・4.2 農薬への曝露によるMCS
アシュフォードとミラー(1998)によれば、有機リン系及びカルバミン酸系殺虫剤はいくつかの調査でMCSの可能性ある原因として強調されてきた。
はじめは典型的な急性中毒であり、時には中枢神経の中毒による慢性症状を伴うことがあり、後にMCSの定義に対応して、いくつかの器官で広範な症状が出る。
アメリカのMCS被害者の患者組織によれば、6800人の会員の80%は自分たちがいつ、どのようにして、どのような物質によって具合が悪くなったか知っている。
60%の会員は、最初に具合が悪くなったのは殺虫剤に曝露した後である(Ashford & Miller, 1998)。
タバショー(1966)は、有機リン急性中毒になったカリフォルニアの114人の農場労働者について報告した。
これらのうちある人々は後にMCS様の症状になった。
中毒してから3年後に22人が殺虫剤と有機溶剤に接触すると気分がすぐれなくなると訴えた。
6人が症状が原因で仕事を辞めた。
残りの人たちは仕事で殺虫剤を避けるよう試みた。
最初の集団の内の61人は追跡することができず、彼等のうち何人くらいがMCSのために地域を去ったのか不明である。
コーン(1992)は、ホテルで250人の客がゴキブリ用のカルバミン酸系殺虫剤、プロポキスル(propoxur)に曝露した話を述べている。
多くの客は直ぐに中毒の急性症状を示したが19人は永続性の症状を訴えた。
彼等は産業医療の病院で発症後5~15ヶ月間、診察を受けた。
彼等のうち12人は、ホテルに滞在する前には何も問題がなかった香水、ガソリン、新聞の印刷インク、様々な洗剤、殺虫剤、そして溶剤ベースの製品による匂いに過敏になったと訴えた。
ヨーロッパの8カ国(デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、イギリス、ドイツ、ベルギー、オランダ、ギリシャ)における殺虫剤中毒-そのほとんどは職場環境で発生している-がEUの報告書(1994)に記述されている。
ドイツではピレスロイド系殺虫剤で急性中毒になった23人中8人が後に、カレン基準に対応したMCS症状になった。
これらの人々は臨床検査と研究所でのテストの結果、正常であった(European report, 1994)。
4.2.1 デンマークの現状
庭師、その他の殺虫剤急性中毒のいくつかの症例がデンマークで報告されている(Lander, 2000)。
被害者がMCS基準を満たしているかどうかを示す体系的な調査は行われていない。
ランダーによれば、少人数が温室で殺虫剤を散布する時に匂いに悩まされる。
症状の原因は、殺虫剤に添加されていた芳香性警告物質のためであった(Lander, pers. Com., 2001)。
殺虫剤はMCSに関連して最もしばしば言及される化学物質であるアメリカでの状況とは異なり、デンマークでは殺虫剤を個人が家庭で使うことはあまりなく、従って、使用されるのはほとんど屋外である。