・https://www.who.int/peh-emf/publications/facts/physicalproperties_182.pdf
ファクトシート No.182 1998 年 5 月
電磁界と公衆衛生:「物理的特性と生体系への影響」
自然や多くの人工的な原因が電磁波というかたちで電磁エネルギーを発生させています。
電界と磁界の振動で構成されるこれらの波は、それぞれが別々に細胞、植物、動物、人類といった生体系に相互作用を示します。
この相互作用をより良く理解するためには、電磁界スペクトルを構成する波の物理的特性を知ることが必要です。
電磁波は波長、周波数およびエネルギーによって特徴づけられます。
この3つの要因は相互に関連をもっていますので、それぞれの要因が生体系に影響を与えることになります。
* 電磁波の周波数は単位時間当たりにある時点で振動して通過する回数を指します。
毎秒何サイクルまたはヘルツ(Hz)で表されます。毎秒1サイクルは1ヘルツと同じことです。
大きく分けると、RF 界にはキロヘルツ(kHz)または毎秒 1000 サイクル、メガヘルツ(MHz)または毎秒百万サイクル、ギガヘルツ(GHz)または毎秒十億サイクルなどの周波数があります。
* 電磁波の波長が短ければ短い程、周波数は高くなります。
例えば AM 放送帯の中心周波数は百万ヘルツ(1MHz)で、その波長は約 300 メートルです。
電子レンジは 24 億5千万ヘルツ(2.45GHz)で、その波長は 12 センチです。
* 電磁波は大変小さな光子と呼ばれるエネルギーの束から成り立っています。
それぞれの光子のエネルギーは直接的に波の周波数に比例します。
周波数が高ければ高い程、個々の光子のエネルギー総量は大きくなります。
*
電磁波が生体系にどの程度影響を与えるかは、電磁波の強さと光子のエネルギー量によっ
て決まります。
周波数の低い電磁波は電磁界(electromagnetic fields)、大変周波数の高い電磁波は電磁放
射線(electromagnetic radiations)と呼ばれています。
電磁波はその周波数とエネルギーによって非電離放射線(NIR)と電離放射線に分けられます。
* 電離放射線は、エックス線やガンマ線などの極めて高い周波数の電磁波で、細胞を構成する分子の原子結合を破壊することによって電離作用(プラスやマイナスに荷電された原子や分子を生成すること)を起こさせるのに十分な光子エネルギーを持っている
* 非電離放射線は、光子エネルギーが原子結合を破壊するには至らない程の電磁スペクトルの部分と一般的に表現できます。この中に響をもつこともあります。
* 生物学的影響とは、電磁波暴露によって感知できるだけの生理学的変化を生体系内で生じさせることを指します。
* 健康への悪影響は、その生物学的影響が身体の正常な調節能力を越える場合であり、結果として健康が損なわれた状態に陥ることを指します。
* 多少強い日差しに対して皮膚の血流が増加するような、ある種の生物学的影響は無害といえます。
肌寒い日に直射日光を暖かく感じたり、太陽によるビタミンD生成といった生物学的影響は有益です。
しかし、日焼けや皮膚がんなどの痛みのようにある種の生物学的影響は健康への悪影響をもたらします。
WHO 国際電磁界プロジェクト(以下、EMF プロジェクト)はラジオ波やマイクロ波などの RF 界、超低周波(ELF)電磁界、静的電磁界、などの暴露による健康問題を取り扱っています。
これらの電磁界は健康影響をもたらすような、それぞれが違った生物学的作用を引き起こします。
RF 電磁界は誘導電流と熱作用を引き起こすことが知られています。
証明されていませんが、その他の生物学的作用も報告されています。
* 約百万ヘルツ以上の RF 界は、主としてある媒体に存在する水の分子やイオンを振動させることで熱を発生させます。
たとえ非常に低レベルの RF 界でもそれに見合った微量の熱を発生しますが、その人が気がつかないうちに、人体の正常な温熱制御の過程で消去されます。
* RF 界に関するいくつかの研究によれば、熱を引き起こすには至らない程の RF 界暴露が、がんや記憶障害を含む健康障害を引き起こすかもしれないと示唆しています。
これらの公開された疑問に対する協調研究の推進や認定は EMF プロジェクトの主要な課題のひとつです。
* 約百万ヘルツ以下の RF 界は、主として筋や神経組織を構成する細胞を刺激する電流や電荷を誘導します。
生体の正常な化学的反応過程として人体内では電流がすでに存在しています。
もし RF 界が、この既存の電流レベルを非常に越える程の電流を誘導すれば、健康障害を引き起こす可能性があります。
