₂ .観察研究
過去₁₀年間に,一般公衆のRF電磁界への居住環境ばく露とNSPSの報告との関連の可能性について,疫学研究からの証拠が多数発表されてきた(Röösliら [₃₁];Baliatsasら [₅₆]).
これらの研究の大半は横断的研究であるが,より最近の幾つかの研究は前向きコホートからの知見を報告している(Freiら [₅₇];Mohlerら [₅₈]).
調査対象の電磁界発生源は主に,携帯電話端末及び基地局であった.
実験研究とは対照的に,自己申告のEHSを呈する人々のばく露とアウトカムとの関連を調査した観察研究は ₁ 報のみで(Röösliら [₅₉]),ELF電磁界の潜在的影響についての研究はやや古い(Liら [₆₀]).
疫学研究ではいずれも,アウトカムは自己申告に基づいて,頭痛,睡眠障害,目眩,けん怠感,集中困難,皮膚の問題の有無が評価された(Röösliら [₃₁];Baliatsasら [₅₆]).
ばく露の特徴の観点で,研究間の主な違いが考慮された(Röösli [₅₁];Baliatsasら [₅₆]).
参加者による電磁界発生源へのばく露の度合いの主観的な推定に強く依存する,自己申告の尺度に基づくばく露レベルを評価した研究もあれば(Sandstromら [₆₁];Santiniら [₆₂]),ジオコード化された住所から直近の基地局までの距離(Blettnerら [₆₃]),電磁界強度のスポット測定(BergBeckhoffら [₆₄]),個人用ばく露メータ(Thomasら [₆₅];Heinrichら [₆₆]),ばく露予測モデル(Mohlerら [₁₀])といった客観的な手法を用いた研究もあった.測定されたばく露レベルは研究によって異なるが,いずれも国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が制定したガイドライン(ICNIRP [₆₇])よりも大幅に低かった.
大半の研究で,ばく露レベルが最も高いグループのカットオフ・ポイントが₀.₅V/m以下であった点は特筆に値する(Röösliら [₃₁]).
全体として,これまでの研究の大多数では,NSPSに対する実際のばく露の影響は示唆されていない(BergBeckhoffら [₆₄];Thomasら [₆₅];Mohlerら [₁₀],[₅₈];Heinrichら [₆₆];Freiら [₅₇]).関連する系統的レビュー及びメタ分析は一貫して,日常環境における急性または慢性の症状に対する実際のばく露の影響を支持する証拠はないか不十分である,と結論付けている(Röösliら [₃₁];Baliatsasら [₅₆]).
統計的有意性はないものの,「高ばく露」に分類された人々は「非ばく露」「低ばく露」の人々より多くの,またはより深刻なNSPSを報告する傾向が顕著である(Baliatsasら [₅₆]).
この見かけ上の関連は,影響の過大評価やばく露の誤分類につながる選択バイアスによるもの か も 知 れ な い と 示 唆 さ れ て い る(Röösliら [₃₁];Baliatsasら [₅₆]).
特に明白な知見の一つは,自己申告のばく露に依存する研究は,実際のばく露の客観的な尺度を用いた質の良い研究と比較して,より強い影響を見出す傾向があるという点である(Baliatsasら [₅₆]).人々は自身の電磁界ばく露を正確に推定することはできない(Inyangら [₆₈];Vrijheidら [₆₉];Freiら [₇₀];Shumら [₇₁];Hutterら [₇₂])ことから,症状と認知上のばく露との関連は,症状を生じると信じているものにばく露されていると認知すること自体が実際に症状を生じる「ノセボ効果(nocebo effect)」によるものかも知れない(Rubinら [₇₃];Röösli [₅₁]).
別の説明として,記憶想起バイアスや選択バイアスも,この影響に寄与しているかも知れない.
このため,手法上の質が有意な関連の存在とその強さの重要な決定因子である.
主にばく露評価,サンプル抽出,交絡因子の調整に関する,バイアスのリスクがより高い研究ほど,より有意な影響を報告する傾向がある(Röösliら [₃₁];Röösli及びHug [₂₆];Baliatsasら [₅₆]).
バイアスの可能性がより低く,個人用ばく露メータやばく露予測モデルといったより進んだばく露の特徴付けを用いた最近の研究では,有意な結果が示されることがより少ない(Thomasら [₆₅];Heinrichら [₇₄];Mohlerら [₁₀, ₅₈];Freiら [₅₇]).
実験研究に対する観察研究の主な長所は,大規模な人口集団のサンプルにおける長期的なばく露とアウトカムを評価することにある.ばく露の特徴付けにおいてより系統的で妥当なアプローチを用いた,良好にデザインされた最近の研究(Heinrichら [₆₆];Freiら [₅₇];Mohlerら [₅₈])の結果に鑑みれば,RF電磁界はNSPSに影響しないという証拠がより強固になりつつある.
runより:次回でちょうど良い長さなので出来れば明日掲載します((。´・ω・)。´_ _))ペコ