2:イソシアネートによる過敏性肺炎と気管支喘息発作を併発した1例 | 化学物質過敏症 runのブログ

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入院中の呼吸 機能検査(Fig. 2)では,気道可逆性試験とメサコリン (methacholine)気道過敏性試験が両者ともに陽性であり, 気管支喘息と診断した.

また,呼気中一酸化窒素(fraction of exhaled nitric oxide:FeNO)濃度も48.5 ppbと高値を示した.

気管支肺胞洗浄液(Table 2)では,総細胞 数の増加,リンパ球分画の増加がみられ,CD4/CD8比 は0.07と低下していた.好酸球の増加は認めなかった. 

職場でイソシアネートを含有したポリウレタン接着剤 を使っていたため,TDI,MDI,HDIの特異的IgE抗 体を測定したところ,すべてが陽性であった(Table 1). 

職場環境曝露試験を行ったところ(Fig. 3),職場にて咳 嗽,息切れ,胸部絞扼感,体温の上昇,白血球数の増加, CRPの上昇,ピークフロー値とSpO2 の低下を認め,帰 院直後の聴診にて呼気時に喘鳴を聴取した.

これらの結 果から,過敏性肺炎と気管支喘息の両方に関して環境曝 露陽性と判断した4).

自宅への帰宅試験では,咳嗽と軽 度のピークフロー値とSpO2の低下を認めたが,白血球数, CRP,体温などには変化がなく,喘息のみ陽性と判断し た.

FeNO濃度は,職場環境負荷試験では明らかに低下 し,病院にて10日目には再び上昇を認めた.自宅環境 負荷試験ではFeNO濃度には変化を認めなかった.

職 場と自宅の環境負荷試験を再度実施したところ,これら の所見に再現性を認めた.

気管支喘息に対しては,吸入 ステロイド薬などによる喘息長期管理を開始し,コント ロールは良好となった.

過敏性肺炎に関しては,退職し てイソシアネートとの接触を避けることとして退院と なった. 考  察 

近年,FeNO濃度測定は,気管支喘息の診断と管理に有用かつ重要な手段となってきている5).気管支喘息以 外の種々の呼吸器疾患(抗酸菌感染症6),気管支拡張症7), 肺癌8)など)におけるFeNO濃度の検討が報告されてい るが,過敏性肺炎に関しては,確立した結果は検索した 限りでは見あたらなかった.

イソシアネート関連喘息に ついては,イソシアネート曝露後にFeNOが上昇する ことが報告されている9).

イソシアネート曝露により気 管支喘息発作と過敏性肺炎が同時に誘発された場合に, 本来喘息の増悪により上昇すると考えられるFeNO濃 度を過敏性肺炎の病態が低下させた可能性があり,非常 に興味深い所見と考えられた. 

過敏性肺炎は,1932年の農夫肺の報告10)以来,多くの 抗原による発症が報告されてきた.

抗原のほとんどは有 機物であるが,1965年に低分子化合物であるイソシア ネートによる過敏性肺炎の症例が報告され11),吸入抗原 として認知されるようになった.

イソシアネートが過敏性肺炎を引き起こす機序としては,イソシアネートがハ プテンとして働き,血清アルブミンと結合することに よってIgG依存性のアルサス反応(III型アレルギー) や遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)を起こすと考えら れている2). 

一方,気管支喘息は主にI型アレルギーによって引き 起こされる疾患である.

しかし,イソシアネート関連の 気管支喘息では,I型アレルギーに関連が強い特異的 IgE抗体ではなく,特異的IgG抗体陽性の症例の方が多 く,IgG抗体の方がより気道過敏性に関連が強いとの報 告もある12).

また,現在の標準的なFeNO濃度測定法で は肺胞レベルのNO増加を反映しないと考えられるが, 気管支と肺胞のNOを分けて測定したところ,過敏性肺 炎では,肺胞でのNO濃度が上昇していたという報告は ある13)が,気道でのNO濃度の増加を抑制するという報 告は見あたらない. 

イソシアネートに関連した過敏性肺炎は少ないと考え られ,さらにイソシアネート関連の喘息との合併はより 少ないと思われていたが,疫学調査では,イソシアネー ト曝露を受けた群の約1%に過敏性肺炎を起こしている 可能性が示されていること14),イソシアネートに対する 特異的IgG抗体が病態に関係するという共通点がある ことより,同様の症例が数多く隠れている可能性がある. 

したがって,今後イソシアネート曝露を受けている人で は,喘息と過敏性肺炎の両者を発症している可能性を考 慮する必要がある.

また,FeNO濃度についてもさらに 詳しく検討することによって,種々のアレルギー性炎症 のメカニズムについて新たな知見が得られることが期待 される. 

 

runより:あ~怖い怖い(´・ω・`)