13:平成16年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 | 化学物質過敏症 runのブログ

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2.ホルムアルデヒド及びトルエンの長期曝露が視床下部―下垂体―副腎軸に及ぼす影響 
 
研究協力者 佐々木文彦、ドウイ ケスマ サリ、桑原佐知(大阪府立大学大学院) 
 
(1)研究目的 最近、環境中に存在する多種類の微量な化学物質が人体に種々の疾病を引き起こす本態性 多種化学物質過敏状態(Multiple Chemical sensitivity: MCS)の研究が重要視されている1, 2)。 

なお低濃度ホルムアルデヒドにより惹起されることが知られているシックハウス症候群につ いては社会問題として取り上げられている。

家屋内で発生するホルムアルデヒドの曝露とシ ックハウス症候群罹患との関係が研究され 3, 4)、特に、低濃度のホルムアルデヒド曝露とヒト 5)、ラット2)やマウス 7)の呼吸器の疾病との関係がこれまでに研究されてきた。

さらにトルエ ンについてもホルムアルデヒドと同様の症状を発症させるとして認められている7)。トルエ ンは、接着剤、ラッカー、ペンキなどの成分に含まれ、広く産業界で使用されている8-10)。 

視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸はあらゆるストレスに対応し、ホルムアルデヒドの様な化 学薬品曝露に際してもそのストレスを解消する 11-13)。

しかしながら、低濃度のホルムアルデ ヒドやトルエン曝露が HPA 軸にいかなる効果を及ぼすかについては報告がないのが現状であ る。

したがって、本研究の第一の目的は低濃度ホルムアルデヒド曝露が HPA 軸に如何なる影 響をもたらすかを免疫組織学的方法、計量学的方法、半定量的 RT-PCR 法を用いて解明するこ とである。

又、シックハウス症候群に罹患する患者の多くは、アレルギーを発症している女 性である事から、卵白アルブミンを前処理したアレルギー発症メスマウスの HPA 軸が低濃度 ホルムアルデヒドの曝露でどのようになるかを検討する事が第二の目的である。

更に、第三 の目的は、アレルギーを惹起しないトルエンを前処置したマウスの HPA 軸が低濃度ホルムア ルデヒド曝露でどのように反応するかを検討する事により卵白アルブミン処理で惹起したア レルギーの意義を解析する事である。

最後に、トルエン曝露とアレルゲンが HPA 軸にどの様 な影響を及ぼすかを検討することが第四の目的である。このような 4 年間の実験を総合して、 MCS の中でも病態が広く研究されてきたシックハウス症候群の発症の機構を解明すること並 びにそのモデルマウスを作成することが本研究の主目的である。 
 
(2)研究方法 1)動物 日本エスエルシー株式会社より8週齢の成熟メスマウス(C3H/He)を購入し、2週間の馴 化後実験に使用した。

マウスをホルムアルデヒド曝露群(A 群)、アレルギー発症群(B 群)、ト ルエン前処置群(C 群)と低濃度トルエン曝露群(D 群)の4群に分類した。

さらに、A 群では 80ppb、400ppb、2000ppb の濃度で12週間ホルムアルデヒドを曝露し、曝露しないマウスを 対照に用い、それぞれ 80、400、2000 と 0 群とした。

B 群では抗原として卵白アルブミン(OVA) をホルムアルデヒド曝露開始前に10μg/マウスの濃度で2mg alumとともに腹腔内に投与し、 以降 OVA を 3 週間ごとに腹腔内に投与した。

ホルムアルデヒド曝露は、A 群同様に行い、80、 400、2000 と 0 群とした。C 群では、500ppm のトルエンを経気道曝露後、ホルムアルデヒド曝露は、A 群同様に行い、80、400、2000 と 0 群とした。

D 群は、非アレルギー(NAG)とアレ ルギー(AG)マウスに 0ppm か 50ppm のトルエンを 12 週間曝露した。

合計 34 群の内それぞれの 群は、10 匹づつのマウスから成り、5 匹は形態学的観察に、他の 5 匹は下垂体の ACTH-mRNA 発現の観察に使用した。体重測定後、視床下部、下垂体、副腎を採取した。

