化学物質過敏症患者の日常生活中の症状プロフィール | 化学物質過敏症 runのブログ

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論文の内容の要旨

論文題目 Symptom Profile of Multiple Chemical Sensitivity in Actual Life
和訳? 化学物質過敏症患者の日常生活中の症状プロフィール
指導教官 久保木富房 教授
東京大学大学院医学系研究科
平成 13 年 4 月入学
医学博士課程
内科学専攻
氏名 齊藤麻里子

【目的】 化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity; MCS)は、1987 年に Cullen によって、 特定できる環境内の化学物質への暴露後に発症する後天性疾患として提唱された。

現 在、最も広く使用されている 1999 consensus criteria では 1) 症状は化学物質に繰り返し暴露することで再現する 2) その状態は慢性に経過する 3) 低濃度の暴露で起こる 4) 症状は刺激物質が除去されることによって改善する 5) 互いに関連のない複数の化学物質によって反応が起きる 6) 症状は複数の臓器に及ぶ となっている。

 これらのMCS患者の特徴は、通常the Environmental Exposure and Sensitivity Inventory (EESI)などの質問紙や被験者の記憶に基づいた診察室での問診によって評価されてい る。

しかし、ヒトは無限の記憶力を持つわけではなく、記憶は時間とともに衰え、い くつかの回想における認知過程で記憶に顕著なバイアスがかかる。

一方、MCS 患者 は発症に心理社会的ストレスが関与しており、EESI において感情状態に関する問題があると回答し、精神疾患の合併率も高いと報告されているにもかかわらず、クリー ンルーム内や自宅では身体症状と比べて精神症状を訴えることは少ない。

このことか ら、日常生活中での実際の症状の程度と、それを化学物質に暴露されていない状況で 思い出した症状の程度には乖離があるものと考えられる。

しかし、MCS 患者におい て、極めて微量な複数の化学物質の暴露により、複数の臓器にわたって多彩な症状を 引き起こし、化学物質を回避することによって症状が回復するという定義自体を日常 生活中で確認した研究はない。 

近年、自然な状態で起きた現象を捉え、追想やコンプライアンスの問題を避け、妥 当性の高めた computerized Ecological Momentary Assessment (EMA)が開発された。

 また、吸入誘発試験は低濃度の化学物質に実際に反応するかどうかを検討するのに 用いられているが、少数の化学物質しか評価することが出来ず、日常生活中で症状を 引き起こす物質を評価できているとは限らない。この問題を解決するため、Shinohara らは 1 週間の総暴露量と症状出現時の暴露量を測定できる active sampling (AS 法) and passive sampling (PS 法) methods (AS-PS 法)を開発した。

一方、MCS では同じ領域の疾患とされている慢性疲労症候群や線維筋痛症と同様 に自律神経機能不全を伴うといわれている。

しかし、先行研究では暴露試験中などの 限られた状況下での自律神経機能しか評価していない。

さらに、先行研究では心拍数 や血圧が用いられており、近年、自律神経機能を評価する際に広く用いられるように なった心拍変動を用いた研究はない。 

本研究では、日常生活中での症状を記録するために EMA の手法を、環境中の化学 物質の暴露を測定するために AS-PS 法を、日常生活中での自律神経機能の評価には心 拍変動を用いて、いつ、どこで、何に対してどの程度、患者は MCS の定義に適合す るような精神症状や身体症状を呈し、自律神経機能に異常を来たすかどうかを明らか にする。