12:平成16年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3)結果 低濃度ホルムアルデヒド長期曝露マウスの嗅上皮の解析  ヘマトキシリンーエオジンおよびニッスル染色で嗅上皮を観察した結果、細胞数の減少や上皮の厚 さについて、グループ間で差は認められなかった。
Olfactory marker protein (OMP)は嗅細胞に特有 に存在する蛋白質で、成熟嗅細胞のマーカーとして利用されている。OMP の抗体を用いて曝露嗅粘膜を観察した。 
嗅上皮下半層部にOMP 陽性細胞が観察され、粘膜固有層にはOMP陽性の嗅神経の束が走っ ているのが観察される。
これらの染色性に関して、グループ間で染色性に特に有意な差はみとめられ なかった。
これは、嗅細胞は、曝露の影響で変性死滅することにより、成熟が止まったりその数を減 少することなく、嗅上皮に存在することを意味する結果である。  
嗅細胞の上皮表面に突出している嗅小胞や繊毛および支持細胞の微絨毛の形態異常を示すマウスは 2000ppb 曝露グループでわずかに認められた。
認められた形態異常は変性像としては軽微なもので、機 能障害を示すほどのものでないと思える。 
 
嗅球ニューロンの解析   糸球体を取り囲む傍糸球体ニューロンの一部はドーパミンを含有してている。(THはドーパミン合 成酵素群の律速酵素である)。
ドーパミンの存在意義はいまだ不明であるが、共存する GABA の抑制機 能を修飾していると推測されてる。
たとえば、嗅上皮を破壊したりあるいは鼻腔をふさぐなどして嗅 神経の活動を抑制すると、TH量あるいはTH陽性細胞が減少することが知られている。
したがって、嗅 神経の活動をモニターするのには、大変有効である。  
そこで、TH抗体により免疫染色し、染色された細胞数を計測した。嗅球糸球体はほぼ一定の大きさで 同心円状に並んでいる。
嗅球背側の TH 陽性ニューロンを1糸球体あたりの数で示した結果が図1であ る。
0 ppb 群に比べて 400,2000 ppb 曝露群で有為に TH 陽性細胞が増加している事が明らかになった (Hayashi et al, 2004)。
これは、曝露の結果THの合成が高まり免疫的に染色された細胞数が増加し た結果と考えられる。
THはドーパミン合成酵素である、したがって、ドーパミンの含有量も増加してい ると推測される。  Calbindin 陽性ニューロンは糸球体および外叢状層に存在する。
それぞれを計測した結果、ホルムア ルデヒド曝露による影響は認められなかった。
Parvalbumin 陽性ニューロンは外叢状層に存在する。
こ のニューロンを計測した結果、曝露群で増加する傾向が認められた。
この結果、嗅球に存在する Ca 結 合タンパク質含有ニューロンも、ホルムアルデヒド曝露の影響を受けている事があきらかになった。 
 嗅球のドーパミンニューロンが低濃度ホルムアルデヒド長期曝露の影響を受け、その細胞内発現量を 増加させている事が明らかになった。
これらのニューロンは、GABAと共存していることから、抑制的に 働いている。
したがって、嗅球における抑制機構が高まっていると考えられる。
持続的な曝露によるホ ルムアルデヒドの刺激を抑制する機構が働いている可能性を示唆するものである。 
 
大脳辺縁系ニューロンの解析   大脳辺縁系は大脳の中心である大脳新皮質の縁を構成する部位の総称である。 
主なものは、海馬、梨状葉、扁桃体などである。
このうち、嗅球から投射するものは、梨状葉皮質、扁 桃体内側核である。
そこで、これらの部位のホルムアルデヒド長期曝露の影響を解析した。  
Ca結合タンパク質はニューロンに存在し、Caの輸送あるいは細胞内のCaバッファーとしての役割を 持つと言われている。
また、脳内に広く特異的に分布するので、ニューロンのマーカーとしても用いら れている。
嗅覚系のCa結合タンパク質含有ニューロンでは、GABAニューロンと共存し、活動依存的に その発現が変化する事が報告されている (Kemppainen & Pitkanen 2000)。
おそらく、ニューロンの活 動を抑制的に調節する役割を持つものと考えられる。
したがって、嗅覚系のニューロンの活動をモニターするのに有効であると考え、免疫細胞化学的に解析した。  
Ca結合タンパク質のうちParvalbuminの免疫細胞化学法により、曝露の影響を解析した。 扁桃体のなかで嗅球から投射する部位は扁桃体皮質核である。
そこで、扁桃体皮質核と梨状葉皮質で、 Parvalbumin 陽性ニューロンの数を計測した。
表に単位面積当たりの陽性ニューロン数を各曝露群ごと に示してある。
扁桃体皮質核および梨状葉ともに曝露された個体で、Parvalbumin 陽性ニューロンの数 が増加する傾向を示す(図2)。  
Ca結合タンパク質のうちCalbindinの免疫細胞化学法により、曝露の影響を解析した。 
扁桃体皮質核と梨状葉皮質で、陽性ニューロンの数を計測した。
単位面積当たりの陽性ニューロン数を 各曝露群ごとに示してある。
扁桃体皮質核では、および梨状葉で曝露された個体で、陽性ニューロンの 数が増加する傾向を示す(図3)。 
 Ca 結合タンパク質陽性ニューロンの免疫細胞化学的解析の結果、ホルムアルデヒド長期曝露により、 Ca 結合タンパク質含有ニューロンが増加することから、嗅覚系が強く関わる大脳辺縁系に影響を及ぼ していることが示唆された。
Ca 結合タンパク質含有ニューロンは、GABA と共存し、活動依存的にその 発現が変化する事が報告されている。
おそらく、ニューロンの活動を抑制的に調節する役割を持つもの と考えられる。
ホルムアルデヒドの持続的な刺激を抑制機能により解除するような脳内メカニズムが働 いている可能性を示唆する。
扁桃体は本能行動、特に摂食や情動に強く関わっている、また、視床下 部との神経連絡も密であることから、ストレスと密に関わる自律機能や内分泌機能への影響も考えら れる。 
 
(4)考察  ホルムアルデヒドの低濃度長期曝露により、嗅球のドーパミンニューロンおよび大脳辺縁系の Ca2+ 結合タンパク質陽性ニューロンすなわち GABA 抑制ニューロンの一部が曝露群で増加している結果を得 た。
これは、持続的に刺激が嗅覚系に入力するため、これを抑制する必要から、抑制性ニューロンの 活動が高まり、この結果免疫陽性ニューロン数が増加したものと推測される(図4)。
これら抑制性ニ ューロンの活動の増強が動物の脳にどのような影響を与えているか推測の域を出ないが、少なくとも嗅 覚系においては、ホルムアルデヒドの持続的な刺激を抑制機能により解除するような脳内メカニズムが 働いていると思われる。