柔軟剤のニオイで不調に、退職まで…「香害」という新たな公害 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

http://diamond.jp/articles/-/154208
2018.1.5

柔軟剤のニオイで不調に、退職まで…「香害」という新たな公害
岡田幹治:ジャーナリスト
世に溢れる「香り付き製品」で
健康被害を訴える人々
「香害」という言葉をご存じだろうか。

 香り付きの日用品などに含まれる成分で、健康被害を受ける人たちが増えている現象を指す造語だ。

 健康被害のうち最も深刻なのが、隣席の同僚らが使う「香り付き柔軟仕上げ剤」などに含まれるごく微量の化学物質に反応し、頭痛や思考力の低下、目のかすみや息苦しさを訴える、「化学物質過敏症」といわれる症状だ。

 いったん発症すると、多くの人は何も感じない、ごくわずかな量の化学物質にさらされるだけで症状を起こすようになる。

 それまで使っていた衣類・寝具・家具・書籍やアクセサリーにまで反応するようになるから大変だ。

 しかも誰もが“加害者”になる可能性がある。

 低成長の下、「香り」を売り物に利益増大にしのぎを削る企業と、ささやかな満足を求めて動く消費者――現代日本の経済社会が生み出した、この「新しい公害」の実態を随時、お伝えしていく(注1)。

(注1)この連載では、良いにおいを「匂い」、悪いにおいを「ニオイ」、どちらでもないときは「におい」と表記する。
同僚のニオイに頭痛や息切れ
「化学物質過敏症」と診断
 神戸市の地方公務員Aさん(男性、50歳代)が職場の隣席の女性のニオイで頭痛や息苦しさを感じ、早退を繰り返すようになったのは、5年前、2012年6月のことだ。

 耳鼻咽喉科を受診したが「異常なし」とされ、自衛策をいろいろ試したが、効果はない。

 思い切って隣席の女性に尋ね、女性が使いだした「香り付き柔軟仕上げ剤」が原因とわかった。

 事情を話すと使用をやめてくれたが、次第に他の同僚たちの洗剤のニオイもしんどくなり、9月に大阪市のアレルギー科クリニックで「化学物質過敏症(MCS)」と診断された。

 香りつき商品は、香料をはじめ、いくつもの揮発性の合成化学物質を含んでいる。

それが呼吸によって体内に取り込まれ、喘息やアレルギーの発作などの健康被害を引き起こす。そのうち最も深刻なのがMCSだ。

 MCSは、一度に大量の化学物質を取り込んだり、ごく薄い濃度の化学物質を繰り返し取り込んだりすると発症する(注2)。

 2009年に厚生労働省により、レセプト(診療報酬明細書)に記載できる病名リストに記載された。

 症状は、頭痛がする、記憶力・思考力が低下する、目がかすむ、耳鳴りがする、のどが痛み声がかすれる、下痢や便秘を起こす、息苦しくなる、筋肉や関節が痛むなど、きわめて多岐にわたり、重症の患者は普通の日常生活を送ることができなくなる。

 治療といっても、効果ある薬はなく、生活改善が中心になる。

 環境や食物から化学物質をできるだけ取り込まないようにし、ビタミン・ミネラルの摂取や適度の運動で健康を維持し、症状が和らぐのを待つ。

 こうした生活改善で患者の7割ほどは、普通の社会生活ができる程度に症状が改善するが、一生、苦しみ続ける人もいる。

(注2)化学物質などを体内に取り込むことを「曝露(ばくろ)」「被曝(ひばく)」「曝(さら)される」という。
「香り」がビジネスの種に
柔軟剤などの微量の物質に反応
 Aさんが発症した2012年は「第2次香りブーム」が始まった年とされている。

 その4年前の08年、輸入品の米プロクター&ギャンブル(P&G)社製の香りつき柔軟剤「ダウニー」が人気になり、国内の大手3社(P&Gジャパン、花王、ライオン)がそろって香り付き柔軟剤を発売した。これが第1次ブームだ。

 働く女性の増加とともに洗濯物の室内干しが増え、そのニオイに悩まされる家庭が増えた。香りつき柔軟剤を使えば、ニオイは消え心地よい香りが漂う。

それがブームの引き金を引いた。

 香りは使い慣れると感じにくくなるため、「より強く、より長く香る商品」が次々に発売されていく。

 そうした中でP&Gジャパンが12年、香り付けだけを目的にした商品「レノアハピネス アロマジュエル」を発売。

一本(375g)600円前後と、日用品としては高額だったにもかかわらず、一時は供給が追いつかないほど売れた。

 ビーズ状の「アロマジュエル」は香りの異なる3種類があり、柔軟剤と一緒に使用できる。同社製の柔軟剤4種類と組み合わせれば、合計12種類。それらから自分の好む香りを選べるようになったのだ。

 給料は増えず、ストレスの多い日々を送っている多くの消費者にとって、香り付き柔軟剤はさほどの金額をかけずに、癒しや元気を与えてくれる商品になった。

 同時に、消費が伸び悩む中で価格下落の圧力に悩まされているメーカーにとって、香りは「ビジネスの種」として認識されるようになった。

 いまでは文房具からスーツまで、あらゆる商品で香り付きが売り出されている。