Ⅲ.結 果
A. 薬物代謝酵素発現の評価
薬物代謝酵素群として、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ酵素群(GSTs)
を評価した。GSTs として、GSTM1、GSTT1、GSTP1 の3種を検討した(表-2 ・図-1 参照)。
表-2 各症例における GSTs 群の発現について 症例 (ID) GSTM1 GSTT1 GSTP1 Type
1 (G643) 欠 損 欠 損 欠 損 1不完全
2 (G645) 欠 損 発現あり 欠 損 1不完全
4 (G642) 発現あり 欠 損 欠 損 3
5 (G644) 欠 損 欠 損 欠 損 1
6 (G507) 発現あり 発現あり 発現あり 3
Ⅳ. 考 察
本態性多種化学物質過敏状態の発症機序、本態、さらにはその存在についてさえ、なお議論が続けられている。
本年度研究は前年度までの(平成12年~平成 15年度)の二重盲検曝露負荷研究の結果・検討会における討議・本症に関する内外の研究動向を踏まえて、微量化学物質に対して過敏性を自覚している被験者の遺伝的特性、神経眼科学的特長を確認するために行われ た。
遺伝的特性については、薬物代謝酵素の発現に注目し、特に薬物代謝第 2相のグルタチオン抱合反応に重要な役割を担うグルタチオン-S-トランス フェラーゼ群の評価を行った。
さらに DNA マイクロアレイ法を用いて、患 者群と健常者群における約4万種遺伝子の発現パターン(強度)を評価した。
神経眼科学的特長については、眼球電位図を用いた眼球運動評価および高位視覚中枢の昨日検査である視覚空間周波数特性検査を評価した。
その結果、これまでの曝露負荷による症状のみの評価では本態性多種化学物質過敏状態を有する被験者の多様性と不安定性のために、各自覚症状スコアの変動に科学的に有意な結論は見出せなかったが、遺伝的特性・神経眼科学的検査においては、明らかに健常者の基準から外れる特徴のある集団であることが今回の試験結果からは示唆された。
しかしながら今回の試験は極端にサンプル数が少なく、マイクロアレイのパターンで患者において変動を見せた遺伝子の機能は、全ては把握されていないことから、その変動の生物学的意義も現在までのところは全く不明である。
結果が、微量化学物質曝露で自覚症状を呈する集団の特徴であるか否かについては、今後さらに慎重な検討が必要であると判断された。
Ⅴ.結論と今後の課題
本年度の研究は、これまでの研究の総括として、前年度に微量の化学物質曝露による症状誘発の有無を確認した被験者に対する遺伝的・神経学的特長を明らかにするために施行された。
本態性多種化学物質過敏状態と診断された集団の傾向として、薬物代謝酵 素(GSTs)を欠損している例が多いこと、健常者の集団と一部異なる遺伝子発現パターンを有すること、神経学的に明らかに異常所見を有する者が多いことが推察されたが、母集団が極めて小さいことから、これらの結果と過敏状 態との関連性は未だ断定することは出来なかった。
*本研究で採用した、本態性多種化学物質過敏状態の診断基準を示す。
旧厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班(班長:石川哲)による