副腎は、ブアン の液で固定し、全ての試料採取後重量を測定し、絶対重量と相対重量(副腎絶対重量/体重) で示した。 
 
2)視床下部室旁核の CRH-(免疫陽性)ir ニューロンの解析 視床下部をブアンの液で固定し、アルコール系列で脱水後、パラフィン包埋 した。光学顕微鏡用のミクロト―ムで 10μm の連続切片とし、ガラススライドに塗付した。 

切片をキシレンで脱パラフィンし、ヒト CRH 抗体(希釈倍率:1:1,000)を用いて免疫染色(ABC 法)し、核はヘマトキシリンで対比染色した。

二次抗体としては、ビオチン標識抗ウサギ IgG (Vector Laboratories, Inc., USA)を用い、ジアミノベンチジン(Zymed Laboratories, Inc., USA)で発色させた。

結果を光学顕微鏡で観察した。室旁核を含む切片を 4 枚ごとに選択し、 CRH-ir 細胞数を数えた。

数えた切片の数は各群7~8 枚である。

室旁核中の CRH-ir ニューロ ン数(T)は、下記の公式に代入して求めた。

T = n/? × ΣN?(n:それぞれの動物の室旁核 を含む全切片数;?:選択した切片数)。 
 
3)下垂体前葉の ACTH 細胞の解析 3-1)免疫組織化学による解析 下垂体を 10%ホルマリンで固定し、アルコール系列で脱水後、パラフィンに包埋した。

パ ラフィンブロックを 10μm の連続切片とし、キシレンで脱パラフィン後、ヒト ACTH 抗体(希 釈倍率:1:1,000)にて ABC 法を用いて免疫染色し、核をヘマトキシリンで染色し、光学顕 微鏡で観察した。

二次元画像解析装置Cosmozone-1SBを用いてACTH-ir陽性細胞を計測した。 

パソコン画面上に 1 辺が 40μm の正方形を描き、倍率 400 倍の顕微鏡像を投影し、画面上に 存在する核を持つ免疫陽性細胞と全核数を数えた。

ただし、正方形内に存在する免疫陽性細 胞と核並びに上辺と左辺にまたがるものは数えるが、下辺と右辺にまたがるものは除外した。

 このようにして、ACTH 免疫陽性細胞の出現率と数は、下記の公式に代入して求めた。

 ACTH-ir 細胞の出現率(%) = (免疫陽性細胞数 ÷ 全核数)× 100。 

下垂体前葉実質細胞の絶対数(T)= N3/2 × V/403 (N : 402 μm2中に存在する平均の 核数;V:下垂体の体積)。 

3-2) 下垂体の半定量的 RT-PCR による ACTH-mRNA の発現量の測定  下垂体を採取後直ちに液体窒素で凍結し、使用するまで-70℃の冷凍庫中で保存した。 

組織を TORISOL(Life Technologies, Inc., USA)中でホモジナイズし、total RNA を抽出した。 2μg の total RNA、オリゴ dT プライマーおよび逆転写酵素を用いて cDNA を鋳型 DNA として、 マウス ACTH に対するプライマーを使い、PCR により増幅させた。

PCR 産物は、アガロースゲ ルで電気泳動し、得られたそれぞれのバンドについてその強度を比較することにより、 ACTH-mRNA の発現の測定を行った。

なお、得られた PCR 産物は、DNA シークエンスにより ACTHであることを確認している。 
 
(3)研究結果 1)A(NAG)群(OVA-) 1-1) 体重、副腎重量、下垂体前葉体積 結果を Table 1 の NAG (OVA-)群 に示した。

体重、副腎重量、下垂体前葉体積は、曝露(80、 400、2000)群と対照(0)群で差がなかった。 1-2)視床下部室旁核の CRH-ir ニューロン数 CRH-ir ニューロン数は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig. 1)。 1-3)ACTH-ir 細胞の出現率、数 ACTH-ir 細胞の出現率(Fig. 2)、数(Fig. 3)は、ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加し ていた。 1-4)半定量的 RT-PCR による下垂体内 ACTH-mRNA ACTH-mRNA の発現量ホルムアルデヒド曝露量依存的に増加していた(Fig. 4)。