4.健康への影響が生ずる室内環境因子
(公衆衛生の視点)
人々の健康に及ぼす室内空気質など環境要因の影響については国内外でさまざまな研究がなされている。
室内空気質の汚染の原因になるのは化学物質や微生物・真菌などの生物,室内の湿気の上昇によるダンプネス(湿度環境の悪化で結露やカビが生え住宅にダメージを与えている状態)など①から⑥まで多様である。
①二酸化炭素:人々が呼吸で発散する化学物質として二酸化炭素があり,換気状況の代替指標とされる。
通常はそれ自体で毒性や生理的な影響を示すものではないが,新鮮な外気に比べ濃度が上がると相対的に酸素不足になり頭痛や耳鳴りなど症状を起こすので,建築物衛生法や建築基準法などで基準がつくられている。
②室内の燃焼物:暖房器具や調理器具などで使われる石油やガスなどの燃焼によって生じる一酸化炭素,窒素酸化物,粒子物質(Particle Matter,PM2.5 や PM10 など),多環芳香族炭化水素などがあり,呼吸器系疾患の増加が報告されている(相談マニュアル(改訂新版)pp 102–103)。
③喫煙:本人の喫煙そのものに加え,受動喫煙の影響が無視できない。
受動喫煙は喫煙者の呼気や副流煙により室内空気が汚染される。数多くの化学物質が含まれ,子どもの喘息や呼吸機能低下やがんなどのリスクの増加が指摘されている。
本マニュアルでは近年日本で対策の遅れが大きな課題になっている受動喫煙の曝露実態について大和が詳細を記した(相談マニュアル(改訂新版)pp 95–101)。
④化学物質:近年特に注目されているのは,室内にある塗料,接着剤,防腐剤,殺虫剤,防虫剤,香料,可塑剤(フタル酸エステル類等),難燃剤などさまざまな化学物質である。
ホルムアルデヒドや揮発性有機化合物が徐々に揮発して室内空気質が汚染される場合がある。本マニュアルでは化学物質の発生源のみならず,精密な測定法をその環境濃度モニタリングのためのデザインを含めて手法を詳細に記したのが特徴である(相談マニュアル(改訂新版)pp 67–88)。
⑤生物学的要因:化学物質ばかりでなく,室内空気質の関係する生物学的要因(真菌やダニアレルゲンなど)はシックビルディング症候群・シックビルディング関連病の原因になりうることが各国の研究で指摘されている。
真菌はどこにでも存在し,真菌自体が病気を引き起こすが,アレルギー源ともなる。
また微生物の代謝によって生じる揮発性有機化合物(microbial VOC)や細胞膜構成成分(グルカン)が健康に悪影響を及ぼす可能性もある。
ダニアレルゲンは温暖で湿度が 50%以上になると繁殖しやすく,ダニの死骸や排せつ物がシックビルディング症候群・シックハウス症候群の原因になる(相談マニュアル(改訂新版)pp 89–95)。
⑥気流や温・湿度環境など。
特に水漏れやダンプネス(湿気)は各国の疫学調査でシックビルディング症候群や喘息との関係が示唆され,微生物起源のアレルゲンやカビを増やし喘息を引き起こすなどの健康影響が考えられる。
また寒冷や温熱環境は住宅の性能のみならず、グローバルな地球温暖化に伴う環境の悪化が世界各国で人々の生命や安全を脅かす大きな問題になりつつある。
本マニュアルには,近年,室内における熱中症の著増が認められること,冬場のヒートショックの状況を具体的に記した(相談マニュアル(改訂新版)pp 67–88)。