4:平成15年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究研究報告書 | 化学物質過敏症 runのブログ

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(3)平成 15 年度症例の曝露検査結果:まとめ・小考察   本年度における混合負荷曝露前後の自覚症状の解析では、9名中、プラセボ負荷 では、負荷前後における自覚症状スコアの有意な差が認められず、曝露1回目、曝露 2回目のみで、自覚症状スコアの有意な差が認められる「Type1」に相当するのは、 症例5の1名のみであった。

また、プラセボ負荷では、負荷前後における自覚症状ス コアの有意な差が認められず、曝露1回目あるいは曝露2回目のどちらかで、自覚症 状スコアの有意な差が認められる、いわば「不完全なType 1」が、症例1、症例2、 症例9の3名、プラセボ負荷のみで、自覚症状スコアの有意な差が認められる「Type 4」に相当したものは、症例7、症例8の2名、症例3、症例4、症例6については、 いずれの負荷においても自覚症状スコアに有意な差が認められない「Type 3」に相当 した。

よって、プラセボ負荷においては、症状の出現・悪化は認めないが、混合負荷 においてのみ自覚症状の出現・悪化が認められた症例が存在したものの(曝露1回 目・曝露2回目の再現性に乏しい不完全な症例も含めて)、日常的に化学物質に対し
 
て過敏性を有すると自覚している被験者の特徴を捉えるのに、前年度まで施行したホ ルムアルデヒド単独負荷と比較して、ホルムアルデヒド+トルエン混合負荷が、より 有利であるという結果を得ることは出来なかった。 

即ち、日常的に化学物質に対して過敏性を有すると自覚している多種多様な愁訴を呈 する集団から、それらの愁訴が、微量化学曝露がどの程度関与しているかについて、 高い信頼性をもって評価するのは、曝露負荷前後における自覚症状の比較のみでは、 困難であるとことを今回の結果は示していると判断できる。 
 
B.バイタル所見、および呼吸機能検査(ピークフロー)  すべてのバイタル検査は入室30分間を過ごして、安定化した後に実施した。 
 
(1) 脈拍数  負荷前後の脈拍数を表B-1に示した。

プラセボを含めて、ガス負荷後に脈拍数 の変動は被験者間で一定の傾向は認めず、負荷後の脈拍数の変動について、t検定 を用いて比較したが、各群間には有意差は認められなかった。ガス負荷による自覚 症状の出現は、この負荷に対する緊張よりも高いときに、初めてスコアに表現され ることを示していると考えられた。   

(2)血圧  プラセボを含めてすべてのガス負荷で、負荷後に血圧の低下を示している傾向が 認められた(表B-2)。その血圧の変動値をt検定で比較を行ったが有意差が認め られなかった。被験者がガス負荷に対して緊張感をもって臨んでいることが分かる。
(3)体温  表B-3に示すように、負荷後体温の低下を示す患者は、プラセボ負荷で9名中 3名であり、曝露1回目で3名、曝露2回目では2名であった。

その体温の低下値 を比較したが、t検定で有意差が認められなかった。

体温上昇は、プラセボでは9 名中4名、曝露1回目では5名、曝露2回目では2名であった。

いずれにせよ、一 般生理学的変動の範囲内であり、本負荷試験において体温解析が有用であるという 結果は、今回得られなかった。 
 
(4)経皮的動脈酸素飽和度(SPO2)  表B-4に示すように、各群間の t 検定ではまったく有意差が認められなかた。 

しかし、本態性多種化学物質過敏状態の患者に負荷試験を行い、肺機能、PCO2、 PO2 を測定した結果では、過換気が生じ、PCO2 が減少したが、PO2 は変化を示 さなかったとの報告(Leznoff A: Provocative challenges in patients with multiple chemical sensitivity. J Allergy & Clinical Immunol 99: 438-442, 1997)があり、 不安からの過換気によるものとしているが、本年度の結果では過換気を呈したと判断できる例は認めなかった。   

(5) 呼吸機能検査(ピークフロー)  ガス負荷前後における気道抵抗変動の評価としてピークフロー値を評価した.。

表 B-5に示すように、プラセボ負荷も含め負荷後低下する傾向が認められた。

特に 曝露1回目では、9名中6名において低下が認められた。

しかし、統計学的群間比 較では(t検定)、有意な差は認めなかった。 

本態性多種化学物質過敏状態の呼吸器症状については、すでに関心が持たれてい きている。上部気道に関しては、反応性気道機能障害症候群(reactive airway dysfunction syndrome)や反応性上部気道機能障害症候群(reactive upper airway dysfunction syndrome)と本態性多種化学物質過敏状態が重なり合うところが多い 疾患であることが報告されている(Meggs WJ: Hypothesis for induction and propagation of chemical sensitivity based on biopsy studies. Environ Health Perspective 105: Suppl 2: 473-478, 1997)。

上気道の粘膜上皮の障害、末梢神経線 維の増殖などを報告している。

その他にも、本態性多種化学物質過敏状態の呼吸器 障害に関しての展望もなされている(Bascom R: Multiple chemical sensitivity: a respiratory disorder. Toxicol & Indust Health 8: 221-228)。