・出典:ダイオキシン・環境ホルモン国民会議
・『日本人における化学物質のばく露量について2016』 ―環境省がモニタリング調査結果をまとめたパンフレットを発行
事務局・ジャーナリスト 植田武智
日本人の化学物質汚染度を示すデータ
日本に住む私たちの体にはどのような化学物質がどの程度溜まっているのでしょう。
そうした疑問に答えるため、環境省は平成23年度から「化学物質の人へのばく露量モニタリング調査」を毎年実施し、その結果を『日本人における化学物質のばく露量について』というパンフレットにまとめています。
その2016年版が12月に発行されました。
同調査は、各年度、全国から3地域を選定して、40歳から59歳の住民約80人の血液と尿を採取し、様々な化学物質の人体への蓄積量を測定しています。
規模が小さいので日本人の平均濃度とは言えませんが、こうした調査は少なく、日本人の化学物質汚染度を推定する上で貴重なデータです。
血液検査で調べている化学物質は、ダイオキシン類や臭素系難燃剤、有機フッ素化合物(撥水スプレーやフライパンなどのコーティング剤など)、重金属(水銀、鉛、カドミウムなど)、残留性有機汚染物質(PCB や DDT など)。
これらの化学物質は、環境中で分解されにくく、一度体内に入ると脂肪などに蓄積され、なかなか排出されません。
PCB や DDT などはすでに使用禁止になっていますが、40~50年前に環境中に放出されたものが、現在でも人体に残っているわけです。
尿検査で調べている化学物質は、農薬類(有機リン系、ピレスロイド系、ネオニコチノイド系など)をはじめ、環境ホルモン作用のある可塑剤(フタル酸エステルなど)、プラスチック原料のビスフェノールA、殺菌剤のトリクロサン、虫除け剤のディート、保存料・防腐剤のパラベン類などです。
これらは体内へは蓄積されにくく、尿に溶けて排出されますが、日常的に取り込み続けているので問題になります。
高濃度の化学物質が検出される例も
環境ホルモン作用で有名な可塑剤のフタル酸エステル類の一つにフタル酸ジブチル(DBP)があります。
尿中では代謝されフタル酸モノブチル(MBP)という物質として検出されます。
平成25年度の調査データの中に、この MBP の量がとびぬけて高い値を示す例がありました。尿中濃度の中央値が20なのに対して、5200という260倍も高濃度に検出された人がいたのです。
なぜそんな高濃度にばく露しているのでしょう。
環境省の調査では原因までは調べられていません。
しかし海外の研究を見ると、この DBPは最近までマニキュアなどの化粧品の可塑剤にも使用されていて、そうした化粧品を使用した人の体内濃度が格段に高いことが示されています。
日本人の濃度でも有害影響が起こり得るさらに気になるのは、日本人から検出される濃度の化学物質で有害影響が出るのかどうかです。
今号の特集では、ADHD(注意欠如・多動性障害)をはじめ、子どもの発達障害が日本でも増えていることが紹介されています。
その原因として考えられる化学物質の一つに有機リン系農薬が挙げられます。
アメリカの子どもを対象にした研究で、尿中の有機リン系農薬の代謝物(DMTP)の濃度を測り、検出限界以下の子どもたちに比べ、平均値以上の子どもたちでは ADHDのリスクが2倍になっていると報告されています。
そのときの平均値は1.9μg/L です。
これを日本人の濃度と比べるとどうでしょうか。
パンフレット(30頁)に過去の測定事例が報告されており、DMTP の平均値は東京都の住民で5.8μg/L、富山県住民で3.2μg/L でした。
つまり日本人から検出された DMTP の濃度は、有害影響が実際に出ていても不思議ではない値なのです。