2003年には、それまで建材や接着剤に使われていたホルムアルデヒドやトルエンなど13種類の化学物質の指針値を国が制定。
しかし、今度はそれ以外の化学物質が引き金になるなど、シックハウス問題はいまだに解決していない。
幅広い環境因子が健康悪化の原因に
そもそも、シックハウス症候群は原因も症状も多種多様。診断が難しい病気といわれている。「ほとんどの人は大丈夫でも、ちょっと弱い人(敏感な人)にとっては非常に苦痛に感じる。アルコールと一緒です」。症状には個人差もあるため、「気のせい」だと周囲に言われてしまうことも。引っ越し疲れやストレス、新しい家を買ったことによる経済的不安など、住宅以外の環境因子が健康に悪影響を与えている場合もある。
厚生労働省や環境省などの研究チームの研究代表者も務める坂部教授。
屋外における農薬や除草剤による健康被害などに関する研究にも、積極的に取り組んでいる。「健康が維持でき、知的生産性が上がり、病気にならない―最終的には、そんな長寿社会にマッチした住宅を提案したいですね」
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乳がん研究がきっかけで
環境中の化学物質に興味を抱く
「私たちが1日に体内に取り入れる物質の約80%が空気で、食べ物や水は約15%ぐらいしかありません。朝起きてから夜寝るまで、呼吸は一度も止まらないでしょう(笑)。それなのに、自分たちが吸っている空気について無頓着な人が多いですね」
坂部教授が環境中の化学物質に興味を持ったのは、今から26年前。
アメリカのタフツ大学に留学していたときだ。
当時は乳がんの研究に取り組んでいたが、培養液を保存していたプラスチック試験官から化学物質が溶け出し、乳がん細胞が増殖する場面に遭遇。化学物質が人体に与える影響に興味を抱き、以来、環境因子と健康影響に関する研究を続けている。
「常に心がけているのは、“人類のために役立つ研究をする”ということ。科学は人類の幸せのためになければならないと、胆に銘じています。私の専門である環境因子と健康影響の研究は、多くの人にとって身近なテーマ。研究成果をダイレクトに患者さんに反映させ、その症状緩和に役立てることができるので、やりがいがあります」
さかべ・こう 1956年京都府生まれ。
東海大学医学部卒業後、87年から2年間アメリカのタフツ大学医学部のリサーチフェロー。
東海大学医学部助教授、北里大学北里研究所病院臨床環境医学センター長などを経て、2009年より現職。
医学部副学部長。専門は環境生命科学、環境システム医学、解剖学。