2012年、日・米・欧は、WTO(世界貿易機関)に提訴した。
中国が敗訴して、輸出規制で溜まっていた在庫が市場に出回って2013年には価格が暴落。
その後6年経ったいまも低迷が続いている。
なお、米中貿易戦争のさなか、米国は3000品目の中国製品に25%の輸入関税を課すことを発表した。
その対象品目からはレアアースが除外されている。
それは、マウンテン・パス鉱山の鉱石を中国に輸出して、精製委託した製品を輸入している米国としては、EVだけでなく重要な兵器製造に欠かせないレアアースのコストアップを避けたいという狙いがある。
2019年、レアアースは急騰する!?
レアアース 筆者は2019年中にレアアースの市況は急騰するのではないかと考えている。
その理由は、以下の通り。
①市況低迷が長引き、中国の環境規制、違法採掘業者と密輸業者の取り締まりに本腰を入れてきたこと。
②EV市場の急拡大に伴って磁石、電池分野の需要は旺盛で、飛躍的に伸びることは明白であること。
③ライナス社のマレーシア精製プラントに対してマレーシア政府が放射性廃棄物処理条件でオペレーション・ライセンス更新に難色を示していること。
④IoT、AIの急速な進歩に伴う新規需要拡大。
ちなみに、EVモーター用の銅や電池用のコバルト・ニッケル・マンガンなどのレアメタルはEV市場の拡大とともに2018年には上昇を始めているのに、レアアースだけが取り残されている。
また、米国は中国からのレアアース製品は関税引き上げの対象から除外しているが、今後中国への報復関税の対象とならないとも限らない。
このように、レアアース市場はレアメタルとは違った、複雑かつ特異な資源事情によって影響を受ける構図となっている。
レアアース開発とともに、トリウム発電が発展する
先端産業に欠かせないレアアースは精製プロセスで放射性廃棄物が発生することから、レアメタル以上にやっかいな環境問題を抱えていることは上述の通りである。
したがってEVを単純に「次世代エコカー」と位置づけてしまうことは如何なものか。
“エコカー”は、サプライチェーンを包括的にみるとEV、燃料電池車そして水素自動車の3モデルで競争しながらも棲み分けすることになるのはなかろうか。
最後に、レアアースに関して一般的にほとんど知られていない極めて重要な事実を付け加えておきたい。
レアアース鉱石の中に含まれるトリウムのことである。
中国の北方鉱を精製した後の廃棄物中に含まれるトリウムは、核燃料として原子力発電に利用できる。
それだけでなく、在来のウランを燃料とする発電に対して、数多くの利点を持っている。
中国政府は、約20年前からレアアース生産とともに分離したトリウムを買い上げて備蓄するとともに、トリウム原子力発電の技術開発を国家戦略として行っている。
中国はウラン資源に乏しく、オーストラリア、カナダ、アフリカに依存せざるを得ない。
そこで、エネルギー安全保障上からもトリウム発電に力を入れているのだ。
ノルウェーはトリウム資源が豊富で、石油資源の枯渇後をにらんでいる。
ウラン資源がなくオーストラリア頼みのインドも、トリウムを含むレアアース資源は豊富に保有しているため、原子燃料としての研究開発に熱心だ。
世界のトップランナーとしてトリウム原子力発電がデビューし、世界を驚かせるのは遠い先のことではない。
<文/谷口正次>
資源・環境ジャーナリスト。NPO法人「ものづくり生命文明機構」副理事長、サステナビリティ日本フォーラム理事。
著書に『経済学が世界を殺す~「成長の限界」を忘れた倫理なき資本主義』(扶桑社新書)など
谷口正次