10:平成16年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・5.ホルムアルデヒド曝露後の自発運動量の観察、およびホルムアルデヒドあるいはトルエ ン吸入曝露によるマウスのくしゃみ様症状の定量 MCS の動物モデルを用いての行動毒性試験で中枢神経刺激薬に対する感受性亢進の有無が 報告されている。
そこで、移所運動活性へのホルムアルデヒド曝露の影響について検討した。 
2000ppb の3ヶ月曝露で運動活性の増加がみられ、また、くしゃみ様行動の増加も認められ た。次に、無刺激の自発運動のみを経時的に測定し、曝露中に観察されたくしゃみ様行動を 定量化し、曝露の影響を評価するとともに、OVA 感作との関連についても検討した。
その結 果、移所運動活性の観察においては、低濃度ホルムアルデヒドの曝露影響は観察されなかっ た。
くしゃみ様行動回数の変化に関しては、曝露2ヶ月時ですでに曝露濃度依存的なくしゃ み様行動の増加が観察された。
曝露終了時点でのくしゃみ様行動の回数はさらに増加し濃度 依存性を認めた。また、OVA の感作により非感作群に比べ有意な増加を認めた。
また、曝露 期間の増加にしたがってくしゃみ様行動回数が増加していること、くしゃみ様行動回数だけ でなく、くしゃみ様行動の発症率においても曝露濃度の増加に依存していることが観察され た。
次に、C3H/NeN マウスにおいてトルエンを前曝露した群および OVA 感作した群、さらに 肥満細胞欠損モデルマウスについてホルムアルデヒド 3 ヶ月曝露終了時におけるくしゃみ様 行動を観察した。
その結果、C3H/HeN マウスにおいてはこれまでの結果同様にホルムアルデ ヒドの曝露濃度依存的にくしゃみ様行動の増加が観察された。
また、トルエン前曝露の影響 は認められなかったが、OVA を感作することにより有意にくしゃみ様行動の頻度が増加し、 80ppb においても有意なくしゃみ様行動の増加が認められた。
一方、肥満細胞欠損モデルマ ウスと正常マウスの比較においては、有意なくしゃみ様行動の違いは認められなかった。
こ のことから、観察されたくしゃみ様行動に肥満細胞が関与していないことが示唆された。 
以上、低濃度ホルムアルデヒド曝露によりくしゃみ様行動の増加が観察されたが、50 ppm トル エン濃度ではくしゃみ様行動の誘発はみられなかった。

・6.その他の影響 6-1)化学分析による曝露指標 低濃度ホルムアルデヒド曝露における曝露指標の開発を目的として、高速液体クロマトグ ラフィ(HPLC)によるマウス末梢血におけるホルムアルデヒド-ヘモグロビン付加体濃度測

定を試みた。末梢血をヘパリン採血した後、生理食塩水で洗浄後、蒸留水を加えて溶血した ものを測定試料とした。反応試薬として cyclohexane-1,3-dione を用い蛍光検出器で測定す る方法は、感度が高いがブランク値も高値を示し、サンプル調整中の汚染の可能性なども含 め測定法改良の必要性が示唆された。次に 2,4-Dinitrophenyl hydrazine Hydrochloride (DNPH)との反応による方法を試みた。この方法では、広い濃度域において直線性を認め、検 出法としての有用性が示唆された。しかしながら、本方法による測定結果はホルムアルデヒ ドを曝露しないコントロールから 2000ppb 曝露群までいずれも、ほぼ同様の値を示し、この 程度の曝露域においては、曝露後の生体内における速やかな代謝の影響もあり、化学分析に よる曝露指標を得ることが困難であり、今後さらに検出方法を改良して検討を加えていく必 要性が示唆された。またトルエンの曝露指標として尿中代謝産物である馬尿酸を測定したと ころ曝露直後には高く翌日には正常レベルに戻っており経気道曝露により確実にマウス生体 内に取り込まれていることが確認された。 
 
6-2)低濃度ホルムアルデヒドおよびトルエン曝露によるマウス気道粘膜上皮細胞の変 化と炎症細胞の動態についての形態学的検索  低濃度ホルムアルデヒド(最大で 2000ppb)および 50ppm トルエンの 12 週間吸入曝露による病
理学的変化について検討した。今回用いた濃度域における吸入曝露では、いずれの物質において
もマウスにおいて気道粘膜上皮細胞の著明な剥離や扁平上皮化生、腫瘍変化等を生じなかった。
また明らかな炎症性細胞の浸潤もなく、肥満細胞の分布にも変化はみられなかった。一方、アレ
ルギーモデルとして作成した OVA の吸入曝露群においては、気道粘膜変化として肥満細胞の浸潤
が観察されものの、OVAとホルムアルデヒドの両者による相乗効果は光顕的に確認されなかった。 
 
7.まとめ 低濃度のホルムアルデヒドを C3H マウスへ長期(3 ヶ月)にわたり曝露することにより、 嗅覚系におけるドーパミンニューロンの活動の増強、視床下部―下垂体でのホルモン産生の 障害、脳内海馬におけるシナプス伝達の異常、アレルギー性炎症モデルでの NGF の変動、 くしゃみ様症状の増加などが確認された。

これらの結果は、低濃度ホルムアルデヒド曝露が 嗅覚系を介して神経―内分泌―免疫軸を過敏な状態に導く可能性を示唆している。

また、ア レルギーモデルにおける嗅覚での変動はわずかではあるが、低濃度化学物質曝露とアレルギー状態の共存とにより、より脳神経―免疫軸への作用を増強させることが推察された。中毒学領域としてとらえられていない濃度域での反応や通常のアレルギー状態とは異質の反応が観察されたことは、低濃度曝露がなんらかの反応異常を神経―免疫系に引き起こす可能性は否定できない。

今後、動物モデルにおいてはアレルギー感作状態の併用効果に見られる機構の解析、化学物質特異性に係わる遺伝的な素因の検討、低濃度域での複合化学物質曝露による影響解明などの研究がMCSの解明により重要と考える。

 

runより:まだまだ続く記事なのですが一旦終了してたまったネタから書いていきます。