・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
ニュースレター第103号2017年2月
http://kokumin-kaigi.org/wp-content/uploads/2017/09/JEPA-news-103.pdf
・黒田洋一郎先生・木村‐黒田純子先生インタビュー
環境化学物質による子どもの脳の発達への影響について
取材執筆=広報委員会
最近の研究から、自閉症をはじめとする発達障害の発生には環境要因が大きく影響していることがわかってきました。
農薬をはじめとする有害な環境化学物質が子どもの脳の発達にどのように影響しているか、これまでの研究からどのようなことがわかってきたかについて、環境脳神経科学情報センター代表で首都大学東京大学院客員教授の黒田洋一郎先生、公益財団法人東京都医学総合研究所、脳発達・神経再生研究分野の木村‐黒田純子先生にお話をうかがいました。
(以下では、黒田洋一郎先生の回答をY、木村‐黒田純子先生の回答をJとします)
―発達障害児がここ数十年で急増しています。発達障害の原因として、これまでどのようなことが考えられてきたのでしょうか。
Y 発達障害にもいろいろありますが、原因について研究が進んでいるのは自閉症です。
1943年にアメリカの L. カナー医師が自閉症を報告した当時、母親の育て方が悪いという「冷蔵庫マザー説」が唱えられていました。
その後、1977年にイギリスの M. ラター医師が一卵性双生児の疫学論文を発表し、のちに自閉症は遺伝率が92%であると計算されました*1。
この論文は他の論文でも引用され、自閉症の原因は遺伝子であるという説が一般化していきました。
しかし、この疫学調査は疫学的価値があるとは言い難いものでした。まず、たった21組の一卵性双生児を対象にしか調査をしていませんでした。
しかも、当時は自閉症の診断基準も確立していなかったため、医者が主観的に自閉症かそうでないかと決めていた時代でした。
この論文を発表したラター自身も、20年後にはこの論文を引用せず、「自閉症は先天的なもの」であるという言い方をしていました。
先天的という言葉には、胎児のときの環境も含まれます。
つまりラター自身も、遺伝子だけはなく、胎内環境にも自閉症の原因があることを認めていたと言えます。
J 病気や疾患には当然のことながら遺伝子が関係しています。
ですが、これまで自閉症では遺伝子要因が過大に評価されてきました。
ラターの研究をはじめとして、一卵性双生児を対象とした疫学調査は、遺伝子が全く同じ一卵性双生児を調べれば、遺伝要因がわかるという仮説を前提としています。
しかし、最近のエピジェネティクス研究から、遺伝子の設計図にあたる DNA が同じでも、環境要因によって遺伝子が発現する表現型(個体に現れる形質)は異なるということがわかってきました。
特に脳の高次機能の発達に関わる遺伝子発現には、環境要因の関与が大きく、一卵性双生児であっても、遺伝子発現に関わる環境が異なる(例えば兄姉、弟妹の区別や有害な環境化学物質のばく露など)ことが確認されています。
また、一卵性双生児は、早産が多く、胎内の栄養状態が低栄養になりやすいといった妊娠期のリスクが高いため、発達障害のリスクが上がることも考慮すべきです。
このように一卵性双生児を対象とした疫学調査に基づく遺伝子原因説には問題がありました。