・症 状
コリンエステラーゼ活性阻害
•軽 症:食欲不振,胸部圧迫感,発汗,流涎,悪心,嘔吐,腹痛,下痢,倦怠感,不安感,頭痛,めまい,軽度の縮瞳
•中等症:(軽症の諸症状に加え)視力減退,縮瞳,顔面蒼白,筋けいれん,血圧上昇,頻脈,言語障害,興奮,錯乱状態
•重 症:失禁,縮瞳,気管支分泌増加,湿性ラ音,肺水腫,呼吸困難,全身けいれん,呼吸筋麻痺,意識混濁,昏睡,体温上昇(37~38℃)
特記事項
○コリン作動性症状が一旦寛解した後に,再度悪化することがある
(出典 日本集中治療医学会 11:133︲137,2004)
○まれに遅発性の末梢神経障害が出現(曝露から6~21日後)することがある
治療法
Ⅰ章【2】項 農薬中毒の治療(P3~P5)に記した処置のうえに,アトロピン・プラリドキシム(PAM®)併用療法
1)アトロピン(アトロピン硫酸塩注射液:0.5 ㎎/A(1㎖))
•適 応:気道分泌の増加および気管支収縮と著しい徐脈。使い過ぎると,副作用が出る。
特に消化管蠕動の低下は,消化管除染に不利に働き,中毒症状の再燃や遷延の一因となりうる
•初 回:1~2㎎(小児0.05 ㎎/㎏)を静注する。この用量でアトロピンの副作用(口渇,頻脈,散瞳,腹満,排尿障害など)が出現するなら,有機りん中毒ではないか,あるいはアトロピン投与を必要としない程度の軽い中毒と判断してよい
•重症例:2㎎を15~30分ごとに静注,あるいは同程度の用量を持続静注する。
投与量および投与期間には明確な基準がない。症例ごとに必要に応じて,増量または減量,中止を考える
2)プラリドキシム(PAM®
)(プラリドキシムヨウ化物注射液:500 ㎎/A(20 ㎖))
アトロピン硫酸塩では効果のない筋線維性収縮,筋麻痺に効果がある。重症の有機りん剤中
毒が疑われる場合,できるだけ早期に投与を開始し,有効血中濃度を維持するよう十分量を
使用,十分な期間にわたって投与を持続することが推奨される。投与期間には一律の基準は
なく,原因物質や中毒症状の程度によって調節する
•初回投与:1~2g(小児では20~40 ㎎/㎏)を生食100 ㎖に希釈し,15~30分間かけて点滴静注または5分間かけて徐々に静注する。パム投与初期には呼吸管理を十分に行う
•継続投与:投与後1時間経過しても十分な効果が得られない場合,再び初回と同様の投与を行う。それでも筋力低下が残る時は,慎重に追加投与を行う。0.5g/時の点滴静注により1日12gまで投与可能
<参考>海外における小児投与量:初回量は20~50 ㎎/㎏(最大2g)を生理食塩水で5%溶液とし,30分以上かけて投与する。継続投与する場合は1~2%溶液として,10~20 ㎎/㎏/時で投与する
特記事項
◦有機りん製剤の多くが有機溶剤を含有するため,嘔吐により誤嚥性肺炎を合併しやすい
◦皮膚に付着した場合:汚染着衣の除去や汚染皮膚を石けんと温水で洗うことも有効である。
医療従事者の二次的曝露に注意
◦サクシニルコリン(スキサメトニウム)または他のコリン作動薬は使用しない
◦確認:血液(ヘパリンを加えた全血,血球,血漿,血清)1~2㎖採取コリンエステラーゼ活性の測定
◦回復後の指導:血清コリンエステラーゼ活性が正常値にもどるまで数週~数ヵ月間は有機りん剤,カーバメート剤などの農薬の取扱いをさける