9:花王化学物質過敏症裁判判決文 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(1)イヒ学物質過敏症について(甲1,61)
 ア 基礎情報
   化学物質過敏症は,1950年代に当時シカゴ大学小児科教授であったランドルフ[Rando].ph)が,「環境中の化学物質への適応に失敗した結果,個体の新たな過敏の状態の形成」という病態を提言したことが端緒となり,その後,1 9 8 7年に,エール大学内科教授のカレン(Cullen)が,「過去に大量の化学物質を一度に曝露された後,または長期間慢性的に化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」という概念の下,これを多種化学物質過敏状態[Multip].e Chemica1 Sensitivity : MCS)と呼ぶことを提唱された。                    ‘                    
  我が国においては,北里研究所病院の石川哲博士が,1980年代半ば,有機燐殺虫剤の慢性中毒患者の後遺症として,極めて微量の有機燐殺虫剤(ビル消毒に使われたもの)に反応する患者がおり,いわゆる不定愁訴を有することに気付いたのをきっかけとして,アメリカの医師らの医学的な知見が紹介され,化学物質過敏症が広く知られるようになったとされている。
イ 定義                                ・;
  MCSに対しては,その病態をめぐって否定的見解と肯定的見解の双方が示されているところ,平成11年(1999年),米国の専門医や研究者等3 4名が,署名入り合意文書として,「コンセンサス1999」を公表して,MCSを以下のとお。りに定義した。
  ① (化学物質の曝露により)再現性を持って現れる症状を有する
  ② 慢性疾患である
  ③ 微量な物質への曝露に反応を示す
  ④ 原因物質の除去で改善又は治癒する
  ⑤ 関連性のない多種類の化学物質に反応を示す
  ⑥‘症状が多くの器官・臓器にわたっている
  もっとも,「コンセンサス1999」については研究者間の合意事項にすぎず,イヒ学物質過敏症の医学的,病理学的な定義は,現在においても確立されるには至っていない。
ウ 病態・症候
  化学物質過敏症の病態,症候は非常に多様とされ,粘膜刺激症状(結膜炎,鼻炎,咽頭炎),皮膚炎,気管支炎,喘息,循環器症状(動悸,不整脈),消化器症状(胃腸症状),自律神経障害(異常発汗),精神症状(不眠,不安,うつ状態,記憶困難,集中困難,価値観や認識の変化),中枢神経障害(痙嫌),頭痛,発熱,疲労感等が同時に又は交互に出現するとされる。
エ 発症メカニズム
  免疫学的なもの,神経学的なもの,心因学的なものなど多方面からの研究が行われているが,いずれも決定的な病態解明には至っていない。
オ 診断方法                     
化学物質過敏症についての診断方法は,・一般に血液検査を含む日常臨床検査では特徴的な異常所見が見られないこと,個人差が大きく自覚症状も多彩であることなどから,場合によっては更年期障害や神経症など症状の類似する別の疾患と診断されることも多く,国内外を間わず決め手となる診断手法が決まっていないのが現状である。
 (イ)そのような状況の下で。厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が平成9年8月に発表した「イヒ学物質過敏症パンフレット」においては,広義の化学物質過敏症の診断基準として以下の基準が提示された。
  a 主症状
    ①持続あるいは反復する頭痛,②筋肉痛あるいは筋肉の不快感,③持続する倦怠感・疲労感,④関節痛  .
  b 副症状
    ①咽頭痛,②微熱,③下痢,腹痛,便秘,④羞明(まぶしざ),一
   通性の暗点,⑤集中力・思考力の低下,健忘,⑥興奮,精神不安定,不眠,⑦皮膚のかゆみ,感覚異常,⑧月経過多などの異常

   c 検査所見

     ①副交感神経刺激型の瞳孔異常,②視覚空間周波数特性の明らかな闇値低下,③眼球運動の典型的な異常,④SPE,CT(3次元的な断層画像が得られるガンマカメラを用いた技術)による大脳皮質の明らかな機能低下,⑤誘発試験の陽性反応

