 0.5 プロピオン酸 0.03 ~ 0.2
ノルマルブチルアルデヒド 0.009 ~ 0.08 ノルマル酪酸 0.001 ~ 0.006
イソブチルアルデヒド 0.02 ~ 0.2 ノルマル吉草酸 0.0009 ~ 0.004
ノルマルバレルアルデヒド 0.009 ~ 0.05 イソ吉草酸 0.001 ~ 0.01 

しかし、悪臭苦情の対象となるにおいは、本誌2-1で示したように、一般的に多成分の
混合体(数十、数百成分)であることから、22 種類とはいえ、限られた特定悪臭物質の成分
濃度の規制では被害の実態に合いにくいという意見が法制定当初から出されていた。
以上のように現在の悪臭防止法では特定悪臭物質による成分濃度規制と、人間の鼻を用い
る嗅覚測定法の二本立てになっている。

また、規制対象になる測定場所は、悪臭を発生させ
る事業所の敷地境界、排出口、排出水の3か所である。
また、実際に悪臭苦情のある事業所で、特定悪臭物質を測定すると、規制基準以内という結果も多かったことから、平成7年に悪臭防止法の中に、比較的悪臭被害の実態に近い結果が得られる嗅覚測定法(官能試験法ともいわれる)が導入された。

嗅覚測定法とは人間の鼻で悪臭を測定するということであり、法体系としては画期的な方法である。
昭和 46 年に悪臭防止法が制定された当初から、嗅覚測定法を用いるべきという意見は多かったが、当時用いられていた嗅覚測定法は、ASTM注射器法6)であり、この方法は日本でも広く用いられていたが、規制で用いる方法としては、あまりにも測定精度が悪かった。

その後、このASTM注射器法を改良した新たな嗅覚測定法である三点比較式臭袋法7)が開発された。

この三点比較式臭袋法は全国の地方自治体の条例ないしは要綱などで採用され、ある程度の効果を示していたことから、平成7年に悪臭防止法にも採用された背景がある。
規制の手順としては、都道府県知事及び各市長は各地域内に悪臭を防止すべき規制地域を指定する。

さらに地域の自然的・社会的状況を配慮し、規制地域内の事業所から発生する悪臭に対して規制基準を設定する。規制方法は臭気指数規制(嗅覚測定法による規制:詳しくは次回に解説する)を選択するか、特定悪臭物質による規制を選択することになる。
また、悪臭防止法では、全ての事業所が規制の対象になる。製紙工場、石油精製工場、清掃工場などの大工場から、ラーメン店、焼き肉店に至るまで、すべての事業所が規制の対象になる。 
また、悪臭防止法以外に地方自治体によっては、条例ないしは指導要綱によって、悪臭対策を実施している場合もある。悪臭防止法に嗅覚測定法が導入された平成 7 年以降は、地方自治体独自の規制ないしは要綱を作成する自治体は少なくなってきている。
嗅覚測定法という比較的厳しい評価尺度を採用していることにより、悪臭問題を抱える事業者が、地域における社会的信頼を保つため、積極的に悪臭対策に取り組んでいることも事実である。特にこのような視点からの取り組みにより大事業所の悪臭問題は近年少なくなってきている。

すなわち現在の嗅覚測定法を採用した悪臭防止法による規制手法はそれなりの効果は発揮しているといえる。
文献
1) 岩崎好陽、中浦久雄、谷川昇、石黒辰吉:悪臭官能試験に及ぼすパネルの影響、大気汚
染学会誌、18,156-163,1983.
2) 岩崎好陽:においとかおりと環境、清水弘文堂、37-38、2010.
3) 永田好男、竹内教文:三点比較式臭袋法による臭気物質の閾値測定、大気汚染学会講演
要旨集、p528,1988.
4) http://www.env.go.jp/air/akushu/H25akushu_gaiyo_.pdf
5) 公益社団法人におい・かおり環境協会:ハンドブック悪臭防止法六訂版、2012.
6) E. A. Fox, V. E. Gex : Procedure for Measuring Odor Concentration in Air and Gases,J.
Air Poll. Control Assoc.,7, 1, 60-61.1957.
7) 岩崎好陽、福島悠、中浦久雄、矢島恒広、石黒辰吉:大気汚染学会誌、13,246-251,1978.

 

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