・https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei/50/5/50_5_338/_pdf/-char/ja
生活衛生(Seikatsu Eisei)Vol. 50 No. 5 338-342(2006)
特 集 快適で安心な生活環境を求めて
快適な室内環境-シックハウス症候群を中心に-
古 市 裕 子
大阪市立環境科学研究所
!.はじめに
1.シックハウス症候群とは
1970年代の石油ショック後、欧米では冷暖房費を節約するために建築物の省エネルギー化が進んだ。
省エネ対策として、建物の気密性を高めたため、換気効率が悪化した。
そのため、建材等から発生する揮発性有機化合物(VOCs)の室内空気濃度が上昇し、欧米各地のこのような換気効率の悪い建物において1980年代初め頃から、粘膜系、呼吸器系の諸症状が愁訴されるようになった。
これらの症状はシックビルディングシンドローム(SBS)と呼ばれている。日本ではSBSに倣ったシックハウス症候群という和製英語が一般的になっている。
日本ではこの問題が起こる前に先駆け、1970年に「建築物の衛生的環境の確保に関する法律(ビル衛生管理法)」が定められていたため、SBS問題が特に取り沙汰されることはなかった。
しかし、1990年代以降、住宅の気密性がさらに増すようになって、新築の一般住居等で、目やのどが痛くなったなどの症例が増加した。
2.日本での法規制
1997年、厚生省(現厚生労働省)はシックハウス症候群の主要原因物質であるホルムアルデヒドの室内濃度指針値を100μg/m3(0.08ppm)と定め、その後、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(2000年)、「日本住宅性能表示基準・評価方法基準」改正(2001年)、「建築基準法」改正(2003年)と法整備が進んだ。
表1に厚生労働省による室内濃度に関する指針値を示す。
また、表2に主要な室内空気中の化学物質関連の法律を示す。
@.シックハウス症候群原因物質の測定事例図1にトルエンの室内濃度と築年数との関係について示す(N=152 内訳:築年数1年未満44件、1年以上5年未満40件、5年以上68件)。
これらのデータは2000年から2004年までの間、一般市民・企業からの依頼調査や共同研究、大阪府医師会からの依頼調査、大阪市健康福祉局、大阪市教育委員会からの依頼調査、厚生科学研究(分担研究)で当研究所が測定した建物のうち、建築年数が把握できているものを抽出したものである[1-3]。
このときの室内濃度と築年数との相関係数は-0.30であり、弱い負の相関が見られ、築年数が経つにつれ室内濃度が減少している。
エチルベンゼン、キシレン、スチレン等もトルエンと同様な結果であった。
また、防虫剤等に使われているp-ジクロロベンゼンも相関係数-0.22と低い値であった。
p-ジクロロベンゼンが使用されている場合には、突出した値が検出された事例があり、他の物質とは違って室内空気中濃度は、p-ジクロロベンゼンを含んだ防虫剤の使用の有無に大きく依存している。
最近では住宅メーカー、建材メーカー等業界の取り組みもあってホルムアルデヒドやトルエン等の室内濃度は低減されてきている。
図4は当研究所で測定した室内空気中揮発性有機化合物(VOCs)濃度の中央値をプロットしたものである。
分析には固相-溶媒抽出-GC/MS法、および固相吸着-加熱脱着-GC/MS法を用いている。
データには築年数、建物の種類(住宅、学校、病院、オフィスなど)にこだわらず含めたが、室内濃度の減少がみてとれる。
個々の施設を解析した際の、特徴的なパターンの例を示す。
図2はある小学校の測定結果である。パソコン教室内のトルエン濃度が突出している様子がわかる。
runより:図は省略しました。