2:目には見えないほど小さなナノカプセルでがんを直撃 | 化学物質過敏症 runのブログ

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臨床試験は第Ⅲ相まで進んでいる
●ナノキャリアのカプセルを使った、主な抗がん剤の開発状況

 では、技術的な難しさはどこにあるのか。

緒方部長は「狙ったサイズを作ったり多様な種類の薬剤に対応したりできるように、ポリマーの長さや構造を設計すること」と説明する。

 ポリマーの長さや構造を設計する技術は医学というよりむしろ、化学製品を設計する「工学」の領域に入る。

実際、東大の片岡教授は工学博士だ。

ナノカプセルは、医学の世界に持ち込まれた工学的な技術だと言える。

 ナノカプセルには、抗がん剤だけではなく様々なモノを入れることができる。

ただ、抗がん剤が抱える複数の問題を解決できる可能性を持つため、現時点で最も活用が期待されているのががん治療の分野だ。

 抗がん剤の問題点としてまず思い浮かぶのが副作用だ。

静脈などに投与する一般的な方法では、なぜ副作用が起きてしまうのか。

 抗がん剤は、第1次世界大戦中に使用された毒ガス「マスタードガス」を起源としている。

現在使われている抗がん剤の中には、「毒薬」と明記されているものも多い。

 抗がん剤を狙った場所にだけ届けられればいいのだが、一般的なやり方ではそうはいかない。

問題は、抗がん剤のサイズにある。

 血管の壁には、酸素や栄養素を通すための小さな隙間が数多く空いている。

抗がん剤のサイズはこの隙間よりも小さいため、血中に投与すると、この血管の隙間から染み出して全身に行き渡る。

もちろん、がん細胞にもダメージを与えるが、がん以外の正常な細胞にも影響を及ぼす。これが吐き気や脱毛といった副作用につながるのだ。

 サイズの小さい抗がん剤は腎臓で排出されるため、短時間で体内から消されてしまう。抗がん剤を静脈注射などでそのまま体内に入れるだけでは、その能力をフルに発揮しにくいわけだ。

 では、どうすればがん細胞にだけ、腎臓に排除されることなく抗がん剤を届けることができるのか。

片岡教授やナノキャリアは、がんが自身を成長させるためのある行動に着目した。

 がんは発生すると、血液から栄養素を取り込むため、自らの周りに急速に血管を作る。

しかし、この血管の壁には、より大量の栄養素を吸収するため通常より大きな隙間が空いている。
 通常の隙間よりも大きく、かつがんが作った血管の隙間よりも小さいのが、20~100ナノメートルというサイズなのだ。

がんの血管に到達した時だけ、血管から染み出して、がん細胞に到達する。しかも、腎臓が排出する異物の大きさはおよそ10ナノメートル以下。

ナノカプセルはそれよりも大きいため、長時間消されずに体内を巡り続け、目当てのがん細胞にたどり着く。

 がんにたどり着くと、実はもう一つ厄介な関門がある。がん自身が持つ防衛システムだ。

 抗がん剤が近づくと、耐性を持ったがんは解毒たんぱく質を作って抵抗する。

そのため、がん細胞の近くまでやっとのことでたどり着いても、効果を十分に発揮できないことがあるという。

 ナノカプセルは、この防衛システムをかいくぐる工夫も兼ね備える。

まず、抗がん剤を内包しているため解毒たんぱく質に引っかからない。

次に、がんはナノカプセルをエンドソームという膜で取り囲み、pH(ペーハー)を下げて攻撃しようとするが、片岡教授らはこの行動を逆手に取った。

pHが下がるとナノカプセルが壊れ、中から抗がん剤が飛び出してがんを直撃する仕組みを採用したのだ。