超低周波(ELF)電磁界。
これらの電磁界による生体系への主作用は、電流や電荷を誘導することにあります。
この作用機構によって、環境レベルの超低周波電磁界暴露によって生じるとされる小児がんなどの健康影響を説明するには無理があります。
* 超低周波電界は、どの程度電流が流れているかにかかわらず、電荷(電圧)があればそこにいつでも存在します。人体内部に電界が貫通することはほとんどありません。
非常に強力な電界は皮膚の毛が振動することによってその存在を感知できます。
しかし、ある研究では、小児がんやその他の健康障害発生率増加と弱い電界との関連を示唆しています。
これを否定する研究もあります。
EMF プロジェクトは電磁界曝露の健康リスク評価の改良につながる研究を重点的に行うように勧告しています。
* 超低周波磁界は、電流が流れればそこにいつでも存在します。
超低周波磁界は、ほとんど減衰することなく人体を貫通します。
疫学研究のあるものは、がん特に小児がんと超低周波磁界との関連性を報告していますが、あるものはこれを否定しています。
現在、EMF プロジェクトの推奨のもと、低い(環境)レベルの超低周波磁界の影響に関する研究は、磁界レベルのモニターを含めて現在進行中です。
静的電磁界。
これらの電磁界による生体系への主作用は、電流や電荷を誘導することにあります。
この他にも非常に強力な静的電磁界の場合ですが、健康障害に結びつく可能性のある影響が示唆されています。
* 静的電界は、人体内部に電界が貫通することはありませんが、皮膚の毛が振動することによってその存在を感知できます。
非常に強力な静的電界による放電を除いて、健康影響はないと考えられます。
* 静的磁界は、人体の内側と外側でその強さを変えることはないと思われます。
非常に強い静的磁界は血流または正常な神経刺激に変化を与えます。
しかし、この様な強い静的磁界に日常生活では遭遇することはありません。
しかし、労働環境で生じるレベルの静的磁界の長期間暴露影響については情報が不足しています。
安全基準。
電磁界の人体暴露が健康障害をもたらさないように、電磁界を発生する人工的機器が安全であり、その使用が他の機器の電気的誤作動をもたらさないように、種々の国際的ガイドラインと基準が設定されています。
これらの基準は、健康障害を引き起こす影響の一貫性や再現性となる証拠を確認する科学者グループによって、関連するすべての研究報告を再検討した上で作成されています。
これらの科学者グループは次に、国際組織あるいは政府組織を介して、行動基準のためのガイドラインを勧告しています。
WHO が非電離放射線防護に関して公式に認めた、非政府組織が国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)です。
ICNIRP は、紫外線、可視光線、赤外線を含むすべての電磁界に対する、人体暴露限界の国
際的ガイドラインを確立しています。
• 電磁波は自然現象によっても発生しますが、人工的発生源がそのほとんどを占めています。
電磁波のスペクトラムには電離および非電離放射線が含まれています。
• エックス線やガンマー線などの電離放射線は、細胞を構成する分子の原子結合を破壊する
ことによってプラスまたはマイナスに荷電した原子あるいは分子の一部を生成させる(これを電離作用という)に十分な光子エネルギーをもっています。
• どんなに強い非電離放射線でも生体系内で電離作用は起こしません。
しかし、非電離放射線は昇温させたり、細胞内化学反応を変化させたり、組織内で電流を誘導するといった生物学的影響をもたらします。
• EMF プロジェクトは静的電磁界、超低周波(ELF)電磁界、ラジオ波やマイクロ波などのRF 界(周波数で表すと 0-300 ギガヘルツ)の健康問題を取り扱っています。
• 周波数の異なる電磁波はそれぞれが別々に、細胞、植物、動物、ヒトといった生体系に相互作用を示します。
電磁波が生体系にどの程度影響を与えるかは、電磁界の強さと光子エネルギーの総量によって決まります。
• 電磁波はいつもではありませんが、時には健康への悪影響に結びつくような、生物学的影響をもつこともあります。
EMFプロジェクトの活動や結果の最新情報については、インターネットのホームページ
(http://www.who.int/peh-emf/en/)にお問い合わせください。より詳細な情報をお求めの方は
ジュネーブ、WHOのHealth Communications and Public Relations(電話+41-22-791-2532、
ファックス+41-22-791-4858)へご連絡ください。