 

d 診断基準

     他の慢性疾患が除外されることを大前提として,主症状2項目かつ副症状4項目に該当する場合又は主症状1項目,副症状6項目かつ検査所見2項目に該当する場合には,化学物質過敏症と診断する。

 カ 治療法
   化学物質過敏症の治療方法については,その原因の特定や診断方法と同様に様々な問題を抱えており,化学物質過敏症の根本的な治療に結びつくような知見は,今までのところ得ちれていない。

もっとも,有効な治療方法として,①自覚症状を誘発する原因物質からの回避,②カウンセリングを含む患者教育,③身体状況の改善と有害化学物質の代謝及び排出の促進が挙げられている。
(2)有機溶剤中毒の病態(甲19~21)

  有機溶剤は一般に揮発しやすく,また,脂肪を溶かす性質があり,体内に入った有機溶剤は,肝臓や神経のような脂肪を多く含む臓器に集中する。

体内に入った有機溶剤は,その一部が肝臓で代謝され,胆汁中に排泄されるほか,腎臓でろ過されて尿中に排泄されたり,吸収したときの形のままで尿や呼気に排出されるものもある。

  有機溶剤による人体への影響には,皮膚又は粘膜の接触部位で直接障害を起こすもの,接触部位から吸収され血液中を循環して急性中毒を起こすもの,長期にわたる反復吸収によって有機溶剤が特定の器官に蓄積され慢性中毒を起とすものなどがある。
  このうち,慢性中毒の症状として,①中枢神経障害(頭痛,めまい,記銘力低下,視力低下,失調症状(歩行障害,物がつかめないなど),手指振せん(手の震え),失神,精神神経症状(不安,短気,焦燥感,不眠,無気力など)など),②末梢神経障害(手足のしびれ,痛み,筋肉の萎縮,筋力低下など),③自律神経障害(冷え症,便秘,悪心。上腹部痛,食欲不振,胃の症状,下肢の倦怠感など)といった神経障害が認められる。
(3)本件検査分析業務で使用した有機溶剤
 ア クロロホルム(甲2 2,4 0)               
  (ア)基本的性質
    クロロホルムは,塩素を含む揮発性有機化合物で,常温で揮発性がある無色透明の液体である。さまざまな有機化合物を溶かす性質があるため,試薬として使用されたり,農薬や医薬品の抽出溶剤として使用されたりしている。
  (イ)人体への影響
    吸入により咳,めまい,嗜眠,感覚麻庫,頭痛,吐き気,嘔吐,意識喪失を引き起こすことがある。

また,これらの症状は遅れで現れることがある。目に対する曝露では痛み,発赤,催涙を,皮膚ぺの曝露では発赤,痛み,皮膚の乾燥を引き起こす。
  (ウ)適用法令関係
    有機則上の第1種有機溶剤等(安衛令別表第6の2第14号,有機則1条1項3号イ。平成26年IL月1日以降は特定化学物質予防規則上の第2類物質,特別管理物質に該当する。)
    日本産業衛生学会が定めた許容濃度は,3ppmである(平成21年7月1日より,10ppmから3ppmに引き下げ)。
 イ ノルマルヘキサン(甲24,40)      
  ぐア)ノルフルヘキサンは,常温で無色透明の液体で,水に溶けにぐい揮発性有機化合物である。

溶剤として使用され,ポリエチレンやポリプロピレンの重合溶剤,接着剤,塗料,インキなどの溶剤として使用されている。                            
  (イ)人体への影響
    吸入により,めまい,嗜眠,感覚麻庫,頭痛,吐き気,説力感,意識喪失を引き起こすことがある。

目に対する曝露では,痛み,発赤を,皮膚へめ曝露では発赤,皮膚の乾燥を引き起こす。
  くウ)適用法令関係
    有機則上の第2種有機溶剤等(安衛令別表第6の2第39号,有機則1条1項4号イ)
    日本産業衛生学会が定めた許容濃度は,40ppmである。