2:「電磁過敏症」とは何か? | 化学物質過敏症 runのブログ

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・II. 実験研究及び観察研究からの証拠
₁ .実験研究
 無作為化及び二重盲検化を用いた実験研究からは,ばく露とアウトカムとの因果関係についての質の高い証拠が得られる(Atkinsら [₁₈]).

このため,電磁界ばく露がNSPSのトリガとなり得る,またはNSPSを悪化させ得るかどうかを調べるため,多くの実験研究が実施されてきた.

これらの研究では,参加者は主にEHSの人々で,異なるレベルの高周波(RF)または低周波(ELF)電磁界にばく露された(Rubinら [₅, ₁₉]).

これらの研究では主に,自己申告の症状,生理学的変化,認知の変化実ばく露と偽ばく露を判別する能力などが調べられた(Leitgeb及びSchröttner [₂₀];Kwonら [₂₁]).
 初期の誘発研究は,オフィス作業者における健康懸念や症状の増加の原因とされた,画像表示装置(VDU)の影響に着目した(Bergら [₂₂]).₁₉₈₂~₂₀₀₀年に,₁₃報の研究が実施された.

これらは全て,VDUを原因と考える症状を呈する人々を対象としていた(Rubinら [₁₉]).
そのうち ₂ 報で僅かに有意な関連が報告されたが,フォローアップ研究(Oftedalら [₂₃, ₂₄])では再現されず,多重比較の実施に伴う問題が指摘されている(Sjöberg及びHamnerius [₂₅]).
 より最近の実験研究では,携帯電話端末(主に第二世代のGSM型,頭部の局所的な比吸収率(SAR)が最大₂ W/kg)からの近傍界ばく露に関する症状の報告が調査され,EHSの人々におけるばく露の影響を示唆するエビデンスは認められなかった(Rubinら [₅, ₁₉]; Röösli及 びHug [₂₆];Augnerら [₆];Kwonら [₂₇]).

NSPSに対する有意な影響が散発的に認められた研究も少数ある(Hillertら [₂₈];Kimら [₂₉])が,これらの影響の説明としては,偶然によるもの,または症例と対照の比較可能性を巡る問題が考えられている(Rubinら [₅],[₁₉];Roosli及びHug [₂₆]).

例えば,地上基盤無線(TETRA:警察,消防等の特定用途向け業務用デジタル移動通信システム)の端末を定常的に用いる,過敏な,または過敏でない人々を対象とした研究では,連続波信号へのばく露後の皮膚の感覚の低下が唯一の影響で,これは自身がTETRA信号に対して敏感であると感じている参加者のみで認められた(Nietro-Hernandezら [₃₀]).
 携帯電話基地局からの遠方界ばく露を用いた誘発研究では主に,周波数範囲がGSM₉₀₀/₁₈₀₀またはUMTS(第三世代携帯電話)で,電界強度が ₁ ~ ₁₀V/mのばく露レベルに焦点が当てられた(Röösliら [₃₁]).幾つかの研究では,実ばく露時に症状の増加は認められなかった(Regelら [₃₂];Furubayashiら [₃₃];Wallaceら [₃₄]).
₃ 報の無作為化・二重盲検化試験(Zwanbornら [₃₅];Eltitiら [₄];Riddervoldら [₃₆])では,ばく露と各種の症状のスコアとの有意な関連が認められたが,これらは手法上の問題によるものと疑われた.

Zwambornら [₃₅]の研究では,症例と対照の人口統計学的な違いが結果に影響を及ぼした可能性がある.Eltitiら [₄] の研究では,実ばく露と偽ばく露の順序が結果に影響した(Rubinら [₅];Röösliら [₃₁]).

Riddervoldら [₃₆] の研究では,実験中の症状の増加は症状のスコアにおけるベースラインの違いによって生じたことが,追加的な分析で示された.
 合計₂₉報の実験研究で,各種の電磁界ばく露と,客観的に測定されたEHSを呈する人々の生理学的反応における変化との関連があるかどうかが調べられた(Rubinら [₃₇]).

そのうち ₅ 報が,瞳孔反射(Reaら [₃₈]),視覚的集中力及び知覚(Trimmel及びSchweiger [₃₉]),心拍及び血圧(Hietanenら [₄₀]),睡眠の質の指標(Mueller及びSchierz [₄₁];Arnetzら [₄₂])への影響を示唆する,統計的に有意な結果を報告した.

但し,これらの知見は,孤立して,再現不能で,議論の余地があり(Rubinら [₅, ₁₉]),ばく露条件の順序のバランスが取られていないといった欠点がしばしばある(Hietanenら [₄₀]).
ELF電磁界と症状や生理学的反応との関連を調べた研究によれば,ばく露は急性影響を及ぼさないようである(Wennbergら [₄₃];Lyskovら [₄₄];Wenzelら [₄₅]). ₁
報でばく露の遮へいによる睡眠の質の有意な改善が認められたが,これは複数の参加者が盲検化を見破ることができたためであるとされた(Leitgebら [₄₆]).
 これらの誘発研究の大半は実験室で実施され,ばく露装置の電源のオン/オフまたは遮へいカーテンの利用により,参加者の電磁界ばく露を避けることでばく露条件を制御した複数の電磁界を用いた(Oftedalら [₂₃, ₂₄];Flodinら [₄₇];Heinrichら [₄₈];Danker-Hopfeら [₄₉];Leitgebら [₄₆];Augnerら [₅₀]).

これらの研究のいずれにおいても,電界強度が₀.₄₃V/mを超えない実ばく露条件下ではNSPSの増加は認められなかった(Röösliら [₃₁]).
₁ 報で「静穏度」への予期せぬ有意な影響が認められた(Augnerら [₅₀]).

メタ分析からの証拠は,自己申告のEHSを呈する人々は実ばく露の有無を検知できそうにないことを示している(Röösliら [₃₁];Röösli [₅₁]).
EHSを呈する参加者が経験する症状は,自身がばく露されていると信じている場合(その信念が正確かどうかにかかわらず)に生じる傾向があることが,多数の誘発研究で認められている(Wenzelら [₄₅];Wilenら [₅₂];Rubinら [₅₃];Eltitiら [₄];Oftedalら [₅₄];Hillertら [₂₈];Leitgebら [₄₆];Furubayashiら [₃₃];Szemerszkyら [₅₅];Wallaceら [₃₄]).

これは,心理学的要因がEHSの症状のトリガになり得ることを示す強い証拠である.
 要約すると,相当数の研究の知見が,EHSを呈する人々または無症状の対照において,低レベルのRFまたはELF電磁界による急性のNSPS,認知及び生理学的反応への影響を支持していない.

そのような影響が認められた少数の研究では,結果は一貫性がないか矛盾しており,実ばく露と偽ばく露の順序のバランスが取られていない,症例と対照の人口統計学的なベースラインに差がある,多重試験による誤差といった手法上の欠点が,もっともらしい説明とされている(Rubinら [₅, ₁₉] ,[₃₇];Röösliら [₃₁];Röösli [₅₁];Röösli及びHug [₂₆]).
 こうした実験研究からの知見はあるものの,未解決の疑問が幾つかある.

特に,実験研究では短期的な電磁界ばく露はNSPSのトリガではないという良い証拠が得られているが,数週間,数か月または数年続く長期的なばく露が症状を生じるかどうかを調べることはできない.

この疑問に答える唯一の実用的な方法は,観察研究である.