・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
ニュースレター第112号
・「香害」は日本だけの問題ではない ―米国でも香りつき商品で体調を崩す人が増加
理事 水野玲子
身近な生活用品のにおい(香り)の被害者が増え、「香害」は現代特有の新しい公害の様相を呈してきました。
そもそも、においによる健康被害の原因は、空気中に揮発したさまざまな揮発性有機化合物(VOC)ですが、現実には、何十、何百もの人工化学物質が混ざり合い、原因の特定は不可能です。
しかも、市販されている香りつき商品の成分を、企業はただ「香料」と記載すればよく、詳しい成分までは表示義務がありません。ですから消費者には、どんな物質が入っているのか、それらが本当に安全なのか、企業秘密の壁に遮ぎられてわからないのです。
もともと、合成香料のほとんどは人工的に石油から合成されたものですが、それらの中には内分泌かく乱物質(環境ホルモン)などの有害物質がたくさんあります。
近年、海外でも香害がクローズアップされ、市民団体が、企業秘密とされている香料成分を測定したり、使用している化学物質の情報開示を求めたりする動きが出ています。
増える化学物質過敏症(MCS)米国でも香害が社会問題に
香害が社会問題となっているのは日本だけではありません。
米国で行われた大規模なウェブ上での調査*1によると、過去10年間に、化学物質に過敏であると自己診断した米国人は約2倍に増加し、医者に MCS であると診断された人は3倍以上に増えたそうです*2。
この調査の結果、現在、米国人の約4人に1人が MCS(医者の診断と自己診断を含めた)であることが判明しました。
MCS の人は、空気中のごく微量な化学物質に敏感に反応し、たちまち体調を崩してしまいます。MCS患者の約7割は喘息もちで、8割以上の人が消臭スプレー、香料入り洗剤、香水などの香りつき商品によって頭痛などを訴え、香りつきエアーフレッシュナー(空気清浄機)*3などに近寄れないことなどが明らかになりました。
米国でも香りつき商品の氾濫が大きな社会問題となりつつあり、国民の MCS に拍車がかかっている状況にあることがわかりました。
国際香粧品香料協会(IFRA)使用の化学物質の約半分に危険性あり 香料の世界市場規模は2兆円超といわれ、年々拡大しています。
そうした中、香料業界の国際的な組織IFRA に、香料や添加剤などに使用している化学物質の情報公開を求めたのが、米国の消費者団体「地球のための女性の声(Women?s Voicesfor the Earth:WVE)」です。
IFRAは、WVE からの要請を受け、会員企業が使用している約3000種類の人工化学物質リストを公表しました。
その情報をまとめた WVE の2015年報告書*4によれば、3000種類もある人工化学物質の中には、国連のGHS*5において「急性毒性(急性毒性区分1~3)」の項目に含まれる物質が44種ありました。
また、皮膚、眼、気道刺激性、呼吸器、皮膚感作性を示す「危険(危険性大)」項目190種、「警告(危険性小)」項目1175種(共に急性毒性区分4)。
その他にも人体に有害な物質が97種あり、それらには発がん性、呼吸器感作性、生殖毒性、吸引性呼吸器有害性などがあるとされています(表)。
この調査の結果、IFRA 会員企業が使用する約3000種類の人工化学物質の半分に、危険が隠されていたことが判明したのです。
報告書の著者 A.Scrantonは「IFRAは、自分たちは〈最高レベルの安全性を確保している〉としているが、実際のところ、それぞれの物質がどの程度、どのくらい使用されているのか何も示していない。
しかも、多くの化学物質の複合影響については、科学的知見も世界的に確立されたとは言えないため、人への影響は未知数」と述べています。
この他にも、IFRA が公表した香料成分や添加剤などの中には、単独の成分でも危険なものが多く、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)やスチレンなどの発がん物質、パラベンや合成ムスク、フタル酸エステル類(フタル酸ジエチル〈DEP〉、フタル酸ジイソノニル〈DINP〉)などの内分泌かく乱物質も含まれていました。
IFRA は、科学に基づく安全基準を作るために「香粧品香料原料安全性研究所(RIFM)」で研究しているとしていますが、産業界側の研究はほとんど公開されないのが現状です。
香料メーカーは、「秘密厳守」「自主規制」などという言葉で危険な事実を覆い隠し、公衆衛生上の問題である人の健康よりも企業利益を優先させていると、著者はここで厳しく批判しています。