2)呼吸管理;呼吸障害がみられた場合,また呼吸障害がなくても,低血圧,意識障害あるいはけいれんなどがみられるときには酸素吸入を行って下さい。
ただし,パラコート剤,ジクワット剤中毒の場合は活性酸素発生を出来るだけ少なくするために止むを得ないケース以外は,酸素吸入を行わないで下さい。
舌根沈下,上気道浮腫などの気道閉塞,嘔吐の危険性,また陽圧換気の必要性があるときは,気管挿管による気道確保を行って下さい。
呼吸中枢の抑制,呼吸筋麻痺などの場合は,換気が不十分になったら人工呼吸器による換気補助を行って下さい。
3)輸液;必要に応じ輸液を行います。
中毒患者は一般に多めの輸液量で管理しますが,農薬の種類により肺水腫をおこすことがあるので急速輸液には十分な注意が必要です。
4)循環管理;有機りん剤やカーバメート剤による不整脈(主に徐脈)に対しては,硫酸アトロピンが著効を呈します。
重症例に推奨される初回投与量は2~4㎎回ですが,合計20~40㎎以上が必要になることもあります。
重症の徐脈に対しては経皮的もしくは経静脈的心臓ペーシングを行います。
低血圧(ショック)に対しては,まず,循環血液量を回復するために,細胞外液補充液(乳酸リンゲル液)の急速輸液を行います。輸液によってもショックから離脱できない場合はドパミンの投与を開始します。
心拍出量が低下していれば,ドブタミン,末梢血管が拡張していればノルアドレナリンを投与します。
異常高血圧に対しては,速やかな降圧が必要です。
中枢神経系興奮作用のある薬毒物による場合は,鎮静のためベンゾジアゼピン系薬物が適応となります。
β受容体の遮断薬であるプロプラノロールの単独使用はα刺激作用が出現して一層高血圧となる危険があるため中毒では禁忌です。
5)強制利尿;強制利尿には中性利尿,酸性利尿アルカリ利尿,塩化物利尿がありますが,中性利尿は有効性が証明されず,酸性利尿は腎障害により推奨されないため,アルカリ利尿のみ行われる傾向にあります。
塩化物利尿は生理食塩水あるいは乳酸リンゲル液を用いて塩素を負荷することで臭素の排泄を促進する方法です。
強制利尿の実施前には,意識障害,呼吸抑制,けいれんなどに対する処置のなされていることを確認して下さい。
十分な補液がなされていて腎機能障害がないことを確認した上で,原則として脱水がある場合には乳酸リンゲル液を,脱水状態から離脱すれば生理食塩水と5%ブドウ糖液の等量配合液を,血清電解質のチェックを行いながら輸液します。
時間あたり250~500㎖の尿量を目標とし,目標の利尿が得られない場合は,利尿薬やドパミンを用いて下さい。
尿値は7.5以上を目標とし,重炭酸ナトリウム液の反復静注または点滴静注を行います。
ただし,人工呼吸器などで補助換気を受けている患者では,重篤なアルカローシスを来さないように注意して下さい。
6)吸着型血液浄化器による血液灌流;吸着型血液浄化器による血液灌流は,血液中の農薬を除去するのに有効です。
血液灌流の適応は,重篤,あるいは致死的になりうることが推定される中毒で,起因物質の分布容積が小さく,有効な拮抗薬や特異的治療薬が存在しない場合,もしくは十分な内因性クリアランスが期待できない場合です。
ただし,イオン化した物質や,アルコール類の除去効率は良くありません。
7)血液透析;人工腎臓あるいは腹膜灌流による透析療法は,腎障害のある場合は必須です。また血液中の農薬を除去するのに有効な場合もあります。
持続的血液濾過および持続的血液濾過透析は中・高分子量物質まで除去が可能で,時間あたりの除去効率は劣りますが,心血管系に与える影響が小さいため,低血圧の患者に使用しやすく,血液浄化後の中毒起因物質の血中濃度再上昇(リバウンド)がおこりにくい方法です。
8)血漿交換,交換輸血;血漿交換は,他の血液浄化法で除去できない高分子量物質や蛋白結合率の高い中毒起因物質の除去が可能です。
交換輸血は,中毒起因物質のうち,溶血をおこす可能性のあるものや,メチレンブルーが無効の重症メトヘモグロビン血症などに試みられることがあります。
9)解毒剤・拮抗剤;解毒剤・拮抗剤の適応となる中毒の多くは毒物・劇物によるものです。
解毒剤・拮抗剤を用いないと短時間のうちに多臓器に不可逆的な障害が発生します。
適応・投与方法とも,公益財団法人 日本中毒情報センター(連絡先:表紙裏に記載)から情報を入手して下さい。
なお,一部の展着剤等に含まれるメタノールの解毒剤として『ホメピゾール点滴静注1.5g「タケダ」』があります。
10)鎮静剤,抗けいれん剤;興奮,けいれんに対し,鎮静剤,抗けいれん剤(ジアゼパム,フェノバルビタールなど)などの投与を行います。
(補足説明)
農薬の種類,使用方法と使用時の防御について 農薬中毒を診断・治療するにあたって,知っておくと有用と考えられる農薬の知識を以下に補足しました。