2:化学物質及び自然毒による食中毒等事件例(平成24年) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・3. ヒスタミンによる食中毒
1) 事件の概要
事例 1;平成 24 年 6 月 7 日,医療機関から保健所に,飲食店でアジの干物を喫食した 4 名中 3 名が発疹,動悸,頭痛などのアレルギー様の症状を呈し,病院で受診しているとの連絡が入った.

保健所の調査によると,アジの干物は飲食店の自家製のものであり,早い人で喫食直後に発症していた.
事例2;平成24年6月25日,医療機関から保健所に,職員食堂でマグロのベーコンきのこソースを喫食した19名中13名が発赤,充血,血圧低下などの症状を呈し,病院で受診しているとの連絡が入った.

保健所の調査によると,症状は早い人で喫食中から,遅い人でも喫食後1時間位で発症し,食べたときにピリッとしたという証言もあった.
事例3;平成24年7月13日,飲食店から保健所に,当該店舗でマグロのレアステーキを喫食した5名が症状を訴え,病院で受診しているとの連絡が入った.保健所の調査によると,主な症状は発赤,頭痛,動悸であった.
 2) 試料
事例1;調理済みのアジの干物残品2検体,サバの干物残品3検体,市場で購入した未調理の冷凍サバ参考品1検体,計6検体.
事例2;マグロのベーコンきのこソース参考品1検体,加熱後のマカジキの切り身参考品2検体,生のマカジキの切身参考品1検体,計4検体.
事例3;マグロのレアステーキ残品3検体.
3) 原因物質の検索
いずれの事例も患者がアジやマグロを食べていること,また発疹,発赤等の典型的なヒスタミンによる食中毒症状を呈していることから,原因物質としてヒスタミンが疑われた.

そこで,搬入された検体についてヒスタミンの分析を行った.

また,カダベリン,チラミン,スペルミジン及びプトレシンの不揮発性アミン類についてもあわせて分析した.
定性及び定量分析は衛生試験法・注解14)に準じて行った.

すなわち細切した試料10 gに水を加えてホモジナイズ後,20%トリクロロ酢酸溶液10 mLを加えて混和した.水で100mLにメスアップした後にろ過し,ろ液を試験溶液とした.
TLCによる定性試験のため,試験溶液をKieselgel 60プレート(100 mm×100 mm)に20 μLスポットした.

展開溶媒としてアセトン‐アンモニア水(9:1)で展開した後,0.1%フルオレスカミン・アセトン溶液を噴霧した.

365nmの紫外線照射下で,標準溶液の蛍光スポットとRf値を比較してヒスタミンなどの不揮発性アミン類の有無を判定した.

さらに,ニンヒドリン溶液を噴霧して加熱後,標準溶液の赤紫色のスポットとRf値を比較し,ヒスタミンなどの不揮発性アミン類の有無を判定した.

定性試験でヒスタミンなどの不揮発性アミン類が確認されたものについて,定量試験を行った.すなわち,標準溶液及び試験溶液の一定量に内部標準液として10 μg/mLの1.6-ジアミノヘキサン溶液を一定量加え,無水硫酸ナトリウム0.2 gを加えて溶解後,1%ダンシルクロライド・アセトン溶液1 mLを加えて室温で一晩放置した.

10%プロリン溶液0.5 mLを加えて10分間放置後,トルエン5 mLで振とう抽出したものを減圧濃縮し,残渣に一定量のアセトニトリルを加え,HPLCで分析を行った.

HPLC条件はカラム:Inertsil ODS-80A(4.6mm i.d.×250 mm),移動相:アセトニトリル-水(65:35),流速:1.5 mL/min,カラム温度:40°C,検出器:蛍光検出器(励起波長:325 nm,蛍光波長:525 nm),注入量:10μLで行った.
その結果,事例1では調理済みサバの干物残品3検体からヒスタミンがそれぞれ400 mg/100 g,460 mg/100 g,670mg/100 g検出された.

これらの検体からは,その他の不揮発性アミン類は検出されなかった.

また,調理済みアジの干物残品及び未調理の冷凍サバ参考品からはいずれの不揮発性アミン類も検出されなかった. 

事例2ではマグロのベーコンきのこソース参考品のマグロ部分からヒスタミンが540 mg/100 g,カダベリンが14 mg/100 g,加熱後のマカジキの切り身参考品2検体からそれぞれヒスタミンが620mg/100 g及び770 mg/100 g,カダベリンが17 mg/100 g及び20 mg/100 g検出された.

これらの検体から,その他の不揮発性アミン類は検出されなかった.

また,生のマカジキの切り身からはいずれの不揮発性アミン類も検出されなかった. 

事例3では,マグロのレアステーキ残品3検体からヒスタミンがそれぞれ360 mg/100 g,450 mg/100 g及び470mg/100 g検出された.また,その他の不揮発性アミン類は検出されなかった.
4) 考察
事例1は患者が喫食したものと同じアジの干物残品からはヒスタミンが検出されなかったが,調理済みのサバの干物残品3検体から400~670 mg/100 gのヒスタミンを検出した.

ヒスタミンの含有量は同一ロットまたは同一仕入れの魚でも個体差や部位差がある2,9).

また,同じ店で作られたサバの干物からはヒスタミンが検出されたことから,今回検査に用いたアジの干物にはヒスタミンが含まれなかったものの,患者はアジの干物を喫食した直後に発症していること,発疹などのヒスタミンによる食中毒に特徴的な症状を呈していることから,患者が喫食したアジの干物はヒスタミン含有量が多い個体であったことが考えられた.

事例2はマグロのベーコンきのこソース参考品及び加熱後のマカジキ切り身参考品から540~770 mg/100 gのヒスタミン及び14~20 mg/100 gのカダベリンを検出した.

事例3ではマグロのレアステーキ残品から360~470 mg/100 gのヒスタミンを検出した.

ヒスタミンによる食中毒は過去の事例から算出して,大人一人当たり100 mg程度の摂取でも発症する可能性があるとされている15).

以上の結果より,いずれもヒスタミンによる食中毒と断定された.
ヒスタミンによる食中毒は毎年起きている1-5).事例1と同様の自家製の干物による食中毒は平成18年9)及び平成22年3)にも発生している.

事例1では食中毒の原因となったアジの干物以外に,同じ店で作られたサバの干物からも高濃度のヒスタミンが検出されたことから,店の衛生管理に問題があったことも考えられる.

自家製の干物を作る場合には,製造工程全般で衛生管理に気をつける必要がある.
事例1で患者が喫食したアジ及びヒスタミンが検出されたサバ,事例2及び事例3で食中毒の原因となったマグロはいずれもヒスタミンによる食中毒の原因となる事が多い魚である15).

これらの魚は,衛生管理に気をつけて取り扱う事がヒスタミンによる食中毒の発生防止に重要である.